スキーバスが事故るのは当たり前! 政府の規制緩和&国民の安価至上主義のせいでバス業界のブラック化が止まらない!

相次ぐ運転手の居眠りに依る死傷事故に、整備不良に依るバス火災…。“業界最安値”を競う格安ツアーバス会社に依る最悪事故の数々は、政府に依る規制緩和が齎したものだった! (取材・文/フリージャーナリスト 小石川シンイチ)

20160326 04
「皆仲良しで、休みを楽しみにしていたと思う。事故はショックで残念。こんな事故を起こすバス会社は許せない」――。そう憤るのは、“尾木ママ”こと法政大学の尾木直樹教授だ。同大学のゼミの学生10人が、今年1月15日未明に起こった軽井沢でのスキーバス事故に巻き込まれ、2人の死亡が確認されたのだ。この事故は、長野県北佐久郡軽井沢町の国道18号線碓氷バイパスで、ツアーバス会社の貸切バスが反対車線を越えて道路右側に転落。乗員・乗客15名が死亡し、乗客26名が負傷するという悲惨なものとなった。法政の他に、早稲田大学4年生で既に就職が決まっている学生もいて、その葬儀は1000人を超える参列者が集まり、悲嘆に暮れた。非難は、亡くなった運転手とツアーバス会社に集中した。死亡した運転手(65)のドライバー歴は12年だった。しかし、昨年12月14日に面接をして入社したばかりで、入社前までは小型バスが中心で、採用面接で「大型バスは苦手で不慣れだ」と訴えたように、大型バスや深夜の運転は経験不足。ツアーバス会社の契約社員で、会社側は遺族すら把握できておらず、身寄りの無い状態だったという。ツアーバス会社『イーエスピー』(東京都羽村市)は、事故を起こした運転手の法定の健康診断や適性検査を実施していなかっただけでなく、当日の健康状態を確認する事前点呼も怠っていたことが、国土交通省の特別監査で判明している。イーエスピーの社長は土下座謝罪。「国交省の監査を受け、運行上の管理の未熟さ・杜撰さを実感した」として、大型バス事業から撤退する方針を明らかにした。

更に、ツアーを組んだ旅行会社『キースツアー』(東京都渋谷区)の社長は浅黒い肌に茶髪と、稍“チャラ男”の雰囲気を漂わせていた。スキーツアーには10年以上携わっており、「業界最安値にこだわる」を宣伝文句に格安ツアーを企画。今回のツアーも、バス代・宿泊費等込みで1泊1万3000円~と激安だった。ツアーは、多い時で1日6~7台のバスを運行。冬場は若者向けのスキー旅行を中心に、粗毎日ツアーが開催されていた。しかし、キースツアーの運行指示書には出発地と到着地が書いてあるだけで、経路の記載は無い。運行終了時に作成する“終業点呼簿”が事故前から作られていて、実施済みの印鑑も押してある等、杜撰過ぎる管理を行っていた。事故を受けて、キースツアーの社長は「100%責任がある」と語り、「ご家族には誠心誠意対応する」と話した。「但し、このキースツアーは社員は実質3人で、5年前に立ち上げたばかり。昨年の売り上げは約1億6000万円程度で、社長はタワーマンションに住んでいたものの、死傷した乗客26名の補償を到底賄うことはできず、破産は時間の問題です。イーエスピーは社屋が物置で、元々は警備保障会社や中古車販売の会社をしており、資金に余裕がある会社ではない。バスも中古で、昨今の外国人観光客の急増に依る観光バス需要の増大で、『儲かるから』と観光バス業に乗り出したに過ぎません。つまり、どこも責任を負えるような会社ではないのです」(経営ジャーナリスト)。更に明らかになったのは、運転手がブラックな環境で働かされていただけではなく、このイーエスピー自体も買い叩かれていたという事実だ。「国交省に依ると、イーエスピーは今回のツアーを、安全確保の為に道路運送法で定められている基準額の下限(約26万円)より安い約19万円で、キースツアーから受注しています。相場から見ても、本来であれば23~24万円程度なのですが、雪不足に依る集客不振等から今回のツアーは買い叩かれ、更にもう1社、旅行会社の“トラベルスタンドジャパン”(東京都千代田区)が間に入る形の契約になっていました。イーエスピーには、2社から買い叩かれた残りの金額しか入ってこないのです」(同)。それでいていざツアーとなれば、バスを用意した上で、運転手を複数配置させる必要がある。バス会社にしてみれば、コストが嵩み、経営上殆ど旨みの無い状態だった筈だ。入社したばかりの高齢者に不慣れな大型バスを運転させざるを得ない経営状態。「こんな事故を起こすバス会社は許せない」と事故直後に尾木ママは憤るが、それは金儲け最優先で弱肉強食の世の中を知らなさ過ぎるというものだ。“こんな事故を起こした”のは、規制緩和を進めた政府や日本社会なのだ。




