【管見妄語】 戦勝“国連”合

ケンブリッジ大学にいた頃、コレッジでの公式ディナーでタキシードに蝶ネクタイとおめかしした私は、初めての白鳥に舌鼓を打っていた。と、前にいた高名な教授が私に、「この白鳥は誰のものか知っているか?」と妙なことを聞いた。「捕まえた人のものでしょ?」「違う、女王陛下のものだ」「何だって?」「イギリス中の白鳥は王様のものと決まっている。だから、食べる時は王室の許可がいる」「誰がそんなバカな決まりを作ったんだい?」「マグナカルタ(大憲章・1215年)以前からだ」。教授は、ここで然も誇らしそうに胸を張った。新しいものほどよいアメリカと対照的に、古いものほどよいイギリスでは、マグナカルタ以前と言えば泣く子も黙るのだ。私は内心、「日本人の俺に威張ることかね? 伊勢神神宮では、天照大御神等神様への食事を朝タに供える日別朝夕大御饌祭が、1500年前から嵐の中でも戦乱の中でも毎日行われてきている」と思った。だが同時に、「『国中の白鳥が女王のもの』等という古くナンセンスな決まりを、世界的な教授までが威張る」という英国紳士の保守の心に感動した。

今月初めに、『国連女子差別撤廃委員会』が「日本の皇位継承権が男系男子の皇族だけにあるのは女性への差別である」として、皇室典範の改正を求める見解を出した。日本政府が迅速且つ的確に反論した為、最終見解からは削られたという。国連に依る恐るべき内政干渉となるところだった。125代に亘る天皇が一度の例外も無く男系で継承してきた事実に対する、無知無理解無思慮である。男系を尊重することに論理的な意味は然して無い。長い間そうしてきたから、これからもそうするだけのことだ。2000年間、若し天皇陛下が毎朝イワシの頭に祈りを捧げられてきたとしたら、只々今後もそれを続けることに意義がある。我が国の根幹である2000年の皇室伝統は、憲法・法律・近代思潮等、その時々の人々の作り出す移ろい易い論理を超越したものなのだ。菅官房長官は、「国民の支持を得ている。女性に対する差別を目的としていない」と述べた。正しいが的外れだ。たとえ国民の大多数が支持しなくとも、たとえ女性への差別であろうとも、堅持すべきものだからだ。2000年の伝統は、その間に生きた全ての日本人のもので、現代の日本人だけのものではない。国連に対しては微笑みながら、「カトリック神父やローマ法王には女性がいないようですが、これは12億教徒の根強い女性差別の為なのでしょうか?」と言えばよかったのだ。神父になるには神学校に入らねばならず、入学は昔から男性のみである。




それにしても、ここ20年ほどの国連の動きは気になる。従軍慰安婦に関する『国連人権委員会』の、事実誤認に基づくクマラスワミ報告やマクドゥーガル報告に依り、我が国は世界から性奴隷の国として糾弾された。昨年秋には『ユネスコ』が、中国が申請していた“南京大虐殺文書”を世界記憶遺産に、きちんと吟味もせず登録した。今回の皇室典範でも、「委員会見解の取り纏め役である中国人主査の意向が働いた」との見方がある。国連そのものに大きな問題がある。拒否権という法外な権利を持つ安保理常任理事国は、アメリカ・イギリス・フランス・ロシア・中国と戦勝国5ヵ国だけなのだ。旧日本軍が多くの恥ずべき悪事を働いたことは認めざるを得ないが、これら5ヵ国のそれは日本とは比較にならぬほど酷いものだ。それを糊塗したいという意識があるから、日本軍批判はフリーパスとなり、正そうとする我が国の動きには“歴史修正主義者”の格印を押し、激しく糾弾するのだろう。国連は、大量難民・『IS(イスラミックステート)』・クリミア・ウイグル問題・南&東シナ海等の紛争解決にも全く役立っていない。5ヵ国の何れかが関っているからだ。現在の理不尽な構造を続けるなら、“国際連合”等という美名を用いず、“戦勝国連合”と正すべきであろう。


藤原正彦(ふじわら・まさひこ) 数学者・お茶の水女子大学名誉教授。1943年、満州国生まれ。東京大学理学部数学科卒。同大学院理学系研究科修士課程数学専攻修了。ミシガン大学研究員・コロラド大学ボルダー校助教授等を経て現職。著書に『藤原正彦の人生案内』(中央公論新社)・『この国のけじめ』(文藝春秋)等。


キャプチャ  2016年3月24日号掲載


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