【中国とどう付き合うか】(02) 『AIIB』参加は愚の骨頂…『アジア開発銀行』強化で対抗せよ

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約50ヵ国が設立協定に署名し、2015年末に正式発足の予定となっている中国主導の『アジアインフラ投資銀行(AIIB)』は、日本とアメリカが参加しなかった。一方、西側諸国でもイギリス、フランス、ドイツ、そして韓国等は設立に参加した。資本金1000億ドル(12兆円)と参加国の多さ等から、日本も参加すべきかどうかを巡って賛否両論が入り乱れている。例えば、日本経済新聞は「AIIBの否定や対立ではなく、むしろ積極的に関与し、関係国の立場から建設的に注文を出していく道があるはずだ」(2015年3月20日付社説)と参加を支持し、朝日新聞も「透明で公正な運営が担保されるなら、日本がAIIBに出資することも選択肢の1つになる」(同年4月1日付社説)と条件付きで賛同している。これに対して産経新聞は、「AIIBは中国財政省というよりも、同省を支配する党中央の意思に左右されるだろう」とした上で、「仮に日本がマイナーな出資比率で参加したところで、党中央政治局に伺いを立てるAIIB総裁に影響力を持てるはずはない」(3月29日付日曜経済講座)と反対を表明している。このAIIB総裁には、中国の元財政次官である臨時事務局長の金立群氏が内定している。金氏は、日本が歴代の総裁を送り込んでいる『アジア開発銀行(ADB)』の副総裁を5年間務めていたので、日本にも人脈があり、評判は悪くない。中国としても切り札を出したということで、“中国に依る中国の為の海外インフラ投資の尖兵”という印象を消そうとしているように見受けられる。一方、インドネシアのジャカルタ-バンドン間140kmの高速鉄道で、日本が5年かけて調査し、『政府開発援助(ODA)』を付けて提案まで持ち込んでいた案件に、中国が突如として横入りしてきた。当初の日本案を上回る金融条件だけでなく、工期が3年という荒っぽい提案となって、日本も急遽、対抗案を出さざるを得なくなった。そして最終的に、ジョコ大統領は政府の財政負担の無い中国案を採用することにしたのだ。中国の主導するAIIBは、開発途上国を対象としてのインフラ投資銀行であるから、まさに「このようなインフラ案件をこのようなやり方でやる」ということの具体例として記憶に留めておくべきだろう。

未だに野党や自民党内でも、参加を逡巡していた政府への批判が残っているが、それらは海外インフラビジネスの現場を全く知らない“素人”の議論だ。理由は幾つかあるが、大きく分けると、①儲からない②リスクが高い③国内事情が優先する④個別日本企業にはチャンスもある⑤50ヵ国では纏まらない⑥プロジェクトの評価能力に疑問――が挙げられる。
①儲からない
私は経営コンサルタントとして約40年間、日本企業が手がけた海外インフラプロジェクトを数多く見てきたが、その粗100%が赤字になっている。最近では、『大成建設』がボスポラス海峡のトンネル工事でトルコ政府に「約束のカネを払え」と交渉していること等の記事も躍っているが、古くは香港の地下鉄を手がけた『熊谷組』やアルジェリアの高速道路で『鹿島』と大成が大きな未払い金問題を抱えている等、インフラ事業に纏わるトラブルは枚挙に暇が無い。何故なら、最初から儲かるとわかっているプロジェクトであれば民間金融機関が融資するし、その国が自分で欧米の一流企業を呼んできてやるからだ。また、海外では資材や部品等が予定通りに届かないといったトラブルが日常茶飯事なので、それに依ってコストと時問のオーバーランが頻繁に起きる。よくある契約は、納期が1日延びると全体のプロジェクトフィーの1000分の1のペナルティーが発生する。100日延びると10%のペナルティーだから、それだけで赤字になってしまう訳だ。鉄道・都市交通・有料道路等のプロジェクトでは、予定した運賃収入や通行料収入が上がらない。それを理由に、完成後になって「建設費の残金をまけろ」と要求され、当然ながら赤字になる。次のプロジェクトが欲しい為に泣き寝入りするしかなかったというケースも少なくない。相手が王室や独裁色の強い政府だと、トップとの1対1の交渉になることもあるので、資金回収の為に社長が一々日本から出向かねばならなかったりもする。事程左様に、海外のインフラプロジェクトぐらい難しいものはないのだ。インフラというものは、当該国が時間をかけて税金や有料化で投資を回収するものだ。日本でも国鉄や道路公団が火の車であったように、どこの国でも儲からないものなのだ。どこの国も税金で工事を進めながら、完成すると政治家たちは使用料・通行料を安くして大衆迎合をする。1980年代までに高い“授業料”を払った日本企業は、「海外インフラプロジェクトはODAでしかやりたくない」というところまで追い込まれていた。ODAの“紐付き”であれば、国内の公共事業と同じように代金は日本政府から貰えるので、取りっぱぐれが無いからだ。




