【宮崎哲弥の時々砲弾】 リベラルですが、何か?(上)

アメリカ民主党の大統領候補者であるバーニー・サンダースが、事前の予想を超えて善戦した。一気に有力候補に伸し上がった共和党のドナルド・トランプの“怪進撃”ほどではないが、アメリカではかなりネガティヴな“社会主義者”のレッテルを半ば受け容れながらも、徐々に支持を拡大し、その主張は若い世代を中心に浸透している。日本では“異端の急進主義者”というイメージばかりが氾濫し、新聞やテレビでその政見や政策が真面目に検討されることは先ず無い。下手すると、トランプの左派ヴァージョンみたいな際物扱いに終始している例すらある。それでも、国民皆保険の導入・富裕層への課税強化・最低賃金の時給15ドルへの引き上げ・公立大学の授業料無料化等は一応取り上げられる。だがマクロ政策、特に膨大な公共投資に依る雇用創出を掲げていることは滅多に報じられない。サンダースは、「5年間で計1兆ドル(約110兆円)を超える公共投資を行う」と公約しているのだ。それに依って、1300万人の雇用増を目指すという。これこそ、まさに“反緊縮財政”という世界標準のリベラル経済政策の真骨頂である。

ジョセフ・スティグリッツやポール・クルーグマン等、リベラル派の経済学者たちは、これらの公約を評価した。当然だろう。彼らが年来主張してきた政策案が、ふんだんに盛り込まれていたのだから。サンダースも彼らを高く買っており、クルーグマンにスティグリッツ、そしてロバート・ライシュを政権の政策顧問に迎える構想を表明していた。「クルーグマンを財務長官にしたい」との意向まで公にしたこともある。この姿勢から、彼が市場メカニズムや経済成長を否定している訳ではないことがわかる。サンダースは歪んだ資本主義を修正しようとしているのだ。残念ながら、クルーグマンが「サンダースの公約は実現可能性を欠く」と批判した為(『ニューヨークタイムズ』・2月19日付)、先の“人事案”はお流れだろう。だが、捨てる神あれば拾う神あり。『21世紀の資本』でお馴染みのトマ・ピケティが、2月14日付の『ル・モンド』のコラムで熱烈支持を表明した。妙訳が朝日新聞の2月24日付朝刊に掲載されている。「サンダース氏の勝利は阻まれてしまうかもしれない。だが近い将来、彼のような、でももっと若く、白人でもない候補者が大統領選で勝ち、国の“顔”をすっかり変えてしまう可能性があることが証明された」。イギリス労働党の新たな“顔”であるジェレミー・コービンも反緊縮の闘士であり、大規模なインフラ投資を掲げ、その原資を日本銀行に当たるイングランド銀行に依る大規模な量的緩和に求めている。コービンは、この政策を“人民の量的緩和”(!)と呼ぶ。




リベラル経済政策の世界的動向の大略を見たが、扨て日本は…と顧みると、嘆息が漏れるのを禁じ難い。最大野党の民主党と維新の党が参議院選挙に向けて合流するそうだが、経済政策の基本方針、とりわけマクロ政策が見えてこない。無理もない。特に民主党は、政権担当時には歳出削減・消費税増税・構造改革・経済のグローバル化等、世界のリベラル潮流に逆行するような施策ばかりを推進し、デフレ脱却・総需要拡大には殆ど手を打たなかった。若し野田佳彦政権が続いていたら、日本経済がどんな奈落の苦しみを味わっただろうと想像すると、今でも背筋が凍る。民主党がリベラル寄りの新しい党として出直すというのであれば、兎に角、経済政策の見直しが必須だ。過去の誤りを率直に認めて出直しを図るのだ。世界のリべラルのトレンドに歩を合わせ、アべノミクスよりも大胆な金融緩和と財政支出拡大に依るデフレからの最終的脱却・雇用の量と質の両面に亘る改善・消費税税率引き上げの無条件凍結・累進課税や資産課税の強化等を公約として宣明せよ。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2016年3月10日号掲載


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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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