【経済の現場2016・揺れる春闘】(01) トヨタ社長「潮目変わった」

2016年の春闘は、ベアを巡って激しい攻防が展開された。その舞台裏を探る。

20160322 06
愛知県豊田市の『トヨタ自動車』本社13階。豊田章男社長は、今月16日午前9時から始まった労使協議会で、要求の半分に留めたベースアップ(ベア)回答の理由について語った。「経営環境の潮目は変わった」。組合側は、物価が上がっていないこと等を考慮し、前年の回答(4000円)を下回るベア3000円を要求。それでも、経営側は先月24日の第1回交渉で「高過ぎて理解し難い」と突き放した。豊田社長が言う“潮目”とは、円安から円高に振れ始めた為替相場や、売れ行きが好調だった新興国経済の変調を指す。今月9日の3回目の交渉で、労務担当の上田達郎常務役員は「現在の厳しい環境等を考えると、(ベアは)1000円に及ばない」と明言した。決着までは交渉の場で賃上げ水準に触れない――。こうした慣例を打ち破った背景には、経営側の強い危機感がある。労組側は「到底理解し難く、納得できない」と猛反発し、職場代表の3人が生産効率の向上等“カイゼン”の取り組みを訴えた。結果は1500円。経営側が労組に譲歩した形だが、トヨタの厳しい回答は他の大手企業に波紋を広げた。トヨタの労使交渉が決着した今月15日午後。ライバル社の首脳は、長引く組合との交渉に痺れを切らし、担当者にこう指示した。「1000円以上、トヨタ未満だ」。ベアは月額1000円台。だが、トヨタの1500円は下回るようにする。交渉の最終盤で出した指示は、トヨタの影響力の大きさを物語る。トヨタは同業他社に配慮し、集中回答日の2日前までに労使交渉を決着させるのが“慣例”だった。ところが、今年は回答日前日の15日まで交渉が縺れ込み、他のメーカーは15日深夜から16日未明にかけてギリギリの調整を迫られた。トヨタの“ベア1500円”が伝わると、他社からは「意外に低いな」という声が漏れた。交渉の序盤、自動車業界では「トヨタは2000円台で決着するだろう」との観測が多かったからだ。ある経営側の交渉担当者は、「トヨタはもっと社会的要請に応えると思った」と戸惑いを隠さない。

今春闘は、中国経済の急な減速等、世界的な先行き不安が影を落とした。電機メーカーで作る労組『電機連合』の有野正治委員長は、交渉大詰めの今月上旬、他の幹部に「もうべアは2000円じゃなくていい」と本音を吐いた。電機連合は昨年12月、3000円以上のベアを要求する方針を固めた。電機大手の経営幹部も、先月の時点で「2000円ぐらいだろう」との見方を示していた。ところが、交渉を主導する『日立製作所』等大手5社の今年3月期決算の見通しは、先月末までに相次いで下方修正に追い込まれた。特に業績が厳しい企業では、「うちはゼロか500円にしたいくらいだ」という声が漏れた。有野委員長は、「正月を境に状況が相当変わってきた」と悔しさを滲ませる。鉄鋼業界も世界的な鉄余り等で、「経営環境は過去最低」(大手労組幹部)の状況にある。前回を上回る“2年間で2500円”の賃上げにこぎ着けたものの、他業種との賃金格差を埋めるのがやっとだった。世界的な資源安で、ベア要求そのものを見送った業界もある。非鉄金属大手の『住友金属鉱山』は先月、「会社の状況を検討した結果、賃金改善の要求を見送る」とする執行部案を纏め、要求は一時金に留めた。海外の銅鉱山等への投資が裏目となり、住友金属鉱山は業績が大きく悪化した。これを受けて執行部は、組合大会の直前に賃金改善を見送る方針を決めた。組合幹部は、「経営が厳しい中で現実離れした要求より、確実に勝ちを取ることを考えた」と苦しい胸の内を語った。『日本銀行』がマイナス金利政策の導入を決めたことで、収益悪化が懸念されるメガバンクもベア要求を見送る方針だ。市場の波乱は賃上げ交渉にも響いた。


≡読売新聞 2016年3月17日付掲載≡


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