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②リスクが高い
一方、こうした政府べったりの姿勢が悲劇を生んだこともある。1996年12月17日に起こった在ペルー日本大使公邸襲撃占拠事件である。当時、ペルーの大統領は日系のアルベルト・フジモリで、日本政府としてはODAで破格の厚遇をしていた。その為、天皇誕生日の祝賀でペルー政府や各国外交官等を招待し、当然ながら日本企業の現地トップもここぞとばかり出席して大パーティーを開いていた。占拠したのは『トゥパク・アマル革命運動』という部隊で、企業と癒着したフジモリ政権を弾劾する地下組織であった。大使館に閉じ込められた600人のリストを見れば、「これぞ、日本のODA受益組の一覧表だ」と見做されるものであった。ODA(特に紐付きODA)は、経済面では安全な受注であるが、現地政府の腐敗や政争に巻き込まれた場合には必ずしも“安全”とは言えないことを、この事件で学習した。その後も、アルジェリアのイナメナス近郊にあった天然ガス精製プラントがイスラム過激派に襲われ、200人近い人質が取られる事件が発生している。この時、現地でプラントメンテナンスに従事していた『日揮』の日本人関係者10人が犠牲になっている。本件はODAではなかったが、途上国におけるインフラプロジェクトは多くの場合、リスクの高い地域で行われることが多いので、仮に経済的に魅力があっても、従事する人には安全面の脅威が常に付いて回る。

③国内事情が優先する
抑々、中国がAIIBを創設する本質的な理由は国内事情である。どういうことか? これまで、中国は世界の歴史に例が無いほど長大・膨大な高速道路・高速鉄道・港湾・空港等を建設し、大がかりな都市開発を推進してきた。例えば、1978年には29しかなかった100万都市が2014年には142に上り、高さ200m以上の超高層ビルが345もあって世界一多く、日本の新幹線に相当する高速鉄道網は総延長が2万5000kmに達する計画だ。ところが、そういうインフラを建設してきた中国国内の鉄鋼&機械メーカー・鉄道車両メーカー・建設会社・セメントメーカー・デべロッパー等の“巨大マシン”が、中国経済のスローダウンに依って今、突如として止まりかかっている。このままでは巨大マシンが設備過剰で崩壊し、国家そのものが破綻しかねない。だから、AIIBを創設してそれらの企業を労働者も含めた“人馬一体”で海外に持っていこうとしているのだ。決して、一部マスコミが解説しているような「欧米先進国の金融覇権に対する中国の挑戦」であったり、「豊富な中国マネーで途上国を潤す」為ではないのである。それにヨーロッパ・アジア・中東等の国々が便乗しようとしている訳だが、甘い幻想と言うしかない。AIIBは、海外で中国企業の仕事を創出することが主日的だから、プロジェクトのメインの部分は中国企業が持っていくだろう。そうしなければ、中国共産党政府は厳しい批判に晒されることになるので、後の国の企業は“刺し身のツマ”になるだけだ。中国主導のプロジェクトの中でそのおこぼれだけ貰っても、何の意味も魅力も無いだろう。

④個別日本企業にはチャンスもある
日本には、インフラプロジェクトの中でどうしても使わなければならない技術を持っている企業が幾つかある。例えば、水処理の半透膜・地熱発電のガスタービン・高速鉄道の保守や運営システム等である。そうした企業は、日本がAIIBに出資していなくても、現地政府から随意契約で参加を要請されるだろう。

