北海道新幹線という“壮大な無駄”――地元駅の閑散とした光景や「今更」と冷めた道民、そもそも飛行機に勝てるのか?

2016年3月、東京都新函館北斗を結ぶ『北海道新幹線』が開業する。最短4時間だが、東京からの直通運転は1日10往復。航空運賃と比べても安い訳ではない。一体、誰が乗るの? (取材・文/ノンフィクションライター 菊地正憲)

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人の姿がどこまでも見えない里山。車も通らない。稲刈りを間近に控えた水田の傍らには、“JR新函館北斗駅”の表示が掲げられた真新しい巨大な駅舎が立っているが、周囲からは完全に浮いている。ここがローカル線ではなく、超高速電車が疾駆する新幹線鉄道の駅なのだと思うと、尚更違和感を拭えない。勿論、“田舎の新幹線駅”は全国に数多い。平成22(2010)年に東北新幹線が新青森駅まで全線開業した際には、雑誌の取材で同駅を訪れ、辺りの鄙びた風景に驚いた記憶がある。だが、正直言ってここはもっと辺境だ。昨年9月中旬、15年ほど前に地元新聞の記者として赴任もしていた函館市界隈と札幌市を久しぶりに訪れた。今年3月、新幹線が愈々北海道に初上陸するのを期に、様子を取材したかったからだ。残念ながら、現地は益々衰退の度を深めていた。私も道内出身者であり、子供の頃は好きだった鉄道の写真を撮る為に、氷点下の真冬でも安物のカメラを手に通ったほどだったから、新幹線が来るというのに何とも寂しい限りではある。だが、「現実をきちんと見なければならない」と痛感したのだ。北海道新幹線は、新青森駅から更に北へ約150km延伸し、青函トンネルを通って新函館北斗駅に到達する。東京駅からの所要時間は最短約4時間となる。ただ、実際に新幹線駅が作られたのは、地形上の問題等から、函館市内ではなく、隣接する北斗市だ。何と、新幹線は函館市内には来ない。だからこそ、北斗市側の強い要望もあって、地元以外の人からすればわかり易い“新函館”ではなく、“新函館北斗”という名称になった経緯がある。鉄道で観光都市の函館の市街地を訪れるには、在来線のJR函館本線を利用しなければならない。北斗市は、農・漁業が盛んな人口4万8000人の小都市だ。新函館北斗駅も、未だ開業前の今はJR函館本線の無人駅・渡島大野駅で、18km離れた函館駅までの列車の本数も1日8往復程度。片道25分ほどかかる。開業時には接続列車『はこだてライナー』を1日16往復運行し、17分に短縮する予定だが、乗り換え時間を含めれば、30分程度は余計に見ておく必要がある。今、東京から新幹線を使って函館駅まで行こうとすると、『はやぶさ』で新青森まで行き、在来線特急の『白鳥』か『スーパー白鳥』に乗り換えて函館に向かうことになる。所要時間は5時間半前後。とすると、折角新幹線ができたのに、1時間程度の短縮にしかならない。思ったほどの時間短縮にならなかった理由の1つは、昭和63(1988)年に開通した青函トンネルにある。現在の1日当たりの運行数は、旅客列車が30本、北海道-本州間の物流の柱でもある貨物列車は51本にもなる。新幹線開業後、トンネルとその前後の約82km区間は、在来線の旅客列車は人気の寝台特急を含めて全て廃止されるものの、貨物列車とは共用になる。在来線と新幹線とでは線路幅が異なるので、この区間では共用・貨物線用・新幹線用の計3本のレールが使われる。安全の為、新幹線の最高速度は現在の特急と同じ140kmに抑えられてしまうのだ。

