台湾総統選、国民党敗北でどうなる?――プロレス化する中国・台湾対立の今後

中国と台湾は何故、いつも対立し合い、仲が悪いのだろうか? 近親憎悪か、それとも根深い歴史があるのか? 今更、人に聞けない中国と台湾の対立を丸分かり解説する。

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今年1月中旬に行われた台湾総統選で、野党『民進党』の蔡英文主席が与党『国民党』の候補に大差をつけて圧勝した。南部・高雄市の地震によって被害が広がる台湾だが、この選挙結果が台湾と中国の間で新たな火種となっている。民進党は台湾の独立を主張してきた政党で、中国との“統一”を主張する国民党と政争を繰り広げ、罵り合い、両党の議員が殴り合ったりしてきた。主席の蔡英文も、今回の総統選で表立って台湾の独立を主張しないが、本来はバリバリの独立派として知られる。しかし、中国(中華人民共和国)の言い分は、「台湾は国家ではなく、飽く迄も“台湾省”という中国の一部だ」というもの。抑々、台湾の住民たちが自分たちで総統というリーダーを直接選ぶこと自体が、中国政府にとっては面白くないというのである。総統というのは、英語で言えば“プレジデント”のことだ。台湾は『中華民国』を名乗っており、台湾総統は中華民国の大統領ということになる。これは、台湾を国と認めない中国にとって許し難いことらしい。実際、中国側は早速「誰が当選しようと、如何なる形式の台湾独立も許さない」「若し台湾が独立しようとするなら、武力の使用も辞さない」と牽制し、咋に不快感を示している。総統選を機に、台湾と中国の対立が俄然、きな臭いものになってきたのだ。中国は2005年に『反国家分裂法』という法律を作り、台湾が独立宣言等に踏み切った場合、武力を行使する可能性も明記している。中国の軍事費の増大、特に海軍増強の目的は、台湾有事を睨んだものだ。中国の国防戦略は、強大な軍事力でアメリカと対等に渡り合うこと。アメリカと戦争して勝とうというのではなく、台湾独立等の重大な問題が起きた時、アメリカの圧力を跳ねのける力を持つことを目標としている。東シナ海や南シナ海での中国の海洋進出も、そういう目的が含まれている。中国にとって、台湾はそれくらいナーバスな問題らしいのである。一体、台湾と中国は何故対立しているのか。

抑々、台湾と中国の対立には日本が大きく関係している。1894年から翌年まで続いた日清戦争で、清、つまり当時の中国に勝った日本は、下関条約によって台湾を清から奪い取った。ただ、当時の台湾は人口が少なく、産業も無く、清朝にとっては取られてもどうってことのないものだったのである。日本はインフラや農地を整備して、台湾に産業基盤の基礎を作り、義務教育を導入して住民が読み書きできるようにした一方、植民地化する際に、軍が抵抗する住民を武力によって鎮圧し、1万人以上を殺害。警察力による強権政治によって台湾を支配した。因みに、この当時から台湾に住んでいた人たちを“本省人”と言い、現在も台湾の人口の約85%を占めている。その後、太平洋戦争で連合国に敗れた日本は植民地を放棄し、台湾は大陸の中華民国に返還された。しかし、問題は台湾が返還されたのが『中華人民共和国』ではなく、蒋介石率いる国民党の『中華民国』だった ことだ。当時、毛沢東が率いる中国共産党は未だゲリラ組織に過ぎず、中国大陸は中華民国の支配下にあった。ところが、国民党と共産党の内戦が始まると、日本軍の兵器を接収したソビエト連邦が中国共産党を援助し、力関係が一気に逆転。中国共産党は内戦に勝利し、1949年10月1日に北京の天安門から中華人民共和国の成立を宣言する。この時、敗れた国民党が逃げ込んだのが、彼らに唯一残された支配地域の台湾だったのだ。当時、大陸から台湾に移民した国民党の官僚や軍人、その家族は200万人以上に上り、この人たちのことを“外省人”と言う。国民党は台湾の政治・経済の実権を握り、その前から台湾に住む本省人を徹底的に抑圧。住民が蜂起して暴動を起こすと2万人以上を虐殺し、日本の植民地時代に教育を受けた知識人たちも根こそぎ殺されたという。同じ日本の旧植民地でも、韓国に比べて台湾には親日の人が多いが、それは「当時の国民党に比べれば日本のほうがマシだった」ということもあるだろう。国民党が支配する台湾の中華民国と、大陸の中華人民共和国という“2つの中国”は、こうやって生まれたのだ。しかし、この時、毛沢東が直ぐに台湾を攻撃して軍事的決着を付けていれば、現在のような問題にはならなかった筈。それをしなかったのは、当時の中国共産党に海軍が無かったことに加え、1950年6月に朝鮮戦争が勃発した為だ。北朝鮮に肩入れする社会主義勢力のソ連や中国に対し、アメリカは台湾を経済的・軍事的に援助することで対抗した。台湾と中国の対立は、“冷戦構造”が生んだものでもあったのである。




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とは言え、冷戦などとっくに終わっている。何故、台湾と中国は未だに対立しているのか。そこにはやはり、「台湾は中国の一部なのか、それとも別々の国なのか」という非常にデリケートな問題が横たわっている。戦後に発足した国連の安全保障理事会には、一般の国よりも強い力を持つ“常任理事国”というのがある。常任理事国は、アメリカ・ソ連(現在のロシア)・イギリス・フランス・中国の5ヵ国だ。しかし、ここでいう“中国”とは中華人民共和国ではなく、国連結成時に大陸を支配していた中華民国のことだったのだ。そこで、ソ連が「中華民国が中国を代表する国家として加盟しているのはおかしい」と問題視し、国連総会は「国連の“中国”は中華人民共和国にする」という決議を採択。アメリカは翌年、これを事実上承認して中華人民共和国と国交を結び、日本も追随した。この時、多くの国が中華人民共和国を“唯一の中国”とする立場になったのである。孤立した台湾は国連を脱退し、スポーツの国際大会からも一時的に姿を消した。オリンピック等では、台湾を中華民国ではなく『チャイニーズタイペイ』という不思議な名前で呼んでいるが、そこには、この時の国連脱退の問題が背景にあるのだ。また、台湾にも当初、「台湾は中国の一部である」と考える人が少なくなかった。驚いたことに、台湾の学校では1996年まで台湾の歴史を一切教えず、中国大陸の歴史ばかりを教えていたという。1987年まで戒厳令を敷く等、台湾を支配していた国民党にとって、目標は中国大陸を共産党に代わって支配することにあった。自分たちの国は飽く迄も中国大陸と考え、中国共産党との間で“中国の本家争い”をしていたのだ。

“1つの中国”という根っ子が同じである以上、そのまま台湾で国民党の外省人による政治が続けば、“統一”によって問題が解決した可能性もある。実際、今年1月の総統選でも、中国は国民党側の“影の支援者”となっていたという。そこに“独立”という概念を打ち出し、現在に至る台湾と中国の本当の対立構造を作り出したのが、1988年に“本省人”として初めて総統になった李登輝(上段左写真)である。李登輝は、2005年に日本に来た際に大騒ぎにもなったので、覚えている人もいるだろう。李登輝政権の下で政治犯が釈放され、報道の自由が認められ、野党の存在も合法化される等、民主化が急ピッチで進んだ。この際に誕生したのが、独立を主張する民進党だ。また、学校では教科書で台湾の歴史の勉強をするようになり、「台湾は台湾。中国の一部ではない」という“台湾人意識”を生んでいく。更に李登輝は、総統選のやり方を住民自らがリーダーを選ぶ直接選挙に切り替える。住民が総統を直接選ぶのは、国家としての台湾は住民の意思によるもので、中国大陸とは無関係ということを示すものだ。勿論、中国政府は激怒する。李登輝を口汚く罵倒し、総統選挙の真っ最中に“訓練”と称して、台湾の東と西の沖合にミサイルを打ち込むという実力行使の恫喝行為に出たのである。現在の台湾問題は全て、この延長線上にある。実質的な独立を国際社会に認めさせたい台湾と、何としてでも阻止したい中国の争いがずっと続いているのだ。

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そんな中で、独立を主張する野党が政権を奪取。台湾が独立に向けて具体的に動き出せば、台湾有事となって、周辺海域が火の海になる可能性も指摘されている。しかし現実的には、どう考えてもそんな事態になりそうもない。確かに、今回の総統選の結果は、「“1つの中国”には反対だという民意」とされている。国民党の馬英九前政権時代、台湾は中国に露骨にすり寄り、中台で経済協力協定も締結。それにより、台湾にとって中国は最大の貿易相手国になり、輸出依存度は30%(2015年6月現在)にも達した。同時に、台湾企業の大陸進出は一層進んだものの、同じように中国企業のライバルも次々に台頭。中国人観光客の受け入れも解禁したことで、爆買いする大量の中国人が台湾を我がもの顔で闊歩するという、日本でもお馴染みの光景が繰り広げられた。その結果、出てきたのが“中国脅威論”である。中国依存を強めても就職先はどんどん減り、給料は上がらず、チャイナマネーの不動産投機で家を買うこともできない。こうした不満が最高潮に達したのが、総統選の結果だった訳だ。ところが、 最近の台湾の世論調査を見ると、そこには驚くべき数字が並んでいる。自分が「台湾人だ」と答える人が6割に急増する一方、1990年代に3割もいた「中国人だ」という回答が1割に減少し、一番多かった「両方」という回答も2割に減った。その一方で、「直ぐに独立すべき」と答えた人は1割に満たず、「現状維持」という回答が8割以上に上っているのだ。台湾問題の現状維持を望んでいるのは中国も同じだ。中国が市場経済を取り入れて以降、6万社以上の台湾企業が大陸に進出し、駐在員も既に相当な人数に上る。中国の経済発展は台湾のおかげという部分が大きいのである。中国は相変わらず「台湾は中国の一部である」という主張を繰り返しているが、本音の部分ではやはり現状維持を望んでいるという。大体、国際的な立場は兎も角、実質的には既に台湾は独立している状態なのだ。それで何も問題が無い以上、誰だって現状維持が一番いいに決まっている。両者の間には、日本も関わる対立の歴史があるのは事実。しかし、その対立は今や“プロレス化”しつつあるのである。


キャプチャ  2016年4月号掲載




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テーマ : 台湾
ジャンル : 政治・経済

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