【管見妄語】 お人好し日本のコメンテーター

テレビやラジオでコメンテーターとして活躍していたショーン・マクアードル・川上氏の学歴詐称と経歴詐称が報じられている。テンプル大学卒・ハーバード大学MBA取得・パリ大学留学という学歴は全て完全な嘘で、実際の最終学歴は九州の私立高校卒という。世界7都市に拠点を持つ経営コンサルタント会社代表というのも架空だった。ハーフのような顔と名前さえ嘘で、普通の日本人が整形により外国人顔に変えただけらしい。これだけ嘘で塗り固め、10年近くも活躍していたというから大したものである。今年のユーモア大賞といっていい。バレない為には相当の勉強もしていた筈だから、努力大賞でもいい。私も、この人物を何度かテレビで見たことがある。際立つ甘いマスクと魅力の低音は、どう見てもハーフにしか見えなかった。ただ、外国人やハーフ特有のアクの強いコメントに腹を立てることの多い私なのに、この人には不快感を持つことが一度も無かった。いつも日本人としての節度を保ち、極当たり前の話、即ち没個性的な一般論ばかりを語っていたからだ。「どんな素姓の人なのかな」と見る度に訝っていた。

主婦層に人気だったという。10年ほど前に『人は見た目が9割』という本が話題となったが、日本人は未だに容貌コンプレックスが強いようだ。これがあるから、アメリカであれほど女性にモテた私が、日本ではさっぱりなのだ。これがあるから、テレビに登場する白人やハーフが異様に多いのだ。同じ外国人でも東南アジア系・アフリカ系・アラブ系は極端に少ない。我が国では文明開化の明治以降、美貌の基準が徐々に白人になってしまった。誇り高き縄文人である私が取り残される訳だ。テレビに出演する彼らの多くはルックスと、日本語力や品格の欠如による粗野な物言いが受けているだけだ。こういった人畜無害の連中ばかりではない。コメンテーターを務めつつ、鳩山内閣時代から現内閣に至るまで経済関係の会議に加わり、構造改革の中心メンバーの1人となっているアメリカ人エコノミストもいる。その意見は全てアメリカの意向に沿ったもので、「日本をアメリカの都合のいいように改造しよう」とするものだ。経済では“全ての外国は敵”というのは鉄則なのに、マスコミや視聴者ばかりか政府までが有難がって御意見拝聴となる。お人好し日本だ。根深い白人コンプレックス・学歴コンプレックスだ。東大・ハーバード・イェール等を出た碌でもない人間を数多く知っている私としては、頭のクラクラする思いだ。




前述の川上氏が一時的に日本中を欺いただけなら、日本人のコンプレックスを見事に利用した冗談の類いで済むが、10年近くとなると問題だ。テレビ局も視聴者も特に疑念を持たなかったというのは、他のコメンテーターの多くも似たレベルということだからだ。テレビ局の意向に沿う、視聴者受けする意見しか言わないということである。例えば、大企業の利益しか頭にない経団連が政治経済ばかりか教育にまで口を出すのを批判することは、広告主を攻撃することだから、マスコミから容認されない。インターネットには正論もあるが、無限にある石ころから玉を選び出すには相当の見識が必要で、一般国民の意識向上には余り役立たない。斯くして、広告主に逆らわないこと及び視聴率向上の為の大衆迎合を旨とするマスコミ、そしてその意向を汲むコメンテーターの意見が国民大多数の意見となる。民主主義社会では国民大多数の意見が正義となるが、正義が正しいとは限らない。20世紀の戦争は粗、国民の正義により始まったようなものだ。イラク戦争開始当初、アメリカ国民の7割余りが正義に燃えて支持したが、数年後には逆転した。ベトナム戦争も同様だった。国民の正義等は移ろい易い幻のようなものなのだ。どの国においても必要なのは、国民の正義を打ち砕く嫌われ者なのだ。


藤原正彦(ふじわら・まさひこ) 数学者・お茶の水女子大学名誉教授。1943年、満州国生まれ。東京大学理学部数学科卒。同大学院理学系研究科修士課程数学専攻修了。ミシガン大学研究員・コロラド大学ボルダー校助教授等を経て現職。著書に『藤原正彦の人生案内』(中央公論新社)・『この国のけじめ』(文藝春秋)等。


キャプチャ  2016年4月7日号掲載


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