【悪夢の21世紀】(03) 世界中が『中国』に呑み込まれる日

なんで、あれが密漁なのだ。白昼堂々と我が領海を侵して。しかも200隻を超える大船団で海底環境を全く考えずにゴッソリと赤珊瑚を持ち去る。この明白な強奪行為について、「目的は日本の海防情況の調査だ」「制海権拡大への準備だ」「乗組員は漁師に偽装した兵士だ」「尖閣制圧への準備工作だ」「反習近平派の政権揺さぶり工作だ」「いや、習近平の贅沢禁止令が効いて高い魚が売れなくなり困り果てた浙江・福建漁民が新たに見つけた収入源だ」――様々な解説が聞かれる。

だが、その種の“合理的”な動機づけだけでは一種の強奪行為は十分に説明できそうにない。人類全体の貴重な自然資産であろうが、他人・他民族・他国の立場なんぞは一切お構いなし。日本海域の赤珊瑚はいうにおよばず、世界中のエネルギー資源はもちろんのこと、アフリカの象牙・世界中の鉄道路線やら不動産、さらにはアジアインフラ投資銀行(AIIB)に見られるような新たな国際金融システムなど、上は政府から下は庶民レベルまで、欲しいものをゴッソリと手に入れてしまおうという貪欲極まりない民族的性格にこそ問題の本質があるはずだ。しかも、国を挙げての“さもしい振る舞い”を不問にしたまま、中国政府は口を拭って知らんぷり。中国外務省スポークスマンの「悪いのは、中国と中国人を非難する外国のヤツラ」といわんばかりの小憎らしい態度が、彼らの増長ぶりを物語っている。




それが本心であったかどうかは別にして、「大国は小国を愚弄してはならない」「中国は永遠に謙虚でなければならない」と口にした毛沢東が死んでから2年3ヵ月後の1978年末、鄧小平は対外開放を断行した。「中国人よ本来の姿に戻れ。稼げる者は誰でも構わない。ともかくも稼ぎ出せ」とばかりに、民族が生まれながらに持っていた商人根性を煽った。その結果、中国経済は毛沢東時代の破局的状態を脱し、“世界の工場”への道を走りだす。天安門事件を乗り切った中国は、やがて香港返還を迎える。1842年のアヘン戦争敗北という屈辱の象徴である香港の“中国回帰”を実現させることで自信を深めた中国は、「中国可以説不(ノーといえる中国)」を声高に叫ぶようになる。たとえば『中国可以説不――猛醒的睡獅』(張学礼・華齢出版社・1996年)は、「世界は正しくあるべきだ。不服・不満があるなら声を挙げる。これが天下の正しい道だ。中国は大国だが、過去何百年来は屈辱の歴史でしかない」。それというのも「人類が空前の発達を遂げたにもかかわらず」、対外閉鎖によって「中国は大発展の機会を何度となく失」ったからだ。「輝かしい文明を持つ大国は、世界から遥か遠くの落伍した地点に置き去りにされてしまった」。だから中国は対外開放を進め“接軌”、つまり“世界の軌”と接することで、本来の大国へ回帰しようというのだ。独りよがりの生き方では、中国の発展は望めないということである。おそらくWTO加盟も、北京オリンピックも、上海万博も、中国が“接軌”の姿勢をみせたからこそ実現したのだろう。

だが、その一方で中国は徐々に、逆方向の“接軌”に舵を切った。世界が“中国の軌”に接することを求め始めたのだ。たとえば2002年、当時の江沢民主席は「走出去(中国人よ海外に向かって飛び出せ)」と大号令を掛けた。かくて中国人は怒濤のように海外に飛び出すことになったのだ。では、なぜ彼らは祖国を後にするのか。「不正を犯した幹部が逮捕を逃れるため」「共産党政権の崩壊を見越し、あるいは中国の将来に見切りをつけて」――これまた様々な“解説”がなされているが、じつはそうではない。歴史的に見て、彼らは移動を繰り返して来た民族なのだ。現代中国における華僑・華人研究の第一人者として知られる陳碧笙は、海外に多くのチャイニーズが住んでいる根本には「歴史的にも現状からみても、中華民族の海外への大移動がある。北から南へ、大陸から海洋へ、経済水準の低いところから高いところへと、南宋から現代まで移動が停止することはなかった。時代を重ねるごとに数を増し、今後はさらに止むことなく移動は続く」(『世界華僑華人簡史』廈門大学出版社・1991年)と語る。まるで“中華民族の海外への大移動”という“中国の軌”に世界は接するべきである、とでもいいたげだ。

江沢民政権に代わって登場した胡錦濤政権は一方で『和諧(調和)社会』建設を掲げながら、政権10年間の実績を振り返れば、ひたすら“中国の軌”を打ち出した。世界銀行発表のジニ係数が2010年実績でアフリカや中南米のどうしようもなく不平等な最貧国と同程度の0.6超であろうと、そんなことではたじろがない。ひたすら大国への道を突き進んだ。胡政権末期の2010年に出版された『大国思維――破解深蔵于大国的思維奥妙』(王宇編・湖南人民出版社)は、リーマンショック以来、地球規模で金融危機に見舞われながら、世界は新しい秩序の創出に苦慮しているとし、いまこそ中国モデル・中国の責任・中国の形象が問われていると強調した後、

①アヘン戦争敗戦以来の“自虐史観”を脱却し、弱国感情を克服せよ。
②中国はアメリカに世界経済・科学技術・国際関係の面での“3つの真の戦”を挑み、ありうべき国際的な地位を勝ち取れ。
③いまや中国は従前の“保守的思想”を克服し、他から影響を受ける“反応外交”から確固たる信念に基づいた“主動外交”に転ずるべき機会だ。
④かくしてこそ地域の大国を脱し世界の大国へと向かう道が拓け、“中国の心”が“世界の心”を牽引することになる。

と力説する。

もはや傲慢を通り越して奇想天外としかいいようはなさそうだが、同じく2010年、現在の習近平政権のキャッチコピーでもある“中国の夢”を掲げた著作が刊行されている。『中国夢――中美世紀対決・軍人要発言』(劉明福・中華書局)だ。人民解放軍幹部という肩書の著者によれば、大躍進を掲げた毛沢東も、改革・開放路線を領導した鄧小平も、孫文と同じ『世界第一主義者』であり、世界第一の中国こそが、

①発展途上国が先進国を打ち破り
②中国の特色を持つ社会主義が世界最大の資本主義国より優れ
③東方文明が生命力・創造力で西方文明を凌駕し
④白人優越主義を退け
⑤西欧中心の優越感を打ち砕く

かくして「現に進行中の中国が世界一になるという偉業は、経済的意義にとどまらず、政治的・文化的意義を秘め、将来の中国にとてつもなく大きな政治的・道義的資源をもたらすことになる」と胸を張り、であればこそ世界第一の中国を支える前提にアメリカを凌ぐ軍事力が必要なのだと獅子吼する。かくて“政治的・道義的資源”を備えた世界一の中国は、

①アメリカ式民主主義より優れた『“中式民主”の奇跡』
②福祉国家より均等の『“財富分配”の奇跡』
③多党政治より公平な一党独裁下での『“長治久廉”の奇跡』

――3つの奇跡を人類にもたらすことになる。“長治久廉”とは長期に安定した不正・汚職のない政治情況を指し、「富強の中国こそ必ずや清廉な中国である」と付け加えることを忘れない。

胡錦濤政権末期、次なる習近平政権誕生を前に出版された『崛起的大国――中国大趨勢』(馮凱編・中華工商聯合出版社・2011年)、『中国夢与中国道路』(周天勇・社会科学文献出版社・2011年)、『中華文明的根柢――民族復興的核心価値』(姜義華・上海人民出版社・2012年)などを改めて読み返すと、いずれも“中華民族の偉大な復興”を掲げ、やはり世界は“中国の軌”に接してこそ安定・安全が保たれる、と主張する。いまや世界は、“中国の軌”なるものを受け入れるのか否か。その立場を明確にすべき時期に立ち至っているのではなかろうか。やや大袈裟に表現するなら、いまや人類文明史的レベルで“中国の軌”の功(?)と罪を問い質す必要がありそうだ。


樋泉克夫(ひいずみ・かつお) 愛知大学教授。1947年生まれ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。愛知県立大学教授から現職に。著書に『“死体”が語る中国文化』など。


キャプチャ  2014年12月号掲載


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