【経済の現場2016・揺れる春闘】(02) “官製”賃上げ、曲がり角

20160325 07
大手企業の春闘の集中回答日から一夜明けた今月17日午後。中小企業を中心に約125万会員を抱える『日本商工会議所』の総会が、東京都内で開かれた。来賓に招かれた安倍首相は、約800人を前に語気を強めた。「過去2年の賃上げの流れは続いている。交渉が続く企業には、最大限の努力をお願いしたい」。中小企業は大手の妥結額を踏まえ、夏頃にかけて労使交渉が本格化する。首相の呼びかけには、「賃上げの機運を失速させない」という意思が滲んだ。安倍内閣の下で2014年に始まった“官製春闘”は、2年目までは大手企業で2%以上の高い賃上げ率を実現させた。だが、今年は曲がり角に差し掛かっている。相場作りをリードする自動車や電機の大手が今月16日に示したベースアップ(ベア)の金額は、前年の半分程度に留まった。経団連の榊原定征会長に対する政府の賃上げ要請は、今月に入って少なくとも3回に上る。「顔を合わせる度に要請される。それだけ、政府の危機感は強まっているのだろう」(経団連幹部)。そうした受け止めが経済界には多い。官製春闘は、“労使自治”という春闘の建前を覆した。労働組合と経営側の話し合いに政府も加わる“政労使会議”を開き、春闘の前に3者が賃上げを議論する異例の経路を辿る。その背景には、「賃上げに資するのであれば、政府であっても活用しない手はない」(大手労組幹部)という現実論の強まりがあった。

ところが昨秋、大きな変化が起きた。政労使の枠組みから『連合』が外れ、政府と経団連等に依る“官民対話”の場に官製春闘の舞台が移ったのだ。「もう、政労使の会議は開かないのか」。官製春闘に期待を繋いできた傘下の労組から、連合執行部に問い合わせが寄せられた。政労使の蜜月の変調には様々な見方がある。ある労組幹部は、「首相が昨年に推し進めた安全保障法制に対し、連合が『政権の暴挙だ』と強く反発したことがきっかけだった」と解説する。昨秋に連合会長の古賀伸明氏が退任し、労使自治をより重視しているとされる神津里季生氏が後任に就いたことも大きい。神津氏は今月16日の記者会見で、「官製春闘というのは危ない言葉だ」と語った。榊原氏は「政府からの賃上げ要請は、社会的要請と考慮した」として、今後も政府と共同歩調を執る構えだ。しかし、政府側は榊原氏の発言を額面通りに受け止めていない。経済官庁の幹部は「それだけ稼いで、それだけの賃上げか。今の経営者や労組にはがっかりだ」と憤る。今春闘を境に、政労使の隙間風は強まった。だが、中小の交渉はこれからが本番だ。首相の呼びかけに耳を傾けていた北海道の小売業者は、こう突き放した。「官製春闘というが、賃上げさえ難しい中小企業には“春闘”の概念すら無い。大企業の世界の話だ」。賃金の底上げを図るには、政労使の歩み寄りだけでは難しいのも現実だ。


≡読売新聞 2016年3月18日付掲載≡


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