移民ノミクス始まる、外国人を生かす“3本の矢”――利益率が高い仕事にシフト、説明の仕方がグローバル化

中小から大手まで、新たに加わった外国人社員が企業の姿を変えている。「海外市場を切り開く」「組織を活性化する」「世界に通用する事業を作る」という“3本の矢”が、その鍵となる。共通するのは、外国人を“労働力”と見做すのではなく、「変革の契機にしたい」という思いだ。戦略的に外国人を受け入れ、多様性を新たな力とする“移民(イミ)ノミクス”が始まっている。 (宗像誠之・熊野信一郎・ロンドン支局 蛯谷敏・日本経済新聞企業報道部 佐藤浩実)

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①市場を切り開く
本社で働く社員の約3割が外国人で、国籍は約30にも及ぶ。ケニア、タンザニア、カメルーン、コンゴ…。「アフリカ諸国の出身社員が日本一多い」とも言われる企業が、東京都調布市にある。中古車のEC(電子商取引)サイトを運営する『ビィ・フォアード』。その本社オフィスでは午後4時を過ぎると、フランス語・英語・スワヒリ語等が飛び交う。同社の取引相手国は124ヵ国。このうち3割強を占めるアフリカのビジネスアワーが始まった為だ。創業者・山川博功社長の目標は「世界一のECサイトになる」。大風呂敷を広げているのではない。ビィ・フォアードの認知度は、アフリカ・中央アジア・南米等では抜群だ。同社の海外向け販売サイトの月間ページビュー(PV)は約5000万に上り、アフリカの一部の国では、その国におけるPVで10位以内に入ることもある。業績も急拡大している。設立11年目の昨年6月期は、売上高が前年同期比38%増の492億円を記録。新興国経済の不調という逆風の中でも増収傾向は続き、今年6月期は600億円を突破する見込み。2010年6月期に年2400台程度だった年間販売数は、6年間で約66倍の16万台に到達する勢いだ。日本には中古車輸出会社が山ほどあるが、その殆どが特定の地域や車種を専門とする中小企業。多様な地域をカバーし、専業で数百億円規模にまで成長したのはビィ・フォアードが初めて。その原動力が、日本で働く外国人社員たちの存在だ。ビィ・フォアードの取引先は各国の中古車ディーラー。ディーラーの担当者は、中古車の状態確認や値引き交渉等の為、電話をかけてくる。こうした問い合わせに各国の言語で対応するのが、外国人社員の役割の1つ。加えて、自分の出身国でのディーラー開拓や新しいビジネスモデル作り等の戦略立案も担っている。

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新たな市場に進出する際は、その国の出身者や言語を話せる人材を戦略的に採用してチームを作り、攻略法を考えさせるのがビィ・フォアード流。最近の成功事例はモンゴルだ。2013年から、日本語が堪能なモンゴル人を雇い始め、モンゴル人社員だけの5人の市場開拓チームを結成した。チームが新たに生み出したのは、中古車を購入したエンドユーザーにポイントカードを発行し、エンジンオイル等を割安に購入できるようにするサービスだ。モンゴル向けの中古車の輸出台数は2013年時点では0台だったが、昨年6月時点で月500台程度に躍進。モンゴルの中古車市場でトップシェアを争う地位に上り詰めた。「日本で、多くのお店がポイントカードを発行して販促に繋げていることに着目した」。モンゴルチームでリーダーを務めるホロルジャブ・ガルエルデネ氏は明かす。外国人社員に権限を与えることで自由な発想を引き出し、企業の成長に繋げている。最近では、外国人が活躍できるという社員の口コミが広がっている。それが、日本の大学を卒業したばかりの留学生や、違う業界での経験を持つ人材等、多様な外国人を呼び寄せている。現地法人等、海外市場の最前線で外国人社員の力を生かすことが必要なことは、もう当たり前。加えて国内でも、多様なバックグラウンドを持つ外国人は大きな戦力になる。その事実に気が付いている企業は他にもある。




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東京都八王子市にある鋳造メーカー『栄鋳造所』は、社員29人のうち、5分の1が外国人だ。5年前までゼロだった外国人が増えるに連れて、粗無かった海外売上高は2億3000万円(昨年9月期)に増加。同社の売り上げ全体の7割を占めるまでになった。数%だった経常利益率も15%に改善した。栄鋳造所は、リーマンショック後の2010年頃にタイへの進出を検討したが、直前で思い留まった。現地企業と話して、タイ進出後も熾烈な価格競争が続くことがわかったからだ。「これでは、タイに行っても日本と同じことを繰り返すだけだ」(鈴木隆史社長)。それが転機となった。「海外に出るのではなく、日本の組織をグローバル化しよう」と発想を変えたのだ。鈴木社長は、人材派遣会社出身の専務に外国人社員を増やすように指示。国内の製造拠点を生かしつつ、海外の仕事を手繰り寄せるべく動いた。程無くして、カメルーンや中東地域からの難民や、海外の大学からのインターン生らが続々と栄鋳造所に加わり始めた。当時の栄鋳造所は、外国人とは粗無縁の職場。「何故、日本語も碌にできない外国人を入れるんだ」と反発して辞める社員もいた。一方で、残った従業員は若手を中心に語学を真剣に学び始めた。遠い話だと思っていたグローバル化が突然、目の前に現れた為だ。社員の意識が変われば会社も変わる。ホームページを従業員で対応できる6ヵ国語の表記に変え、「海外からの問い合わせに24時間以内には返事できるようになった」(鈴木社長)。すると、アメリカ等からの試作依頼が徐々に増えてきたのだ。赤字でも止む無く受注していた国内の仕事は断れるようになり、利益率が劇的に改善した。勿論、課題にも直面してきた。“暗黙知”に頼った仕事は外国人にはわかり難い為、作業マニュアルを整備。給与体系も年功序列の要素を排除し、国籍や年齢に関係なく同じ軸で評価する人事制度を導入した。ビィ・フォアードと栄鋳造所――。何れも、革新的なビジネスモデルや技術を持つ訳ではない。共通するのは、外国人に権限を与え、新たな市場を切り開いたことだ。

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②社員の意識改革
同質な集団に全く違う価値観を持つ人材を入れると、異文化の衝突によって化学反応が起こる。これを前向きに受け止め、日本人だけの組織にありがちな旧態依然とした考え方を打破する試みが始まっている。舞台は、東京都国分寺市にある『日立製作所』の研究所だ。右の写真は、研究所内の打ち合わせの光景だ。日本人3人に対し、外国人社員が2人、外国人インターン生が3人と、外国人のほうが多い。音声認識や音声合成技術の研究をするチームで、日本国内にある日立の研究所の中で最も多国籍。主に多言語翻訳をする為の端末や、案内用ロボットに搭載する為の技術を開発している。この光景は、日立が敢えて日本の研究所で外国人を増やそうとしている方針の表れだ。ビジネスの主戦場が海外市場に広がる中、日立は管理職の役割等を世界共通の尺度で格付けするといった人事のグローバル化に着手している。事業部門でも、日本の本社にあった権限を海外拠点に移し、市場の近くで意思決定を早められるようにしている。事業や組織がグローバル化していく中で、残った牙城が日本の研究所。外国人研究員を増やすことで意識改革を促そうとしているのだ。音声認識技術等を開発するチームで特に外国人が多いのは、多言語翻訳に関する技術である為、様々な国の言語を話せる人員が必要なことと、欧米で先行している機械学習の専門家を増やす為だ。日立が開発しているロボット『エミュー2』に英語と中国語対応の音声認識技術を搭載する等、このチームは実績を上げつつある。

ただ、外国人研究員やインターンを日本人研究員のチームに交ぜることによる効果は、具体的な研究成果だけではない。「考え方や説明の仕方等をグローバル標準にする効果もある」(上段右写真右端の戸上真人主任研究員)。会話や説明が英語中心になるのは当然だが、話し方も変わり始めたという。日本人同士であれば当たり前と思って省略する場面でも、その前提や論理的な説明が求められるようになる。これを繰り返す内に、そのような説明の仕方が海外と同様に、日本の拠点でも普通になりつつある。研究所と事業部の関係も変わってきた。研究所は、事業部からの委託研究も担当する。日本人の研究員は慣例通り、事業部の要望に従いがち。それが外国人研究員だと、「何故、そのような研究開発が必要なのか?」「こういうアプローチにすべきでは?」等の意見が飛び出す。新しい発想や気付きが生まれることも少なくないという。社外の技術を活用する“オープンイノベーション”にも外国人研究員の方が積極的。自社技術に拘りがちな日本人より、発想は柔軟で自由。そんな外国人の行動に、刺激を受ける日本人研究員が増えている。長年の習慣や考え方を壊し、新しい発想を齎すという一石二鳥が生まれつつある。海外人材の登用を契機に会社の文化や慣習を変え始めたのは、日立製作所のような大手企業だけではない。工具商社の『ユーエム』(茨城県東海村)。北関東にある製造業や原発関連企業の“御用聞き”として工具を販売してきた、社員8人の企業だ。創業から20年余り。手掛けている事業に全く変化の無かったこの企業で、1年ほど前から矢継ぎ早に新規事業が生まれている。昨年半ばから、フィリピンへの工具の輸出が始まった。地元の企業と組んでリハビリ機器の開発も進めている。来月には、3Dプリンターによる試作品の造形サービスにも参入する。

