「アメリカの経済格差、是正を」――ジョセフ・スティグリッツ氏(経済学者)インタビュー

コロンビア大学教授でノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ氏(73)は、アメリカ経済の現状や世界の注目を集めるアメリカ大統領選をどう見ているのか。政府の会合への出席等の為に来日した教授に、アメリカが抱える問題や解決策をじっくり聞いた。 (聞き手/企画委員 河野博子)

20160401 01

――アメリカ国内で広がる経済格差について、近著で警鐘を鳴らした。大統領選に影を落としているのだろうか?
「(経済格差は)とてもとても重要な役割を演じている。特定の人々が苦境に立たされていることが大きい。大学を卒業していない人々、しかも女性よりも男性が困っている。民主党の支持者たちは問題の解決を模索しているが、共和党のドナルド・トランプ候補の支持者に見られるのは、破壊的な怒りだ」
「怒りの原因は3つ。第1に、大きな経済格差。第2に、それを不公正と受け止めていること。『私のカネが銀行や金融関係者に盗まれた』という訳だ。(リーマンショックに始まる金融危機の)関係者の中には詐欺紛いのことをやった人もいるのに、誰も責任を取らなかった。第3に、基本的な社会制度への不信感だ」

――「格差の拡大は、レーガン政権以降のこの35年間の政策やルールの結果である」と述べているが。
「例えば、労働組合の力を弱めた。金融市場での規制を緩和した。企業活動に関する法律を変えて、企業の最高経営責任者(CEO)への権力の集中を図った。また、ストックオプション(役員報酬の一部として予め定めた価格で自社株を購入できる権利を与える制度)の導入を奨励して、(役員が株価を上昇させる為に)短期的利益を追求する短期主義を広めた。この結果、人材や長期的な技術開発への投資が滞った」
「一連の政策により富裕層を押し上げ、下層を底辺に叩きつけ、中間層を弱めた。中間所得者層の生活は、より困難になった。退職後の生活に備えて買った国債の利子がゼロになる、家を失う。子供を大学にやる余裕が無い人々も多い」
「アメリカンドリームは、今や神話になってしまった。アメリカで機会均等と平等は、先進国の中で最も低いレベルにある」
「今、最も大事なのは、政策やルールを書き換えるということだ」




20160401 02
――どのように政策やルールを変えればいいのか?
「例えば、法律改正でストックオプション制を廃止する。株主が役員報酬について知り、発言できるようにする。株を長く持つ株主がより多くの発言権を持つ仕組みや金融取引税を導入し、短期的投機を減らす」

――「経済格差の拡大は経済そのものを弱める」と主張している。
「殆どの経済学者は同意している。国際通貨基金(IMF)も同じ見解を示した。裕福でない人たちの機会を奪い、潜在的な力を封じ、政治プロセスを歪め、公的な教育・研究・技術開発への投資を遅らせる。富裕層は膨大な所得のうち、使う分の割合が低いので、消費が伸びず、需要が足りないという状況を齎した」

――トマ・ピケティ氏の著書により、経済格差問題に世界の関心が集まった。格差拡大は資本主義の歴史的発展の結果としている。貴方の分析や見解は、ピケティ氏とどう違うか?
「ピケティ氏は世界のデータを分析し、一部富裕層の富の蓄積が増えていく速度が経済成長を上回るとした。しかし、アメリカではそういう傾向は見られない。ピケティ氏は解決策として世界資本税の創出を提唱したが、無理だろう。アメリカ国内の政策を是正すれば、より平等な経済社会を実現できる」

――国連の持続可能な開発目標の1つに「国内及び各国間の経済格差を減らす」がある。
「各国間の格差が広がれば、国際的緊張が高まり、経済難民が増え、世界が不安定化する。途上国の状況を悪化させない適正な貿易協定を結び、援助や支援を行うことが必要だ」

■宇沢弘文氏の志を追求して半世紀…不平等・環境問題に迫る
スティグリッツ教授は3月16日、一昨年死去した東京大学名誉教授・宇沢弘文氏の追悼シンポジウムで基調講演を行った。国連大学で開かれ、テーマは『グローバル化と地球環境が限界に近づく中での持続可能な経済社会作り』だった。冒頭、教授は51年前の宇沢氏との出会いを振り返った。「当時、シカゴ大学教授だった宇沢さんが、全米から若い学生を招いて夏のセミナーを行い、マサチューセッツ工科大学の学生だった私も参加した。社会の中の不平等への関心から経済学を専攻したので、大きな影響を受けた。宇沢さんは、不平等や環境の問題を経済学の中で扱おうとしていた」という。教授によると、「シカゴ大学は保守主義的な経済学のセンターだった。そこで宇沢さんは、様々な対論を示していた」。スティグリッツ教授は講演の中で、今のアメリカの経済社会を「持続可能ではない」と断じ、「技術開発や研究を行うことの重要性や環境問題が顧みられず、物質的消費水準を上げることに主眼が置かれ、生活の質が考えられていない。このまま経済成長を追求すると、我々はこの惑星で生き延びられなくなる」と述べた。シカゴ大学のミルトン・フリードマン教授(故人)らは、規制や政府の介入を排除すれば市場が機能し、効率良く経済が成長して、社会全体が潤うという考え方を広めた。スティグリッツ教授は、その考えに批判的だ。また、気候変動問題について教授は、「大気は地球公共財。しかし、誰も(温室効果ガス排出削減の)コストを払いたくない」と指摘。昨年12月に国連の会議で採択された『パリ協定』について、“各国が自主的な削減目標を申し出て実施する自主的アプローチ”の限界に触れ、化石燃料の使用に税をかける“炭素税”を各国が本格実施し、輸出入の際に国境で調整を行い、国際的に広げる方法を提唱した。


≡読売新聞 2016年3月25日付掲載≡


スポンサーサイト

テーマ : 経済・社会
ジャンル : ニュース

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR