【丸分かり・激震中国】(05) 進まなかった国有企業改革に今年はメスを入れるチャンス

過剰生産能力等の問題を抱え、中国経済の足を引っ張っている国有企業で、今年は愈々人員整理・倒産・合併・民営化が進みそうだ。 (東京大学社会科学研究所教授 丸川知雄)

中国共産党の最高幹部たちが経済政策について話し合う『中央経済工作会議』が昨年末に開催され、今年の重点目標を“サプライサイド(供給側)の構造改革”と定めた。つまり、経済成長の減速に対して需要刺激策で対処するのではなく、過剰生産能力の削減や企業のリストラ・改革等、供給側の調整に依って対処しようというのである。サプライサイドの構造改革の中で鍵となるのは、国有企業の改革である。昨年来の景気減速の中で、鉄鋼・非鉄金属・石炭・建材等といった国有企業が多い産業で、過剰生産能力の問題が深刻化している。例えば、中国を代表する鉄鋼メーカー『鞍山鋼鉄集団公司』では、今や給料の支払いさえ滞っているという。ただ、苦しい状況だからこそ人員整理・倒産・合併・民営化にも踏み切り易いので、今が国有企業に大胆なメスを入れるチャンスだとも言える。ここで、過去20年間の国有企業改革を簡単に振り返っておこう。1990年代後半の中国は現在と似て、1990年代前半の急成長の反動に依る景気減速と生産能力過剰に悩んでいた。その中で、国有企業改革が大きな進展を見せた。国有企業では従業員の大量解雇が行われ、1995年に総勢1億1000万人以上だった従業員数が、7年後には7000万人ほどに減った。また、国有企業は1995年には25万社以上もあったが、特に県等の末端に近いほうの地方政府が所有する小規模な国有企業の多くがバッサリと民営化され、2002年には15万社ほどにまで減少した。一方、残った国有企業も一部の資産を株式会社に再編し、そこへ民間の投資家の資金を取り入れた。1999年には国有企業改革に関する方針として、「国有企業は“国家の安全に関わる分野や国民経済の命脈”に集中していく」という方向が示された。当時、「これは国有企業の活動する分野を限定し、それ以外は民間企業に任せる方針なのだ」と思われた。ところがこれ以降、改革は長い停滞期に入る。特に胡錦濤氏が総書記、温家宝氏が首相を担った2003~2012年の間、国有企業改革は殆ど進展しなかった。寧ろ2009年以降、国有企業の総数や資産が却って増大している(下表)。

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当時、中国政府は4兆元の景気対策を打ち、公共投資の拡大が追い風となって、国有企業が増加したのだ。中国のエコノミストの間から「“国進民退”(国有企業が民間企業を食って拡大する)が起きている」との声が高まったのも、この頃である。国有企業改革は、習近平氏と李克強氏が政権に就いてから再び動き始めた。2013年11月には“改革の全面的深化”に関する中国共産党中央委員会の方針が決定され、この中に民営化を示唆する言葉が散見される。例えば、1999年の方針では「“国民経済の命脈”を構成する産業で国有企業が支配的地位を占める」としていたのが、2013年の決定では「国民経済の命脈に、より多く投資する」となっている。“支配する”と“投資する”では全く意味が違う。また、2013年の決定では「混合所有制を積極的に発展させる」とした。「国有企業を民営化する」とはどこにも書いていないが、混合所有制とは国有企業に民間等の外部の資本を導入することを意味するので、謂わば民営化の入り口だとも解釈できる。日本でも、国鉄が分割されてJR各社が誕生してから、国の保有株を完全に民間に売却するまで、15年以上に亘って(中国式に言えば)混合所有制の時期が続いた。このように、大規模な国有企業を民営化する場合は、先ず混合所有制に移行する。中国では2013年のこの決定を受け、2014年前半には数多くの国有企業が混合所有制の導入に踏み切った。中央政府直轄の“中央企業”も、資産の一部を外部の資本に売却し始めた。例えば、中国最大(世界第2位)の巨大企業である『中国石油化工集団公司(シノペック)』は、販売子会社の株式の3割を1070億元(約1兆9200億円)で売却した。政府系複合企業グループの『中国中信集団公司(CITIC)』は、香港に上場している子会社に本社を統合した上で、その株式の2割ほどを『伊藤忠商事』とタイの最大財閥『チャロン・ポカパン(CP)』グループに売却した。地方政府も積極的だ。例えば上海市政府は、原則として、市管轄下の全ての国有企業に混合所有制を導入すると発表した。




ところが2014年後半になると、こうした動きがパッタリと止まった。昨年3月に李克強首相が行った政府活動報告では、混合所有制を「秩序立って進める」としており、2013年11月の「積極的に発展させる」という表現からトーンダウンした。「混合所有制の導入は、国有企業改革のグランドデザインを決めてから」ということで仕切り直しとなったのである。そのグランドデザインは昨年8月に公布された。そこでは、国有企業が従事する産業を、①十分に競争的な産業②国家の安全や国民経済の命脈に関わる産業③公益性の高い事業――に分類。①の企業には民間資本を積極的に導入し、②の企業は国家が支配株主となり、民間資本の導入は一部に留め、③の企業は基本的に国家の単独出資に留めるとしている。ただ、それに続いて出た細目の政策を見ると、国家支配を維持すべき分野を“重要な通信インフラ”“中枢的な交通インフラ”等に限定し、これらの分野でも条件が合えば公設民営等も可能だとした。グランドデザインよりも、民間が活動できる分野が広くなった印象を受ける。別の文書では、中央企業をシンガポールの国家資本投資会社『テマセク』のような投資会社に改組する方針も示された。2013年11月の決定もそうなのだが、要約や総論の部分では国家の主導的役割を強調しながらも、細目を見ると民営化に積極的なようにも読めるということが続いている。政府の中で、「国家支配の維持を重視する」意見と「なるべく民営化すべきだ」という意見の鬩ぎ合いが続いていることが窺える。ともあれ、国有企業改革の政策枠組みを示す文書が曲がりなりにも揃った。2014年後半から改革が止まったのは、反汚職運動に依って、政府幹部たちが臆病になっていたということも作用している。しかし、改革の枠組みが定まったので、今年には国有企業の全面的改組とリストラが始まる筈である。地方では先行事例もある。例えば蘇州市は、嘗て国有工業企業を512社も保有していたが、2008年までに投資会社1社が保有する91社の混合所有制企業に改組してしまった。中国全体が蘇州市のようなスピードと大胆さを持って国有企業改革を推し進められるとは思えないものの、少なくとも地方の国有企業においては、部分的民営化がかなりの進展を見せるであろう。


キャプチャ  2016年2月2日号掲載


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テーマ : 中国経済
ジャンル : 政治・経済

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