TPPに打ち勝つ日本農業の道――小泉進次郎氏インタビュー

来月から始まる『環太平洋経済連携協定(TPP)』国会承認を前に、日本農業の“伸びしろ”を強調する小泉進次郎氏。昨年10月に自民党農林部会長に就任し、父親譲りの歯切れのいい物言いで注目を集める。自民党のホープが語った“日本農業が今後、世界と互角に渡り合う条件”とは――。 (聞き手/編集委員 安藤毅・清水崇史・鵜飼秀徳・西雄大・須永太一朗)

20160329 04
──来月からTPPの承認案と関連法案が国会審議入りする予定です。関係者との意見交換や現場の視察を精力的に熟していますが、日本農業の現状をどのように見ていますか?
「物凄く伸びしろがある産業だと見ています。農業が持っている力を最大限に発揮させる為には、やらなければならないことが一杯ある。課題を1つひとつクリアしていければ、必ず日本の農林水産業は最も伸びしろがある産業として将来、評価頂ける世界にできる筈です」
「但し、そうなるには条件がある。『今までの政策の延長線上に未来は無い』という認識を皆で共有することです。農林部会長になって今、拘っているのは、先ず事実をしっかり認識することです。この重要な政策分野で、方向性を見誤ることがない形にしていくには、何よりもファクトが大事です。一部の実態だけを見て、一部の人たちの声だけを聴いて対策や政策を考えたら、方向性を誤りかねない」
「関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンド合意後の1994年から20年間で、農業総産出額は約11兆3000億円から約8兆3600億円に減り、生産農業所得は約5兆円から3兆円弱になり、高齢化率は34%から63%へ、そして耕作放棄地は約56万haも増えました。この間、政府がいくら農業分野に予算を投入してきたかと言えば、補正予算も含め71兆6000億円余りになります。今まで自民党が担ってきた農政に関して、反省がしっかりなされなければ未来は無い」

──昨年11月に小泉部会長中心で纏めたTPP対策は、“農政新時代”を掲げました。
「TPPは、日本の農業にとっては恐らくビッグバンに近い。既に、新たに4ヵ国ほどが『参加したい』と言っています。つまり、TPP自体が形を変え、広がっていく、深化していく。それだけでなく、日本とヨーロッパ連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉も進んでいます。アジア太平洋地域全体を包むような、より大きな経済圏の議論も出ている」
「日本農業の将来にとって必要なのは、目の前のTPP対策ではなく、環境変化に強い持続可能性のある強い農業を作っていくことです。それが農業の成長産業化であり、農政新時代に込めたメッセージです」




20160329 01
──自民党のプロジェクトチーム(PT)で具体策の検討を進めています。
「キーワードの1つが、“努力が報われる農業”の実現です。その為に、『生産者の努力では対応できないところへ国がしっかり乗り出していく』ということがセットになります」
「PTでは飼料・農業機械等の生産資材の価格形成の仕組みや、流通・加工の業界構造の見直し、戦略的な輸出体制等を検討しています。国際的に見ても、日本農業の生産コストは高い。世界と戦っていく為に、そして農業者の皆さんの努力が報われる為に、どうやったらこれを適正な形にできるか。そして流通の構造も、農林水産物が消費者に届くまでに、農業者の手取りがどれぐらいなのかを検証したことがありませんでした。これを見える化していく必要があります」
「PTでは農業機械・肥料・食品流通・製粉等、各分野で今の業界構造がどうなっているかの資料を公にし、ファクトを基に議論できる土台作りを進めています。長い間、農政を担ってこられた農林部会の先輩の方々から、『こういう資料を今まで見たことは無かった』と言われたのは驚きでした」
「資材問題については、先ずはこの世界の構造を明らかにし、その上で農家の方が1円でも安く資材をどこからでも買えるような環境や、公平で公正な切磋琢磨できる環境を整えていかなければいけない。そして、それを阻害するような要因も排除していく必要があります」
「今まで放置していたのは、農林水産省だけでなく、政治・産業界・農業団体の責任もあると思う。そこに、これから手を着けるということです」
「農業の業界構造を明らかにしていくことで、僕が何を世の中に訴えたいかというと、『農業の世界にはビジネスチャンスが一杯ある』ということです。農業の世界には、未だ生まれていないサービスが沢山ある筈。これを意欲ある民間のベンチャー企業等、新たなプレーヤーに感じてもらいたい」
「その結果、“農業版Uber”のようなサービスが出てくるかもしれない。そうすれば、使っていない農機を、必要な人が安価に使えるようになる」
「資材を日本のどこで買うのが最も安いのか等がわかるような“農業版価格ドット・コム”、そして“農業版Amazon”のような新たなサービスも生んでいきたい。こうしたことが成し遂げられれば、農業機械に対するコストは下がっていくでしょう。新たなサービスが生まれ得る環境を整えることが、僕ら政治がやらなきゃいけないことです」

──既得権益にメスを入れると。
「一言で言えば“護送船団”です。護送船団を今まで温存してきた。その中の快適さもあったんでしょう。しかし、そこに浸かっていたのでは農業者が報われない。これからTPPを含め、日本を取り巻く環境が変化する中、世界に打ち勝つ農業を確立する為には、この護送船団とも言える今までのやり方を抜本的に変えなければいけない」
「これをやらなかったら、僕が部会長になった意味は無いですよ。今までのようなやり方で成長産業化ができるのであれば、今までのやり方を知っているほうがやればいいじゃないですか。今までのやり方を僕は知りません。今までの大切なところを踏まえながら、新たな方向を示していきたい」

