【東京情報】 談合いいじゃないか

【甲府発】山梨県甲府市に車で向かう途中、談合坂のサービスエリアに寄った。“談合坂”という地名の由来は幾つかあるらしい。1つは、近郊の村の寄り合い場所であり、そこで村同士の利害調整が行われたという説。また、武田信玄の娘が北条氏に嫁ぐ際に婚儀の約束事について話し合った場所という説もある。抑々、談合とは「皆で話し合う」という意味だ。そこから「競争入札の参加者同士が落札者と金額を前以て決める不公正な話し合い」という意味が派生した。先日、東日本大震災で被災した高速道路を巡る談合が発覚。『東日本高速道路(NEXCO東日本)』関東支社発注の工事で、道路舗装業者8社がさいたま市内の飲食店に集まり、メモを渡す等情報共有をしていたという。『公正取引委員会』の調べに対し、関係者の1人は「暑気払いで集まった」と説明したそうな。何とも日本的な表現だが、談合には“必要悪”の側面もあり、彼らに悪意があったようには思えない。今回、我々が甲府に向かったのも、ある談合事件を取材する為である。アルバイトの小暮君が、レンタカーのカローラを運転しながら言う。「確かに談合で決めれば、入札が不調に終わることもなく、直ぐに工事が始まります。でも、民間企業は私腹を肥やす訳ですから卑怯だと思います」。後部座席でふんぞり返っているフランス人記者が言う。「青いな、若造。道路は単純にアスファルトで固めればいいというものではない。5トントラックが走っても壊れないような丈夫な土台を作らなければならない。標識を立てる必要もある。道路は産業の生命線なんだ。東日本大震災後の状況下においては、一刻も早く再建する必要があった。入札などしているより、業者が談合して役割分担を決めてよかったんだ」。

メディアは“談合=悪”と決め付けているが、少し疑ってかかったほうがいいだろう。戦後の日本において、談合は悪ではなかった。談合により過当競争が回避され、安定した国土建設が行われてきたことは事実なのだから。談合に対し世間の目が厳しくなったのは、アメリカの『外国貿易障壁報告書』の影響がある。アメリカ通商代表部は、毎年のように日本市場の開放を求めてきたが、その中に「談合行為の罰則を強化せよ」との要望がある。これは、アメリカ企業の日本進出を後押しする為だろう。小暮君が呟く。「アメリカの圧力か…。でも、アメリカにも談合は存在するという話を聞いたことがあります。尤も、ロシアや中国のほうが収賄事件は多いのでしょうが」。午前11時、甲府南インターチェンジに到着。高速から下り、南アルプス市へ向かう。平成の大合併で白根町はここに組み込まれた。言わずと知れた自民党・金丸信元副総裁の地元である。時代劇には悪徳商人が山吹色の菓子を差し出すシーンが登場するが、金丸の自宅からは大量の金の延べ棒が見つかっている。フランス人記者を旧白根町付近で降ろし、我々はアポイントメントを取っておいた取材先を回った。一定の成果を得ることができたので、午後7時にフランス人記者と合流。遊亀公園前の蕎麦屋に入った。取り敢えず名物の鳥モツを注文。運転する小暮君には悪いが、ビールを頼んだ。取材に応じてくれた郷土史家によれば、日本で談合が始まったのは江戸時代だという。幕府による公共事業が行われるようになると、業者は工事を落札する為に手土産を持ってくるようになった。また公共事業には、西方に追いやった外様大名の勢力を削ぐ目的もあった。大規模工事を押し付けることにより、幕府を攻撃する力を蓄えるのを阻止する訳だ。大名はギリギリの予算しか組めないので、結局、業者に皺寄せがいく。そこで業者は、自分たちの損害を少なくする為に談合を始めたのである。




小暮君が頷く。「なるほど。談合は業者の自衛手段でもあったのですね。業者が疲弊すれば、公共事業も成り立たなくなる。僕は少し誤解していました。公平・中立であることは、時と場合によっては時間とカネを無駄にすることになる。談合により業者が調整を図るのは、寧ろ合理的かもしれません」。フランス人記者が同意する。「結局、抜け落ちているのは“品質”という観点だ。江戸時代でも、入札競争が激しくなるに連れ、工事費用を抑える為に手抜き工事が横行するようになった。俺が今日調べた事件は、結局はシロだったが、過度な談合批判の結果、無用な疑いが発生したとも言える」。天婦羅が運ばれてきたので冷酒に切り替えた。しかし、私が疑問に思うのは、普段から談合を批判するマスメディアが報道談合を繰り返していることだ。東日本大震災直後、各社の記者はお涙頂戴の美談を書き連ねた。だが、肝心の死者数や行方不明者数は、記者が自治体を回って集計するよりも、記者クラブに回ってくる官庁・自治体・警察のペーパーを利用した者が多かった。私が『S・P・I通信』のバンコク支局にいた頃の話だ。日本の首相がタイを訪れ、記者会見をした。私は大勢の日本の記者が来るのだろうと思ったが、会場に行くと1人もいない。日本から同行した記者たちは、首相と同じ高級ホテルに宿を取り、そこで遊んでいた。会見の内容は、報道官がペーパーにして配ってくれるという訳だ。ある時、私が取材をしていると、某新聞の官邸番が近付いてきて、「ミスター・デンマン、これから官邸クラブのレクになるから席を外してくれ」と言ってきた。ふざけた話である。記者クラブの連中は、建設談合を叩くことに矛盾を感じないのかね? 食事を終え、フランス人記者がポケットから財布を出し、会計を済ませた。「ところで、今回の取材費は全部、俺が持つ。それでお願いがあるのだが、御社が今日掴んだ情報、一応うちのスクープという形にしてくれないか?」。これこそ卑劣な談合、読者に対する裏切りではないか。 (S・P・I特派員 ヤン・デンマン)


キャプチャ  2016年4月14日号掲載




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