20160326 05
今回の事故で、2007年や2012年のツアーバス事故を思い出した人も多いだろう。2007年2月、大阪府吹田市でスキーツアーバスがモノレールの橋脚に衝突し、27人が死傷。2012年4月には、群馬県藤岡市の関越自動車道で東京ディズニーリゾートへの貸切ツアーバスが壁に衝突して、45人が死傷した事故がマスコミを騒がせた。大阪の事故は運転手の居眠り運転で、関越道の事故も運転手が眠気を感じながら運転を続けたとされる。「2012年に事故を起こした貸切ツアーバスの運転手は中国残留孤児の子弟で日雇いでしたし、事故を起こしたバスの運賃は約3500円と、同じ区間を走る高速路線バスの半額近い料金でした。しかも、バス会社は旅行会社から2社を経た下請けだったのです」(新聞記者)。最近では粗5年毎に重大な死傷事故が起きているが、実は貸切ツアーバスの規制緩和後の2000年代に頻発するようになったのだ。それまでは免許制だったバス会社が許可制になり、一気に参入障壁が低くなったからである。抑々、夜行高速バスが誕生したのは1960年代。旧国鉄(現在のJR)が列車を補うものとしてスタート。高速道路網の整備と共に拡大した。列車は大都市間を結ぶものだったが、夜行高速バスは列車ならば赤字路線の大都市と地方都市を結ぶことも可能で、高速バス路線の開設が続いた。地方の中小バス会社も、過疎化で生活路線の赤字を夜行高速バスで換回できるビジネスチャンスと、大都市の大手バス会社と相互連携も始めていった。2000年には自民党政権下で、それまでの免許制から許可制に規制緩和され、新規参入が相次いだ。特に急増したのは、コースや旅程(停留所他)等が決まっている高速路線バス(乗合)ではなく、貸切ツアーバスだ。旅行会社が旅程を決め、バス会社に運行を委託する仕組みだ。規制緩和前の1999年の2336社から、2000年には2864社、2012年には4536社へと大幅に増加した。その内の7割が車両数10両未満の小規模事業者だ。JR・私鉄や高速路線バスとの差別化を図る為に、貸切ツアーバスは低価格化。価格面では独り勝ちで、貸切ツアーバスの利用者は2005年には21万人、2010年には600万人と30倍も増加した。しかしその余波で、利用者が大幅急減した高速路線バスは次々と廃止を余儀無くされ、ブルートレインを始めとするJRの夜行列車も廃止された。

規制緩和前後の変化を、元バス会社役員が解説する。「貸切ツアーバスは、規制緩和前の1990年代前半には免許制で、1回のツアーで営業収益(実働1日1車当たりの営業収入)が10万円を超える収益の高い事業でした。当時、貸切ツアーバス業者は高速路線バスも兼業し、高速路線バスの赤字を貸切ツアーバスの黒字で穴埋めする形になっていたのですが、規制緩和されることで参入業者が急増し、貸切ツアーバスは黒字ビジネスではなくなり、高速路線バスの赤字も穴埋めできなくなったのです」。一事業者当たりの営業収入を見れば、規制緩和前である1999年の2億4400万円から、2008年には1億2260万円へと半減。また、『日本のバス事業2014年度版』では、調査対象事業者(貸切バス事業)の403社のうち、40%に当たる162社が赤字を計上しているほどだ。その結果、会社は運転手を非正規社員に置き換える等の人件費抑制を余儀無くされ、車両更新時期の延長や車両整備費の抑制等といった経費削減を迫られている。安全性のリスクが高まり、様々な事故は年間400件に上る。「国土交通省は度重なる事故で対策に乗り出していますが、運賃に関しては届け出制を取っているものの、この届出運賃の下限を実際の運賃が下回っていても、変更命令を出さずに放置したままなのです。当然、自由競争となれば契約先の旅行会社の立場が強くなり、旅行会社の言い値が罷り通ってしまう。価格優先で、安全コストは全く無視されてしまうのです。また、この弱肉強食の契約の間に仲介業者も入ります。こうした業者は安全性をお座なりにして、自分たちの利益だけを追求するのです。貸切ツアーバス同様に、安全性が心配されるものとしてLCC(ローコストキャリア=格安航空会社)がありますが、LCCは旅行会社や仲介業者等が介在しません。介在しないことでコストを下げているのですが、貸切ツアーバスはコストを下げた上に旅行会社や仲介業者等が介在して、更に買い叩くビジネスモデルなのです。政府が規制緩和に、企業が価格競争に走った皺寄せは、運転手と乗客に“安全性の軽視”という形で向けられるのです。これは、規制緩和で抑々予想された危険なのですがね…」(前出の元バス会社役員)。

20160326 06
更にここにきて、中国人観光客の急増で日本国内の観光バス需要が高まっているが、腕のいい運転手は逃げてしまい、安全性が低いブラックな労働環境では、不慣れな運転手しか働かなくなる。国土交通省に依ると、全国のバス運転手の数は、ここ10年間で約2万人と粗横這いで推移。平均年齢は上昇傾向にあり、2012年時点で48.5歳と、10年前に比べて2.9歳高くなった。全産業の平均年齢と比べると、6歳も高い。しかも、60歳以上の割合は16.4%で、6人に1人に当たる。運転手の高齢化が進む一方で、発病や不注意に依る事故を予防する措置が不十分なのだ。整備不良に依る観光バスの火災も相次いでいる。昨年12月28日午前8時45分頃、池袋で停車中の観光バスから出火。車両は製造から約22年が経過していた。翌29日には、長崎県雲仙市で停車中の大型観光バスから出火。車両は製造から約18年が経過していた。今年1月4日には、札幌市で走行中の観光バスのタイヤから出火。車両は製造から約23年が経過していた。車両の製造後、運輸局に登録されてからの期間を示す“車齢”は、昨年の時点では平均11.76年と、2000年(平均8.28年)に比べて3年以上伸びているという。次は、バス火災に依る死亡事故が起きてもおかしくないのだ。


キャプチャ  2016年4月号掲載
ドキュメント ブラック企業 [ 今野晴貴 ]

ドキュメント ブラック企業 [ 今野晴貴 ]
価格:734円(税込、送料込)



スポンサーサイト

テーマ : ブラック企業
ジャンル : 就職・お仕事

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR