【中国とどう付き合うか】(04) 習近平vs江沢民…暗闘は終わっていない

20160319 05
2015年7月下旬、各国情報機関の“目”は中国北東部の渤海沖に注がれた。北京から東へ約300km離れた河北省北載河。数百m沖合のブイを複数の国の偵察衛星が捉えた。毎夏、中国共産党幹部が避暑地に集まり開かれる『北載河会議』は、“夏の中南海”とも呼ばれる。会議は開催自体も公にされない為、警備用のブイ敷設が会議開催を察知する重要な手がかりとなるのだ。各国がそれほど注目するのは、党の重要な政策や人事がこの非公式会議で決められるからだ。指導部が作った原案について長老に伺いを立てて、了承を得る。2007年の会議では、習近平と李克強が次の最高指導部入りすることが決められた。2012年には、習を頂点とする新たな政治局常務委員のメンバーが内定した。何れも総書記(当時)の胡錦濤が作った人事案に前任の江沢民が猛反発。スキャンダルや弱みを暴露する、まさに血で血を洗う暗闘が繰り広げられた結果、江が優勢の人事案に変更された。中国共産党の“長老政治”の象徴と言える会合だ。北京の記者や外交官にとって、この秘密会合での議論の中身に迫ることが中国共産党の動向を知る鍵となる。ところが今年は、例年と様子が違った。「中国の政治は透明化に向かっている。“神秘的な”北載河会議はもう必要ない」――。国営『新華社通信』系の雑誌『国家財経週刊』が8月5日、インターネット上で評論記事を出した。中国メディア上に“北載河会議”の活字が躍ることは、極めて異例のことだ。しかも、文化大革命等の混乱期を除き、毛沢東の時代から続いている会議を真っ向から否定している。

追い打ちをかけるようにその5日後、党機関紙『人民日報』がコラムを掲載した。「我々の党の多くの指導幹部は引退後、正しく地位の変化に向き合い、新指導部に介入・干渉せず、度量の広さと高尚な感情を示して、皆の尊敬を集めた。しかし、一部の指導幹部は在職中から腹心を配置し、院政を敷く条件を作り、引退後も重要問題から手を引こうとしない」。江沢民に向けられた痛烈な批判だ。江は2002年に総書記を退いた後も、軍事委員会主席の座に留まった。2005年に完全引退した後も、「党の重要事項は自分に報告する」という内部規定を定めた。更に、軍事委副主席に腹心の除才厚と郭伯雄を据え、影響力を保ってきた。2人は胡の指示を無視して江にお伺いばかりを立てるので、「軍内には2つの司令部がある」と揶揄されたほどだ。党最高指導部である常務委員にも“子飼い”を送り込んだ。中でも、中央政法委員会書記を兼ねる周永康は、警察や司法を一手に束ね、絶大な権力を握った。格差・環境汚染の是正・平和的発展等、胡が唱えた政策を骨抜きにしてきたと言われる。北載河会議開催のタイミングで、江を露骨に非難する2本のコラムが出されたことについて、党高官経験者を親族に持つ関係者が背景を説明する。「北載河に高官は集まったが、長老に意見を伺う会合は開かれなかった。江沢民氏らに政治への口出しをさせたくない習近平氏の意向で中止にした」。現役指導部を苦しめ続けてきた会合を打ち切るという強硬手段に依って、江に依る干渉を封じ込めた。このことは、一朝一夕に成し遂げたものではなかった。習は2012年の就任以来、腐敗撲滅キャンペーンを展開。徐才厚・郭伯雄・周永康ら江の“分身”を次々と摘発した。江が公の場に姿を見せる機会は激減し、中国のインターネット上には“逮捕説”まで流れ始めた。四半世紀に亘り、実質的なナンバー1として君臨し続けた“皇帝”江沢民の政治生命は終わった…と思われたその時、不可解な“事故”が立て続けに起きる。




8月12日、日本企業が集まる天津市の工業地帯・浜海新区の化学物質貯蔵倉庫が爆発。160人以上が犠牲となる大惨事となり、当局が安全管理の徹底を全国に指示した。その僅か10日後の22日、山東省淄博市にある化学工場でも爆発が発生。24日には河南省鄭州市で、31日には再び山東省の東営市にある化学工場が爆発した。私は特派員として2007年から6年間北京にいたが、これほど大きな化学工場の爆発事故を見たことがない。一連の事故から、2010年と2012年の反日デモを思い出した。普段は集会やデモが厳しく制限されているのに、携帯電話等を通じてあっという間に数万人の参加者が集まる。デモ隊に混じる私服警官を何度も目撃した。明らかに“官製デモ”だった。後で党関係者から聞いてわかったことだが、周永康が配下の警察を動員して、胡錦濤サイドに揺さぶりをかける狙いがあったようだ。今回の連続爆発事故の真相は闇に包まれているが、株価暴落等でも対応に追われる習近平指導部にとって、大きな痛手なのは間違いない。不穏な空気に覆われたまま、9月3日の抗日戦争勝利70周年の軍事パレードを迎えた。習近平にとって、軍改革や権力掌握を内外に示す重大なイベントだ。会場の天安門の壇上の中央に立つ習の隣に、江が約1年ぶりに姿を現した。介添無しには歩けないほど衰弱していた筈が、この日は顔色も良く、背筋を伸ばしている。時折、習が江に語りかける場面もあった。江は“失脚説”を完全否定するかのような雄姿を見せていた。復活を裏付けるように同9日、江は元軍高官の葬儀に参列した。7人の常務委員に続いて献花をして、存在感を示した。2017年秋の第19回党大会に向け、中国共産党は再び“政治の季節”に入る。“不死身の皇帝”の復活は、新たな闘争の気配を予感させずにはいられない。 《敬称略》


峯村健司(みねむら・けんじ) 朝日新聞ワシントン総局特派員。1974年、長野県生まれ。青山学院大学卒業後、1997年に『朝日新聞社』入社。大津支局・広島支局・大阪本社社会部を経て、2005年から中国人民大学に留学。2007年に中国総局員。2011年に『ボーン・上田記念国際記者賞』を受賞。2013年6月からハーバード大学フェアバンクセンター中国研究所客員研究員。著書に『十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』(小学館)。


キャプチャ  キャプチャ


スポンサーサイト

テーマ : 中国問題
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR