【ソニー・熱狂なき復活】(07) 社長直轄で新規事業創出…イノベーションを再び起こせるか

20160404 01
テレビやデジタルカメラ等、嘗ての主役が衰退していく中、次世代を担う製品の開発が急務になっている『ソニー』。目下、平井一夫社長の直轄で新規事業を創出するプロジェクトを加速させている。ソニーは昨年7月、クラウドファンディングサイト『First Flight』を立ち上げた。これは、自分が開発したい製品のアイデアを実現する為に、インターネットを通じて不特定多数の人から資金の提供を募るものだ。決済こそ『ヤフージャパン』との共同展開だが、ファーストフライトで扱うのはソニーのプロジェクトだけ。開発担当は全てソニー社員だ。同社の実験的な新規事業を定期的に提案する場となっている。扱う製品は、普通の家電とはちょっと違う。電子ペーパーを使った学習リモコン『HUIS REMOTE CONTROLER』や、同じく電子ペーパーで盤面とバンドを変更できる腕時計『FES WATCH』、タブレットと組み合わせることでドアからゴミ箱まであらゆる機器をIoT(モノのインターネット)にしてしまうDIYキット『MESH』等、ユニークな発想の製品が並ぶ。中には、5種類の香りを非常に狭い範囲に好きなタイミングで発生させる個人用アロマ発生器『AROMASTIC』のように、ソニーが扱う家電機器のイメージを超えたものもある。これまでの最大のヒットは、スマートウォッチ『wena wrist』だ。8月31日にクラウドファンディングを開始後、半日程度で目標額に達成。最終的には、目標額の10倍を超える1億円以上を集めた。通常のスマートウォッチは文字盤のあるヘッド部分に様々な機能を持たせる為、時計としてのデザインやバッテリー動作時間に問題を抱え易いというジレンマがある。ウェナリストのヘッド部分は普通の時計だ。バンドが充電式でスマートフォンからの通知を受けて振動する機能や、非接触ICカード『フェリカ』での決済機能を内蔵した。その結果、バンド部分の電池が切れても時計として使える。

クラウドファンディングを通じた新規事業は、ファーストフライト経由のものだけに留まらない。2014年12月には『サイバーエージェント』傘下の『Makuake』で、家の鍵をスマートフォンで開け閉めできるスマートロック『Qrio Smart Lock』のファンディングを実施。こちらも募集額の約17倍、2500万円以上を集めた。今のところ、ソニーが行ったクラウドファンディングの殆どが高評価だ。特に、ファーストフライトで提案される製品はユニークな発想で造られたものばかりで、「如何にもソニーらしい」との声も多い。一方で、厳しい評価をする人々も少なからずいる。理由は商品性ではない。募集額の規模がどれも小粒であることだ。現段階で最も大きな成功であるウェナリストでも1億円、他は数千万円の単位だ。売上高8兆円を超えるソニーからすれば、非常に小さな規模である。但し、集まった金額の多寡=売り上げと考えるのは早計だ。クラウドファンディングは、飽く迄も製品を生み出す“最初の一歩”。自分が考えて製品にどの程度ニーズがあるのか、潜在的な需要を顕在化する為のマーケティングツールという見方もできる。そこで実現した製品をマスに向けて販売するようになって初めて、本当の意味での売り上げとなるのだ。因みに、フェスウォッチやキュリオスマートロックは既に一般販売にこぎ着けている。但し、家電量販店等ではなくインターネット経由に限定している為、一般の消費者の目に触れる機会が少なく、今のところ大ヒットしているとは言い難い。平井社長は2015年1月、記者からクラウドファンディングを使った新規事業について問われ、「直ぐに収益に貢献するものではない」と答えている。経営陣も、『ウォークマン』『ハンディカム』『プレイステーション』のようなヒット製品がいきなり生まれるとは考えていないのだ。寧ろ、ソニーの狙いは別のところにある。クラウドファンディング関連事業を担当する新規事業創出部の小田島伸至担当部長は、「エンド・トゥ・エンドで(最初から最後まで)製品を作る事業経験を積ませる為だ」と説明する。新規事業創出部の創設に関わり、嘗ては『ソニー銀行』を立ち上げた経験を持つ『ソニーモバイルコミュニケーションズ』の十時裕樹社長も、こう指摘する。「組織が大きくなり、商品企画担当役員がイエスと言わなければ製品が出ない。もっと冒険が必要だ」。ソニーのような企業において、各製品は事業部単位で企画・製造される。分業し、効率的にビジネスを進める為の手法ではあったが、巨大組織になったが故に小回りが利かなくなった。




「特に、若手に経験を積ませる機会が無い」と十時氏は言う。ソフトウェアエンジニアとして入社した場合、最初は製品の極一部しか担当できない。ハードウェアとのマッチングを考え、ハード技術者と組んで交渉するようになるのは30代になってから。社外との折衝・協力企業の選定や販売・マーケティングまで視野を広げて考えるようになるのは、更に昇進してからである。ところが、今の製品はハードとソフトの境目が小さい。商品の設計や企画の段階でどう売るべきかを考えておく必要があるのだが、事業部という枠組みでビジネスをする限りはどうしても分業制になる。その結果、若い社員は製品の極一部にしか携わることができず、全体を見渡してビジネスを回すスキルを身に付けるには長い時間がかかる。ベンチャー企業は少人数の小回りの利くチームで、様々な新しい製品やサービスを生み出している。小さいチームであるが故に、各自が関わる領域は広くなる為、若いうちから多面的なビジネス判断ができる人材が育ちやすい。ソニーがクラウドファンディングを通じた事業創出に期待しているのは、ベンチャー企業の持つ“全体を見てのビジネス経験”を若手に積ませながら、新しい製品やサービスを生み出していくことだ。ファーストフライトから生まれた製品を開発するチームのスタッフは、兎に角皆若い。各チームの主要メンバーは10人程度と少なく、ハウスリモートコントローラーはソニー入社3年目、ウェナリストは入社2年目の社員が集まってできたチームが中心になっている。責任者もその中にいる。ウェナリストチームの責任者である對馬哲平氏は入社2年目だが、同事業の統括部長としてプロジェクトを率いている。「こうした経験は役に立つ筈。自分もソニー銀行を立ち上げた際、貴重な経験をさせて頂いた」と十時氏は言う。ソニーはベンチャースピリット溢れる会社と言われてきた。その理由は、どんどん新しいものを提案するだけでなく、それを事業化するダイナミズムがあったことだ。ソニー経営陣がクラウドファンディングに期待しているのは、大企業故の柵から離れて、“ベンチャーの精神と体験”を積ませ、次代の芽とすることなのである。


西田宗千佳(にしだ・むねちか) フリージャーナリスト。1971年、福井県生まれ。パソコンや家電、そしてネットワーク関連等、“電気かデータが流れるもの全般”を取材。小寺信良氏と共同でメールマガジン『小寺・西田の“金曜ランチビュッフェ”』を毎週金曜日に発刊。著書に『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社)・『ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える』(講談社現代新書)等。


キャプチャ  2016年1月30日号掲載


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