──輸出振興については如何ですか?
「日本の美味しい和牛・果物・野菜等の海外市場の開拓を考えていかないと、日本の農業はパイを大きくできません。外国の文化に合わせ、どういったものなら売れるのかをしっかり見ていかなければなりません。産地がバラバラにやるのではなく、ある程度の量を集めて世界に出していくべきです」
「国が音頭を取って協議会を作って、関係者を並べて『宜しく』と言ったところで、この歯車は回らないと僕は思う。そこで大切なのは、本気で輸出に光を感じ、チャンスを感じている、こういった人たちの力を最大限、発揮させたほうがいい。それを後押しするのが国の役割だと思います」

20160329 02
──2018年にコメの生産調整(減反)が終了します。農政の中心であり続けたコメ政策については如何でしょう?
「日本と韓国のコメの生産コストを比較してみると、韓国に比べて日本の種苗費は2倍、肥料費も2倍、農薬は3倍、そして農機具は5倍です。韓国は農家毎にコンバインやトラクターを持つのではなく、作業委託が浸透していて、農機をある程度効率的に使う農業が根付いています。様々な資材が日本より安いこともある。こうした点に手を着けていかなければなりませんね」
「日本の農政と言えばコメと言われるくらい、コメ政策を避けて日本の農業の将来は語れない。今、僕が気になっているのが、農業の就業者と所得の現状です。コメ農家の多数は、兼業農家と言われる準主業農家と、老後の生きがい等の形の副業的農家。そして、準主業や副業の皆さんの農業所得は年間で約30万円です。稲作従事者の平均年齢は69.9歳で、他の品目と比べて高齢化が進んでいる。そこに国の税金投入という形で支え続けていくことに、国民の理解とあるべき農業政策との整合性が図られているのでしょうか?」
「政府は農業・農村の所得倍増を掲げていますが、倍増させなきゃいけないのは、農業を主な収入源として営んでいる主業経営や法人経営体の所得です。一方で、老後に体を動かし、地域を守って、生きがいを持って人生を送って頂くことは、社会保障費削減や地域の維持発展にとっても素晴らしいことで、そこは前向きな評価をしなければいけない」
「ただ、そうした農業の在り方に産業政策的な支援策をやるのは間違っている。国民の負担の在り方をより効率的にし、より国民の理解があるものにしなければいけない。コメ政策の持続可能性ということで言えば、最後は価格は国が守ってくれるというところは脱しなきゃいけない」
「現代の食生活・ライフスタイルにコメがどのようなものに位置付けられるのか、見直すべきだと思います。パンの消費額がコメを上回っている現在、どうやったら今のライフスタイルでも受け入れられるコメの在り方ができるのか、考える必要があると思いますね」

20160329 03
──「農林中央金庫(農中)はいらない」と、農協金融について厳しい発言をしましたね。
「『現状は農業者の為になっていますか?』ということです。内部留保は1兆5000億円もある。資本金は3大メガバンクより多いのに、農中単体の農業融資は貸出金の0.1%に過ぎません。国や役所に十分な予算がある訳ではない。農業者にしてみれば、系統金融機関にお金があるのに必要な融資がなされない。だとしたら何の為にあるのかということです」
「僕のこうした言葉を受け止めて下さったのが、農中の河野良雄理事長です。今年1月末の日本経済新聞のインタビューで、『農中の法人税の優遇措置を銀行等と同じ条件にして頂いても、個人的には構わないと思っている』と発言されました。『自ら変わらなきゃいけない。農業を変える』という意欲の表れだと思いますね。いいキャッチボールじゃないですか」
「僕は全国の農協関係者に会う際、必ずお伝えすることがあります。『農協の役割は何ですか? それは、1円でも高く生産者の皆さんが作ったものを売ること。そして、1円でも安く生産者の皆さんに資材を卸すことだ』と。これをやっていれば、農家から農協への不満が出る筈がない。あるべき姿に変えていく為の大きなプレーヤーとして、全国農業協同組合連合会(全農)がある。そのことを真剣に考えてもらいたい」

──農業分野での企業の役割は?
「農業を変える鍵だと思いますね。農業の根本的課題の1つが、若い人が入って来ないことです。若い人が見向きもしない世界に未来は無い。若い人たちが農業をやりたい。そう思ってくれるようにするには、法人経営を増やしていかなければなりません。サラリーマンのように休みも取れて、農業への参入を高いハードルと感じないような法人経営を増やすべきです」
「様々な情報を公開し、見える化することで、農業が開かれた世界になる。要は、普通の産業になっていくことで、より多くの企業が参入し、経営感覚を持った農業の実現が加速する。そうした流れを一層、後押ししたいですね」

──政府が、国家戦略特区の兵庫県養父市で、条件付きとは言え、事実上の企業に依る農地保有を容認しましたね。
「養父市の広瀬栄市長とお会いしたことがあります。町の存続や将来に対する強烈な危機感は、他の特区と比べて次元が違うものがある。こうした地域の思いに政治がどう応えていくかが問われました。自民党内では慎重意見が多かった。農地法を巡る懸念等は私も理解できます」
「ただ最後は、『養父市という特定地域で、今までやってこなかったことでも試してみよう』という思いが議論の中で生まれてきたのは、自民党自身の変化だと思う。今までだったら、議論されることなく終わっていたんじゃないですか。『農政が変わらなきゃいかん』というこの雰囲気は、間違いなくある。若手だけじゃないですよ、先輩方も共有している」


キャプチャ  2016年3月28日号掲載


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テーマ : 農政
ジャンル : 政治・経済

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