【中国とどう付き合うか】(01) 人類史上最大のバブルが弾ける時

20160319 01
2015年の夏場以降、中国における“バブル”崩壊の懸念が急速に強まっている。中国が突如として人民元の切り下げに踏み切ったことをきっかけに、グローバルな金融市場は激震に見舞われた。我々は、中国経済が抱えるリスクをどのように捉えればよいのだろうか? 筆者の中国に対する見方を一言で述べれば、“短期=楽観”“中長期=悲観”である。中国は所詮“社会主義”の国なので、公共投資を中心とするカンフル剤を打てば、問題を1~2年程度先送りすることは可能である。しかし、向こう3~5年程度の時間軸で見れば、中国では“バブル”崩壊のリスクが高まると見ている。最初に、現在の中国には膨大な2つの過剰が存在することを指摘しておきたい。第1の過剰は、金融面での過剰融資である。中国における過剰融資の総額は1000兆円以上と推定される。将来的に、 この内の何割かが焦げ付く場合、数百兆円規模の不良債権が発生することが懸念される。我が国の“バブル”崩壊に伴う不良債権額が100兆円規模であったことを勘案すると、文字通り“人類史上最大のバブル”と言っても過言ではない。第2の過剰は、工場や機械といった所謂“資本ストック”の過剰である。その総額は400兆円以上と推定される。外資を自転車操業的に呼び込んで、資本ストックを増やすことに依って成長する中国の経済成長モデルは、大きな曲がり角に差し掛かっている。これに対して、中国の財政出動余地はどの程度か? 「中国が諸外国並みにストックベースの債務残高を拡大する」という前提の下では、600兆~800兆円規模の財政出動が可能だと推定される。つまり、現在の中国経済を取り巻く状況を極めて単純化すれば、「“1000兆円以上の過剰融資”“400兆円以上の過剰資本ストック”に対して、中国政府が600兆~800兆円規模の財政資金で立ち向かう」という構図なのである。

中長期的に見ると、中国経済は決して楽観視できない。仮に、中国政府が大型の財政出動を行ったとしても、中国が抱える本質的な構造問題は解決しないからだ。中国の成長モデルは最早、賞味期限切れが近付いている。構造問題が山積しており、経済的・社会的な矛盾が臨界点を超えつつある。経済面では、政府との癒着が続く中で、国有企業の改革は遅々として進んでおらず、労働生産性が低迷している。国有企業は利益を配当として政府に還元することなく、非効率な事業への再投資を続けている。経済の牽引役は依然として“箱物”中心のインフラ投資で、経済のサービス化も遅れている。結果として民業は圧迫され、規制緩和等を通じた民間企業のイノベーションは進展していない。社会構造の面では格差が拡大・固定化し、低賃金労働者の不満が溜まっている。社会保障・教育・医療等のセーフティーネットの整備が不十分であることも、消費低迷を助長している。中国には“ネズミ族”という、地下の明かりの無いところで共同生活を送る貧困層が100万人以上存在すると言われている。その多くは、地方からの出稼ぎ労働者(農民工)だ。彼らの部屋に窓は無い。その暮らし振りは、宛ら洞窟で生活するような印象だ。これらの構造問題を根本的に解決しない限り、中国がどれだけ公共投資等のカンフル剤を打っても、それは問題の先送りに過ぎない。将来的には、より一層膨張した“バブル”が弾けるという最悪のシナリオが不可避となるだろう。ここで、中国で“バブル”が崩壊した場合の潜在的なマグニチュードを定量化しておきたい。筆者のシミュレーションに依れば、資本ストック調整が本格化する“メルトダウンシナリオ”では、中国の潜在成長率は1.6%まで低下し、実際の経済成長率は大幅なマイナスに陥る。勿論、一般論として言えば、世界経済のドライバーは依然としてアメリカであり、決して中国ではない。仮に中国経済が少々減速した場合でも、日本経済に与える影響は軽微なものに留まろう。




しかしながら、中国経済が“メルトダウン”する場合には、全く別次元の話となる。その影響は、世界経済を奈落の底に叩き落とす程の強烈なインパクトを持つことになりかねない。中国の政策当局には、自らが置かれた状況を的確に認識した上で、中長期的な構造改革と、短期的なカンフル剤に依る景気刺激策をバランスよく講じて、何とか中国経済を“ソフトランディング”に導くことを切に期待したい。尚、中国での“バブル”崩壊に伴う日本への悪影響は、主に中国向け輸出の低迷と、消去法的な円高進行を受けた他地域向けの輸出低迷という2つのルートから生じる。中国人に依る“爆買い”の消失を懸念する向きもあるが、2014年のデータでは、日本の対中輸出は13.3兆円程度と、訪日中国人の日本での消費額(5600億円程度)の24倍に達する。つまり、中国向けの輸出は中国人に依る爆買いよりも、日本経済に与えるインパクトが遥かに大きいのだ。中国経済の減速に備えて、我が国の政策当局は何をなすべきか? “Do your homework.(自分の宿題をやれ)”という言葉があるが、日本政府は自らの積み残した課題に粛々と取り組むべきだ。現時点では、当初のアべノミクスの3本の矢の中で、“第1の矢”(金融政策)に過度な負担が集中しており、構造改革は若干遅れ気味である。今後は、

①農業・医療・介護といった分野における所謂“岩盤規制”の緩和
②社会保障制度の抜本的な改革を通じた財政規律の維持

等の国民にとって耳の痛い構造改革を断行することが、最大の課題となるだろう。


熊谷亮丸(くまがい・みつまる) 『大和総研』執行役員チーフエコノミスト。1966年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。同大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。『日本興業銀行』『興銀証券』『みずほ証券』『メリルリンチ日本証券』を経て、2007年に大和総研入社。2010年より現職。財務省・総務省・内閣官房等の公職を歴任。著書に『世界インフレ襲来』(東洋経済新報社)・『パッシング・チャイナ 日本と南アジアが直接つながる時代』(講談社)等。


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テーマ : 中国問題
ジャンル : 政治・経済

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