現代ニッポン“1億総下流社会”のリアル――いい年こいた大人が“見栄の為に”贅沢品を万引き、これが本当に“1億総活躍社会”なのか?

今の日本、一番綺麗事だらけなのは政治の世界。“崇高な理念”はいいんだが、現実とあまりにかけ離れているのが問題だ。“1億総活躍社会”って、“1億総下流社会”の間違いじゃないのか? カネを持っている癖に盗む奴、本当にカネが無くて盗む奴…。そこから見えるのは現代ニッポンの病巣だ。その悲し過ぎる現実について、現場を日々見続けるフリーライター兼万引きGメンがリポートする! (取材・文/フリーライター 伊東ゆう)

20160320 04
本稿の締め切り前日、東京都内のとあるショッピングモールで中年カップルに依る万引きを摘発した。食品・化粧品・日用品等38点、凡そ1万6000円の被害だ。共犯を伴う犯行は単独犯より罪が重く、被害の大小に関係なく逮捕される確率が高まる。店の事務所に連行して身分証の提示を求めると、40代半ばだった男は近所に住む会社の社長で、20代後半だった女は中国系アメリカ人であることが判明した。どういう関係か知る由はないが、2人は内縁関係にあるという。アメリカ国籍を有する被疑者を捕らえたのは、16年あるキャリアの中で初めてのことだ。彼らが盗んだ商品を見れば、各種において一番高額なものを選んで盗んでおり、「どうせやるならいいモノを…」という万引き犯特有の心理が強く伝わってきた。別に無くても困らない、少し買うのがもったいないような商品も多い。歪な形に膨れ上がった3つのバッグが、彼らの抱える脂ぎった欲望の塊に見えて目を背けたくなる。盗んだ理由を尋ねると、「彼女の帰国が迫っている為に、ホームパーティーをやるつもりだった」と話した。盗んだモノでパーティーを開くという浅ましい発想には呆れるばかりだ。老若男女、国籍を問わず、やろうと思えば誰でも簡単にできる犯罪、万引き。数年前までは少年の非行を象徴するような犯罪であったが、最近は孤独老人・外国人・貧困層に依る犯行ばかりで、少年に依る犯行を目にする機会は少なくなった。万引きが格好の悪いこととして認識された面も確かにあるだろうが、手っ取り早く現金を入手できる特殊詐欺やひったくりに鞍替えした者も多いと聞く。万引きは現行犯逮捕される可能性が高く、盗品を換金するにしても身分証明書を提示しなければならないので、未成年者からすれば割に合わないのだろう。その一方で、高齢者に依る常習万引きは全国的に横行しており、晩年を汚す彼らの愚行に目を疑う機会が増えた。来店する度に必ず1点だけ盗んでいく者を始め、「数年間に亘ってモノを買ったことがない」と豪語する常習者や、何度捕まえても万引きを繰り返す老人累犯者も存在している。町内会の会合でいい顔をしたいが為に大量の高級茶葉を盗む老人もいれば、「孫の為に」と菓子や玩具を万引きする老婆もいるのだ。

年明け早々、都内のスーパーで“持ち出し”と呼ばれる手口を用いて、1房のバナナを盗んだ若い男を捕らえた。被害額は245円。店の入り口近くに陳列されたバナナを手に取り、金を払わないまま店外に持ち出したのである。「どうせ盗るなら、なるべく高くて盗み易いモノを、より多く」――。これが万引き犯の基本心理であるが、最近は嵩張る商品を盗む者が増えた。異常気象等に依り値段が高騰している為、買うのがもったいないのか、果物や野菜を盗む者が増えているのだ。今まで安く買えたモノが高くなった為、損した気になるのか、その損失を埋めるが如く盗み出すのである。だが、この男がバナナを盗んだ理由は少し意外なものだった。最後のカネで買ったコロッケパンを2日前に食べてからは何も口にしていないらしく、なるべく犯行を重ねない為に栄養価が高く、腹持ちのいいバナナを選んで盗んだというのだ。最近増えつつある若年貧困者のブツ(被害品のこと)は、パンやおにぎり等比較的安価であることが多く、生きる為に必要最低限のモノを盗む傾向が感じられる。たとえ遠慮がちに盗んだとしても盗みは盗みなのであるが、居直る老人や逃走する外国人等と比べれば、その人間性は上だと言えるだろう。「仕事はしていないんですか?」「今、探しているんです。今日も面接に行ってきたんですけど、そこまでの交通費で持ち金が底をついちゃって…」。スーパーの衣料品売場で購入したと見えるワイシャツに紺のスラックスという服装は、面接を意識してのことだろうが、薄汚れていて清潔感が感じられない。万引きの現場からすれば、増えつつある若年ホームレスの定番スタイルとは言え、この身なりで採用を勝ち取るのは難しいと思われた。抑々、交通費すら持たない人間が真面な就職活動をできる訳がないだろう。こうした人こそ、生活保護を受給すべきだ。「生活保護も申請してみたんですけど、『若いから働けるだろう』って断られました。確かに働けるけど、住所もケータイも無いからどこにも雇ってもらえなくて…」。そう言って、男は項垂れた。




万引きで捕まった場合、“カネなし、ヤサなし、ガラウケなし”の三拍子が揃うと逮捕される。半月ほど前に強制執行を受けてアパートを追い出されてからは、マクドナルドや公園で夜を過ごしていると自虐気味に話しているので、タレ(被害届のこと)が出れば逮捕される可能性が高い。カネが無く、生きる為に万引きした者を捕らえて警察に突き出すのは、仕事とは言え嫌なものだ。飢えて苦しんでいる人を、犯罪者に仕立て上げているような気持ちになってしまうのである。しかし、この日の管内は忙しいようで、臨場した警察官に立件するつもりは見られなかった。若い警察官に叱責された後に店の外で解放された男は、街の雑踏に消えた。この人は、これから先、どうやって生きていくのだろう。警察庁は万引きを規範意識の問題に落とし込み、「万引きは犯罪だ」と訴え続けているが、貧困や空腹は規範意識を超越する。頻発する高齢者に依る万引き理由の多くは貧困であるが、高齢者を支える立場にある筈の若い人たちの暮らしも同様だとすれば、この国の先行きが不安でならない。「メシ食えないし、寝るところも無いから、逮捕してくれよ」。年末の風物詩と言える“志願兵”の季節感は無くなり、年間を通じて見かけるようになった。以前は高齢者ばかりであったが、最近は若者の志願兵も年々増加傾向にある。「お前、この街出禁だから」。横柄な警察官に宣告された若い浮浪者が、管轄外の川向うに捨てられるケースも見た。被害届が出なければ逮捕する必要はないから、厳重注意とは名ばかりの罵倒を繰り返して解放するのである。中には私的なストレスを発散しているとしか思えぬケースも散見され、そのような警察官に遭遇した際は、どこか居心地の悪い思いをさせられる。「こいつらは娑婆にいたほうが辛いから」。失うものがない人間は一番強いというが、それが犯罪者になる勇気のことを指しているのだとすれば、貧困に悶え苦しむ若い人たちが不憫でらない。逮捕すらしてもらえない彼らの行き着く先はどこか――。絶望感漂う彼らと接していると、“1億総活躍社会”など想像すらできないのである。


キャプチャ  2016年3月号掲載


スポンサーサイト

テーマ : 社会ニュース
ジャンル : ニュース

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR