【震災5年・原発事故のあと】(01) 廃炉工程、前例なき40年

東京電力福島第1原子力発電所の事故から、間もなく5年が経つ。今も残る未曽有の事故の影響を追った。

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福島第1原発では、約79万トンの汚染水が約1000基のタンクに保管されている。2月2日、その1つを解体する作業が行われていた。事故後に急造した組み立て式タンクだ。「戦場で火の粉を払うように、急場凌ぎの対策を打たねばならなかった」(『東京電力』の増田尚宏常務執行役)という5年間の象徴だった。東電は、密閉性が高く漏水し難い溶接式タンクへと順次置き換え、本格的な廃炉作業の段階へ進もうとしている。政府と東電が目標とする廃炉工程は最長40年。事故が起きた1~4号機のうち、放射線量が低い4号機の貯蔵プールからの核燃料取り出しは、2014年末に完了した。次は2017年度から、3号機のプールの燃料取り出しに入る。しかし、原子炉内の燃料が溶け落ちた3号機は、建屋内の線量が高く、作業員が長時間いられない。東電は、遠隔操作でプールの燃料を取り出す装置を『東芝』と開発した。装置には、目の役割を果たす計22台のカメラが取り付けられている。作業員は、原子炉建屋から約1km離れた別棟で、その映像を見ながら操作する。「燃料を落として破損させることは、絶対にできない」。東芝の関口晃一グループ長(46)は、作業員の訓練を緊張した面持ちで見つめる。最大の難題は、1~3号機の炉内で溶け落ちた燃料の回収だ。どこに落ちたのかも不明で、前例の無い技術開発が必要となる。政府は福島に国際研究拠点を設ける等、国内外の知見を結集する体制を漸く整えつつある。廃炉に向けては、技術開発以外にも課題が山積する。汚染水を抑制する“凍土壁”の工事では、掘削中に地中の電源ケーブルを誤って切断するトラブルが続発した。昨年8月に計画した2号機の内部調査も、ロボットの投入口を遮っていたブロック壁の構造がわからず、その除去が難航。調査は延期された。1960年代に建設が始まった同原発は、設計図面が残っていない設備等もあり、何れも情報を十分把握できずに作業を進めたのが原因だった。廃炉には、これまでに2000億円超の国費が投入された。東電は、廃炉完了までの費用として約1兆円を準備し、1兆円の積み増しを予定している。トラブル等で費用が膨らみ続ければ、税金や電気料金を通じて国民に負担を強いることにもなりかねない。『日本原子力学会』廃炉検討委員会委員長で法政大学の宮野広客員教授(67)は、「長期に及ぶ廃炉には、常にリスクが潜んでいる。漸く本格的なスタートの段階で、様々な困難が待ち受けているのはこれからだ」と話す。

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東日本大震災に伴う事故から約5年が経った福島第1原発において、原子炉や貯蔵プールの核燃料は比較的安定した状態を保っている。しかし、汚染水対策等の試練は続き、廃炉への道程は未だ遠い。2011年3月の事故では、原子炉の冷却に必要な電源を地震と津波で失い、運転中だった1~3号機の原子炉で核燃料(炉心)が溶融した。燃料と水の反応で水素が大量発生し、1号機と3号機、更に配管から3号機の水素が流入した4号機で建屋が爆発した。1~3号機では、溶けた核燃料が様々な物質と混じって冷え固まった“デブリ”が今も発熱している。冷却水が注入され、原子炉は10~40℃台で安定しているが、冷却水は壊れた原子炉から外に漏出。建屋に流入する地下水等と合わさり、1日約550トンの高濃度汚染水が発生している。一時は36万トン以上の高濃度汚染水が敷地内のタンクに溜まっていたが、浄化装置『ALPS』等による処理が進展。今は、タンク内の水の多くが浄化済みで、海等へ流出した場合のリスクは大幅に下がった。ただ、全ての放射性物質を除去することは技術的に難しく、現在は海へ放出できない。保管量は増える一方だ。一方、建屋内の核燃料貯蔵プールには、1~3号機で計1573本の核燃料があるが、冷却システムが安定して稼働し、最近は水温の異常な変化は無い。4号機は、プールにあった燃料1535本の取り出しが2014年12月に完了した。廃炉は、燃料を全て回収し、最終的には建屋を解体して更地にするのが目標だ。政府と東電は、2020年度までに1~3号機のプールの核燃料取り出しを始め、2021年からデブリの回収に入る計画。この5年間、様々なトラブルで何度も工程が見直されてきただけに、今後も計画通り進むかどうかは予断を許さない。1~3号機が中心となる今後の廃炉作業は、放射線量との闘いだ。作業員の被曝を少しでも減らしながら、過酷な現場での作業を確実に進める必要がある。当初は、放射性物質の吸入を防ぐ全面マスク等の重装備が敷地内の大半で必要で、作業員の負担が重かったが、東電はここ数年、除染と舗装を推進。現在は、90%の区域で全面マスクが不要になった。東電で作業環境の改善を担当する山中和夫部長(51)は、「軽い装備で行動できる場所を更に広げていきたい」と話す。廃炉に向けた最難関はデブリの回収だが、線量が極めて高い格納容器内等の作業はロボットが頼りだ。東電はメーカー等と協力して、容器内を調査するロボットを開発しているが、現在は10時間ほどしか活動できない。強い放射線が当たると、カメラや電子回路の半導体等が壊れてしまうからだ。放射線に強い機器の開発が急がれる。格納容器のロボット調査は、先ず1号機で昨年4月に行われたが、デブリは撮影できなかった。デブリを回収する技術の開発は、未だ緒に就いたばかりだ。 (科学部 野依英治)




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■再稼働へ審査厳格化
福島第1原発事故は、全国の原発に大きな影響を与えた。事故前は、福島第1を含む17原発で計54基が稼働していた。2013年7月に原発の新規制基準が施行されて以降は、原子力規制委員会の安全審査で基準への適合が認められないと、運転を再開できなくなった。新基準は福島事故を教訓に、自然災害への対策強化を求め、重大事故を想定した対策を義務付けた。これまでに電力11社が16原発28基の審査を申請したが、審査は軒並み長期化。再稼働にこぎ着けたのは、『九州電力』川内原発(鹿児島県)の1・2号機と、『関西電力』高浜原発(福井県)の3号機だけだ。何れも“加圧水型軽水炉(PWR)”と呼ばれるタイプ。福島第1原発と同じ“沸騰水型軽水炉(BWR)”は、重大事故対策の要求が厳しく、申請までに時間がかかった為、未だ1基も再稼働できていない。福島事故後、原発の運転期間の上限は、原則40年と決められた。例外的に、1回限り最長20年の運転延長が認められるが、古い原発は新基準への適合に必要な安全強化策等に膨大な費用がかかる。この為、昨年3月、関電が美浜原発1・2号機、『日本原子力発電』が敦賀原発1号機、『中国電力』が島根原発1合機、九電が玄海原発1号機の廃炉を其々決めた。

■チェルノブイリ、廃炉の目途立たず
炉心溶融(メルトダウン)を起こした原発の後始末は、過去に海外で発生した大事故でも困難を極めてきた。1986年に原子炉が爆発したウクライナのチェルノブイリ原発4号機は、4月26日で事故から30年が経つが、廃炉の目途は立たない。最大の課題が、溶け落ちた核燃料の回収。建屋内に広がってコンクリートや砂等と共に固まり、その総量は1300トンに上る。今でも放射線量は非常に高く、回収にはロボット開発が必要だ。1月末に現地を取材したが、極寒の作業環境の中、本気で廃炉を進めようという勢いは感じられなかった。内部は粗手つかずで、目立った対策は放射性物質の飛散防止くらい。事故置後に急拵えで建屋を覆ったコンクリート製の“石棺”が老朽化し、更に外側からすっぽりと覆う“シェルター”(高さ110m・幅260m・奥行き150m)が建設中だった。同原発のアレクサンドル・ノビコフ副技師長(51)は、「今後、回収の具体的な計画を策定する」と話した。事故で飛散した放射性物質は福島事故の6倍に上り、今も一部の食品が汚染されている。『農業放射線学研究所』(キエフ市)のバレリー・カシパロフ所長(57)は、「泥炭地ではセシウムが土壌に吸着されず、牧草へ移行し易い」と語る。ウクライナでは、各地で食品検査が行われている。原発から南西130kmのコロステン市の市場には、放射性物質の検査所がある。豚肉を販売する女性(54)は、「検査は日常の一部。自分たちの肉が安全と証明するには検査が必要だ」と話す。 (船越翔)

■スリーマイル、燃料回収に11年
ペンシルベニア州のスリーマイル島原発2号機は1979年3月、機器の故障や運転員の操作ミスが重なって炉心溶融に至った。溶けた核燃料は原子炉圧力容器の中に留まり、事故の規模は福島第1より小さかったが、それでも燃料の回収を終えたのは事故から約11年後だった。回収作業は、現場の放射線量が下がるのを待って、1985年10月に開始された。容器内を水で満たして放射線を遮り、水中カメラや超音波で炉内を観察した。その上で、鉱業用ドリルをコンピューターで制御しながら、カチカチに固まった燃料デブリを砕いて回収。1990年1月に完了した。デブリは『アイダホ国立研究所』(アイダホ州)で保管され、最終処分地は未だ決まっていない。『アメリカ原子力規制委真会(ZRC)』の技術者として対応に当たったレイク・バレットさん(70)は、「燃料がどれだけ溶けたか、実際に見るまでわからなかった。容器内の水が微生物の繁殖で濁る等、原子力技術者が初めて直面する問題もあった」と振り返る。「燃料取り出し等の廃炉に向けた作業では、予想外の事態が起き得る。柔軟に対応する姿勢が重要だ」と強調した。 (ワシントン支局 三井誠)


≡読売新聞 2016年2月23日付掲載≡


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テーマ : 東日本大震災
ジャンル : 政治・経済

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