更に、運行頻度の間題もある。JR北海道・東日本は昨年9月16日、新青森-新函館北斗間の開業日を2016年3月26日に決めたことを発表した。同時に、運行は10両編成で1日13往復とし、うち10往復を東京からの直通運転にすることを明らかにしたのだ。10往復と言えば、朝から夕方までに1時間に1本程度の頻度で、今の『白鳥』『スーパー白鳥』と同じだ。朝夕には数分置きに運行されている東北新幹線の東京-仙台間は言うに及ばず、東京-新青森間を直通運転する『はやぶさ』でさえ17往復ある。昨年3月に開業したばかりで、他の新幹線と比べて本数が少ないと不満も出た北陸新幹線の東京-金沢間の直通列車でも、24往復ある。しかも所要時間は、新幹線と在来線を利用していた頃よりも80分短い2時間半だ。こうして見ていくと、「抑々、飛行機に勝てるのか?」との疑問が湧く。羽田-函館間は、運航頻度こそ1日10往復程度と同じだが、何しろ所要時間が1時間20分しかない。出発時の空港までの移動距離・搭乗手続き・保安検査の煩わしい時間を含めても、東京都心からは2時間半ほどで函館に着く。しかも、函館空港は市街地に近い為、バスに乗れば20分ほどで函館駅や主な観光地に着いてしまう。行程そのものを楽しむゆとりのある旅人や鉄道マニアなら兎も角、乗客の大半を占める首都圏からの観光客やビジネス客は、「飛行機に乗って少しでも早く目的地に着きたい」と思う筈だ。料金を見ると、新幹線の東京-新函館北斗間は、普通車指定席で運賃・特急料金合わせて片道2万3000円弱だ。東京発函館行きの航空運賃は、繁忙期には3万円以上になることもあるものの、昔と違って今は格安航空会社(LCC)も運航しているし、事前購入等の航空券の割引制度が格段に充実している為、1万円そこそこで買えてしまうこともある。遠距離移動の際に飛行機ではなく新幹線を選ぶ基準は、所要時間で“4時間以下”だとよく言われる。函館の場合は“最短約4時間”だから微妙だが、運賃があまり変わらないのであれば、現実に「4時間だから新幹線に乗ろう!」となるのかどうか。前述した乗り換え時間も考えると、少なくとも、飛行機に対して有利になることはないだろう。函館市内に住む嘗ての取材相手や、北海道に出張することもある東京在勤の知人たちにも聞いてみたが、大概は「最初は好奇心があるので乗ってみたいが、通常は飛行機に乗る」といった答えだった。“4時間”は、東京発の東海道・山陽新幹線で最も速い『のぞみ』で見ると、岡山駅・広島駅辺りが分岐点になる。料金は新幹線・飛行機共に通常期で概ね2万円弱とあまり変わらないが、利便性の点で両都市共に新幹線に分があるとされている。これには、どちらも函館と違い、新幹線と在来線の駅が同じなので乗り換えがスムーズで、一方で空港と市街地の間の距離が遠くて飛行機だと余計な時間・費用がかかるという事情がある。整備新幹線の北海道新幹線は、今年春に函館まで開業した後、小樽市を経由して札幌まで延伸し、開業して全線開通となる。完成は平成42(2030)年度末を予定しており、東京-札幌間の所要時間は今のところ最速5時間くらいになりそうだ。現在、地元自治体は最大1時間程度の大幅な時間短縮を目指して国やJR側に働きかけているものの、飛行機の優位性は揺るがないだろう。




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東京からの距離という点では、札幌は博多と粗同じ100km強だ。新幹線は東京-博多間を最速5時間弱で走るが、博多駅と福岡空港とのアクセスの良さもあり、“対飛行機”の利用シェアで見ると1対9と“完敗”している。飛行機の利用だと、羽田から博多駅まで2時間半弱しかかからないからだ。新千歳空港は札幌駅から稍離れているものの、それでも羽田からは約1時間半で空港に到着後、早ければ接続列車に乗って40数分で札幌駅に着いてしまうのだ。仮にこの先、札幌延伸が滞りなく実現し、東京からの時間も4時間台前半くらいにまで短縮したとする。そうなると今度は、函館にとっては、首都圏から札幌方面に向かう乗客に素通りされる懸念が生じるのではないか。新幹線の最速列車の常として、大都市の終着駅である札幌への到着時間を数分であっても早めることが新幹線効果を強調する上で鍵になる為、途中の盛岡や新青森、そして新函館北斗には停車しない可能性もあるからだ。東海道新幹線でも、最速列車『のぞみ』が、函館よりずっと大きな都市である名古屋や静岡に停車するか否かが論点になった過去がある。北海道庁の新幹線担当者からは「北海道新幹線は札幌まで来てこそ、道内全体の利便性が向上する」「北関東や東北都市との新たな交流が生まれる」といった声を聞いたが、肝心の首都圏からの大幅な集客増の見込みもない中で、そう上手くいくだろうか。函館市の新幹線担当者も「全線開通すれば、札幌までの所要時間が、今の在来線特急に依る3時間半から1時間弱に縮まるし、道外からの北海道ツアーに2都市を同時に組み込み易くもなる」と、表向き“相乗効果”を強調した。だが、函館側にとっては、新幹線の終着駅となることで、昔のように北海道の玄関口になり、観光客らに留まってもらうほうが経済効果が高いだろう。同じ北海道でも、300kmも離れている函館と札幌とでは思惑が違い、微妙な温度差がある。例えば、“開業1年前”や“開業300日前”等の節目には、函館市とJR北海道の足並みが揃わず、其々が主催するカウントダウンイべントが別々の日程で開かれた。どうも、一枚岩の“オール北海道”で新幹線を迎える状況とは言えないようなのだ。一方で、北海道全体が全国でもトップクラスの人口減少・超少子高齢化地域になっている現実も見逃せない。『国立社会保障・人口問題研究所』の推計に依れば、平成22(2010)年の時点で550万人いた人口は、その30年後には419万人まで激減してしまうのだ。しかも、人口密度は全都道府県中で最低だ。同じく整備新幹線が計画されている九州は、県庁所在地を始め拠点都市が数多くあり、島としての人口も1300万人だ。採算面から言って、とても比較にならない。