⑤50ヵ国では纏まらない
12ヵ国参加の『環太平洋経済連携協定(TPP)』の交渉が難航したことを見ればわかるように、パイの取り合いで必然的に利害の対立する国が50も参加するとなれば、話が纏まる訳がない。G8がG20になっただけで利害の対立が起こり、機能不全に陥っている。50ヵ国が12兆円の資本金に群がっていれば、「どのプロジェクトを優先するのか?」「どこまで海外資金でやるのか?」「資金回収のスキームをどうするのか?」「プロジェクトの参加比率を出資国がどのように分け合うのか?」「競合企業がいた時に、誰がどのような理屈で受注するのか?」等を巡って意見が対立するだろう。中国には、主導権を取って捌けるだけの海外プロジェクトの経験も無いし、元々欲の塊みたいな動機で参加している他の国が素直に引っ込むとも思えない。金立群総裁が参加国に平等、又は有利な采配をすれば、中国共産党中央から次第に圧力が増して辞任に追い込まれるのが関の山だろう。『世界銀行』『国際通貨基金(IMF)』『アジア開発銀行』等の運営は、長い間に其々アメリカ・ヨーロッパ・日本から総裁を出すという習慣が出来上がり、それらの国があまり非難されないように出資国に目配りしながら作業が進められてきた。中国もそうする可能性もあるが、国内マシンの捌け口の為に出資金12兆円のうち30%も出し、事実上の拒否権を握っている理由は、当然ながらチャリティーの為ではない。

⑥プロジェクトの評価能力に疑問
糅てて加えて、新参のAIIBはプロジェクト評価の経験を積んでいないから、世界銀行やADBが既に検討して止めているようなプロジェクトに手を出して大失敗する可能性が高い。世界銀行も、昔から図們江河口のデルタ地帯開発を検討してきているが、未だに本格的なプロジェクトになっていない。ここは中国・北朝鮮・ロシアの3ヵ国が国境を接する軍事的にも商業的にも重要な拠点であるが、だからこそ当該国の思惑が入り乱れて、中々第三者が公平なプランを描き難い。長い間調整してきた結果、結局、「自国にできることを自国内で」ということになり、世界銀行の役割はいつの間にか立ち消えとなってしまった。インドの高速鉄道も、モディ政権になってからはアーメダバードを中心に考えられるようになってきたし、インドネシアもジャカルタ中心に考えて、近場のバンドンまでの路線が考えられている。

以上の考察のように、これから日本がAIIBに参加するのは愚の骨頂であり、抑々参加を検討する価値すら無い。アメリカの意向を窺いながら迷っている姿は実にみっともないし、少しでもAIIBのおこぼれにありつこうとして政府に参加を働きかけている財界も節操がない。日本企業が海外のインフラプロジェクトで味わってきた悲哀を、“お手並み拝見”と高みの見物をしていたほうが(末席を汚すよりも)すっきりする。その一方で、日本がアメリカと共に最大の出資国であり、財務省が総裁を送り込んで主導しているADBを強化し、AIIBに対抗していくべきだと思う。そうすると、恐らく案件毎にぶつかり、プロジェクトに依ってはAIIBとの共同ファイナンスになるだろう。その場合、参加する企業のほうも「ADB側とAIIB側で仕事を折半しましょう」という話になってくるに違いない。これなら、プロジェクト別にADBとAIIBが対等な関係になるので、世界の国々も日本を大いに評価する筈だ。他人の褌で相撲を取るよりも、足下を固めるほうが賢明ということになる。


大前研一(おおまえ・けんいち) 『㈱ビジネス・ブレークスルー』代表取締役社長・『ビジネス・ブレークスルー大学』学長・『㈱大前・アンド・アソシエーツ』創業者兼取締役・韓國梨花女子大学国際大学院名誉教授・高麗大学名誉客員教授。1943年、福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。『日立製作所』『マッキンゼー・アンド・カンパニー』勤務を経て現職。『訣別 大前研一の新・国家戦略論』(朝日新聞出版)・『原発再稼働最後の条件 “福島第一”事故検証プロジェクト最終報告書』(小学館)等著書多数。


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