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これらの新規事業の立役者が、イラン人難民のホセイン・エンサフィ氏(34)。NPO法人『難民支援協会』(東京都新宿区)が主催する企業面接会をきっかけに、昨年4月に入社したユーエム初の外国人社員である。2012年に難民として日本に来たホセイン氏は元々、ヨーロッパでアンティークの絨毯等を売ってきたビジネスマンだった。「扱う商材は違っても、ビジネスは世界共通ですよ」(ホセイン氏)と語り、創業社長の息子である川崎裕弥専務が頭の中で描いていた構想を猛スピードで実現している。3Dプリンターによる造形サービスの立ち上げには、フィリピンでCAD(コンピューターによる設計)を勉強する学生(左写真右)の手を借りた。日本の中小企業でインターンとして働くことをその学生が快諾したのは、英語やトルコ語等8ヵ国語を操るホセイン氏が指揮を執っているから。32歳の川崎専務は、「難民だから採用したのではなく、日本で出会えた海外人材が偶々難民だった。人の懐に入り込み、人を巻き込んでいく才覚に刺激を受けている」と話す。ホセイン氏は今年1月に自動車免許を取得し、新規事業だけでなく工具の営業も担当するようになった。40代・50代の年配社員とのやり取りも増え、社内に「負けていられない」という活気が生まれてきた。円高による製造業の海外移転や原発への逆風によって停滞していた数年前とは、雰囲気はガラリと変わった。順調に新規事業が軌道に乗るとは限らない。ただ、未来が見えずに燻っていた地方の中小企業が、新たな事業に挑戦する組織へと生まれ変わったことは確かだ。

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③世界標準を作る
外国人と一体となって世界に通用する事業や組織の仕組みを作り出そうとしているのが『星野リゾート』だ。「100%の笑顔でいきましょう!」――。午後5時30分、『リゾナーレ小浜島』(沖縄県竹富町)のレストランに女性の声が響き渡った。6人の日本人スタッフへとテンポよく指示が飛ぶ。声の主は、台湾人マネージャーの劉晏伶氏(25)だ。劉氏は、星野リゾートが2013年に始めた台湾での採用活動を通して入社した1期生。中国や台湾からの観光客に対応するスタッフではなく、日本人社員と同じように1年間のOJT(職場内訓練)を受け、昨年6月からレストラン部門のマネージャーに就いている。台湾から採用したきっかけは、星野リゾートが2011年秋に小浜島の宿泊施設の運営を受託したことだった。施設の再生には、約200人のスタッフを纏める中核社員が欠かせない。だが、沖縄本島の先の石垣島から更に船で移動しなくてはいけない小浜島は、人材を集めるのが難しい場所だった。そこで、総支配人の羽毛田実氏は採用方針を転換した。日本人に拘らず、海外の人材を採りにいくことにしたのだ。地理的に近い台湾の大学に求人広告を出し、劉氏らを採用した。すると、思わぬ効果が生まれた。「台湾人スタッフから、僕らが当たり前だと思い込んでいた小浜島の魅力に気付かされることが増えた」(羽毛田氏)。例えば、劉氏は見た目も鮮やかな小浜島の花に着目。レストランを訪れた客に数種類の花の香りを嗅いでもらい、気に入った花に合わせたワインを勧めるというサービスを生み出した。島の神話に擬えたイベントを企画した別の台湾人スタッフもいる。何れも、異なる視点や文化背景を持つ人材が加わることで引き出すことができた小浜島の魅力だ。星野リゾートは昨年、タヒチで海外初となるリゾート施設の運営を始めた。今年は、インドネシアのバリ島に高級宿泊施設『星のや』を開業する予定で、海外展開が本格化する。世界の大手ホテルチェーンと伍していくには、其々の現場で日本人と多国籍のスタッフが一緒にサービスを考え、提供する必要がある。

小浜島は、多様性を生かして世界に通用するサービスを作り出す実験場となった。スタッフの国籍や母国語を問わず、スムーズに育成できる仕組みも整えようとしている。アメリカの調査機関『NFAP』が先月、興味深いリポートを公表した。未上場で企業価値10億ドル以上のアメリカ国内のスタートアップ企業87社のうち、51%は移民が創業したという調査結果だ。『スペースX』を創業したイーロン・マスク氏は南アフリカから、『ウーバーテクノロジーズ』創業者のギャレット・キャンプ氏はカナダからの移民。71%の企業では、CTO(最高技術責任者)等の経営陣や開発の要職に移民が名を連ねている。異なる文化背景や価値観を持つ人が交わることで、革新を生む。それは日本でも実践できる。


キャプチャ  2016年4月4日号掲載


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テーマ : 経済・社会
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