近年は、中国を中心とする外国から来日する観光客が急増中だが、目的地は北海道に限らない。後押しする円安もいつまで続くかわからない上に、中国経済の将来にも不透明さが付き纏う。実際、長年に亘って道内各地から移転者を集めてきた中心都市の札幌は兎も角、函館の過疎化ぶりは顕著だ。戦前には札幌より多いほどだった人口は、30年以上前の32万人をピークに減少傾向となり、今は27万人弱。今後も急激に減ると予測されている。往時は青函連絡船や基幹産業の造船・遠洋漁業が隆盛を誇り、買い物客でごった返していた函館駅周辺の中心市街地は最早、見る影も無い。私が住んでいた15年前と比べても、ビルの数や人通りが極端に少なくなっていた。その一角でカラオケ店を営む男性(71)に声をかけると、寂しげな表情を浮かべた。「函館に住んで50年になるけど、デパートも映画館も次々と潰れて、年寄りがぽつぽつと歩いていくだけの街になってしまった。今更、新幹線が来ても景気が良くなる訳ねぇべさ」。整備新幹線は、昭和45(1970)年施行の『全国新幹線鉄道整備法』に基づき、同48(1973)年に計画が策定された国家事業で、北海道・東北・北陸・九州2ルートの計5路線ある。建設主体は国土交通省所管の独立行政法人『鉄道建設・運輸施設整備支援機構』。北海道の新青森-札幌間の総事業費は約2兆2000億円に上る。北海道新幹線の運行形態は、他の整備新幹線と同様に“上下分離方式”になっている。同機構が線路や施設を所有し、同機構が100%の株主であるJR北海道が、実質的に赤字にならない範囲で線路等の貸付料を支払い、鉄道運行業務を担う。ところが、JR北海道はここ数年、車両の出火・脱線・レール異常の放置等、不祥事が相次いでいる。一昨年には国交省から事業改善命令まで出された。同省の担当者は「新幹線運行の実績があるJR東日本から人事・技術面での支援を受けさせて、万全の体制で臨ませている」と話すが、凍結の心配がある厳冬期を含めて、超高速列車を果たして安全に動かせるのか、不安は尽きない。現地で長年取材するメディア関係者の何人かに尋ねると、「民営化の時に人材を大量に失って、中間管理職や技術者が不足している」「会社発足時から続く労使の歪んだ癒着関係があり、現場が当事者意識を持っていない」「JR東日本に頼り切り、会社としての体をなしていない」といった手厳しい声が返ってきた。

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JR北海道・四国・九州の“JR三島会社”とJR貨物には、昭和62(1987)年の国鉄分割民営化の際、資産運用益で赤字を埋め合わせる目的で創設された“経営安定基金”が宛がわれた。国鉄時代から赤字路線ばかりだった北海道の分は、最高額の約6800億円だ。他にも税の減免を始め、国から各種の支援を受けている。それでも、昨年度連結決算で過去最悪の308億円の営業赤字を出す等、極端に苦しい経営が続く。昨年6月、経営の自立に向け株式上場を決めたJR九州との対照が際立つのだ。更に、新幹線開業で経営分離される並行在来線の問題も重くのしかかる。新青森-新函館北斗間は、JR江差線の木古内-五稜郭間が並行在来線としてJRの経営から分離され、道を中心とした第三セクター『道南いさりび鉄道』が引き継くものの、既に赤字を見込む。札幌延伸時には函館-小樽間の長大な分離区間の経営が課題になるが、三セクが引き継ぐにしても、巨額の赤字を出すのは必至だ。こうなると、「そんなに新幹線に拘る必要があったのか?」との根本的な疑問さえ湧いてくる。『鉄道は生き残れるか』(中央経済社)の著者で、新幹線や鉄道に懐疑的な見解を示してきた数少ない論客である青山学院大学大学院の福井義高教授に尋ねると、「本来、北海道に新幹線はいらない」と明言した。「長距離の交通機関は飛行機で十分。近距離でも、多くの場合は車やバスを使うほうが便利です。鉄道は日本にとって国家の発展や近代化の象徴であり、鉄道官僚たちは代々、国家事業で影響力を保持してきました。でも、鉄道が主役だった時代はとっくに終わっているのです」。福井教授は「税金を使う国家事業である以上、効率や採算性を考慮するのは当然だ」と言い、「札幌圏や、札幌と他の拠点都市を結ぶ路線を除き、道内の6割以上の鉄道が何れ立ち行かなくなる」と説明した。東京大学法学部を卒業して旧国鉄に入り、JR東日本での勤務経験も持つ同教授は、こう続けた。「元同僚には、『貴方には夢が無い』と言われます。でも、根拠があるから主張しているだけ。逆に、財務官僚には『言う通りだ』と賛同されますよ」。実は私も、「北海道出身なのに夢が無いの?」といった言葉を取材相手の道庁の新幹線担当幹部から投げかけられている。「新幹線は北海道の活性化の為に不可欠だ」との大前提があり、「北海道に所縁がある者であればそう思って当たり前である」との空気が地元関係者には抜き難くある。だが、新幹線も在来線も、赤字になればまた税金が投入されるのだ。1000兆円とされる借金がある国に、いつまでも頼れるものだろうか。

札幌市を活動拠点とする弁護士で長年、北海道新幹線反対の持論をブログ等で展開する猪野亨氏は、「無駄になる可能性が非常に高い」と強調した。「札幌以外は過疎化が止まらない中、観光客頼みの新幹線に2兆円以上も費やすなんておかしい。昭和の政治家が決めた古い発想の事業でしかありません」。高度成長の象徴だった新幹線は最早、“夢”とは言えなくなっているのではないか。計画策定から40年以上も経過し、道民の間にも「今になって…」と冷ややかに見る感覚が確実にある。JR北海道が昨年10月に発表した北海道新幹線開業後の収支見通しに依ると、老朽化が進む海底トンネルの整備費負担等が響き、3年間で計150億円の経常赤字になると予想している。その後は増収を見込んでいるというが、その頃には逆に“開業フィーバー”の特需が一段落しているのではないか。北海道新幹線の新函館北斗-札幌間の工事も既に平成24(2012)年に認可され、着工済みだ。今更止める訳にもいかないだろうし、止まる筈もないから、赤字覚悟でせめて「できたものをなるべく有効に使う」しか道はない。昨年は、4年後に開かれる2度目の東京オリンピック・パラリンピックに関連して、エンブレムの盗作疑惑と共に、新国立競技場の建設計画の無駄を巡る混乱が起きた。背景には、「巨大プロジェクトに頼って景気浮揚を図る」という高度成長期の発想が見え隠れした。北海道新幹線も同様の発想でしかない。元々、北海道は150年前からずっと国策に従って開発されてきた。私自身、明治期に三重県から十勝岳の麓に入植し、原野を開撃した曾祖父らの末裔だ。だが、北海道の開拓は、アメリカのような自主独立型のそれとは訳が違う。そんな北海道だからこそ、旧来の発想を切り替えて、自立を考える時期に来ているのではないか。全国の他の地方も超少子高齢化が進み、経済的に衰える状況は同じだ。景気のよい話が少ない中で、新幹線のような国の大型事業が目の前にあれば、「取り敢えず乗っておく」というのも北海道だけの話ではない。だが、異郷と言えるほどの独特の地理的環境や広大な自然、そして豊かな資源のある北海道ならではの方策はきっとある筈だ。もう国策に引きずられることなく、“脱昭和”の夢作りを目指すべきである。


菊地正憲(きくち・まさのり) ノンフィクションライター。1965年、北海道生まれ。国学院大学文学部卒業後、『北海道新聞社』に入社。2003年にフリーに。著書に『もう一度学びたい日本の近現代史』(西東社)・『なぜ結婚できないのか 非婚・晩婚時代の家族論』(すばる舎)等。


キャプチャ  2016年2月号掲載


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