【宮崎哲弥の時々砲弾】 リベラル再装填のために part.5

原アべノミクスの3本の矢とは、①大胆な金融政策②機動的な財政出動③民間投資を呼び起こす成長戦略――だった。だが、③はサプライサイドの改革、所謂構造改革が主であり、それらは恒久的に不要とまでは言わないが、現下のデフレ脱却という課題には全く不急の施策なのだ。病根はサプライサイドではなく、ディマンドサイドにある。総需要が不足しているのだ。『フィナンシャルタイムズ』経済論説主幹のマーティン・ウルフの言葉を思い出そう。「『供給でなく需要が重要なのだ、愚か者』ということだ。民間、特に企業部門の構造的な貯蓄過剰が政府を赤字財政に向かわせて債務が膨らんでいる」(『アべノミクス、核心は民間需要の不足』・日本経済新聞電子版2016年1月12日付)。どうして日本の新聞には、こういう正鵠を得た論説が載らないのだろう。メディアで頻りと語られるのは、「アベノミクス第3の矢が不発」という話ばかりだ。しかし、スティグリッツが強調しているように、総需要が不足している状況下でいくら構造改革を推し進めても、「失業を増加させるだけで、経済成長には寄与しない」のである(『国際金融経済分析会合』第1回資料より)。「こんなことは、完全雇用に達したあとではじめて意味がある」のだ(松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』・大月書店)。特に法人税減税や金融市場の規制緩和、環太平洋経済パートナーシップ協定(TPP)推進など愚の骨頂である。

不発だったのは第2の矢のほうだ。こちらは第3の矢と異なり、緊要な政策だった。再びウルフの説示を引く。「財政政策の矢は放たれていない。国際通貨基金(IMF)によると、2013年の日本の財政拡大は景気循環要因調整後でGDPの0.4%に過ぎない。同調整後の財政赤字は2014年、同年春の消費税率5%から8%への引き上げという誤った政策を主因としてGDP比1.3%減少している。2015年も同様の緊縮となる見通しだ」(前掲)。同様に、『ウォールストリートジャーナル』も「第2の矢である財政出動は財務省の圧力を受け間もなく減少した」と第2の矢の不発を報じている(『アベノミクス、行き詰まりへの道』2月12日付)。ここでも日本の経済政策報道の歪みを看て取ることができる。一般の人々は2014年以降も、第2の矢の方針通り、大規模な財政拡張策が維持されていると思い込んでいる筈だ。それどころか、新聞等の予算関連の報道は例外なく、「過去最大規模」だの「財政規律が緩んでいる」だの「大盤振る舞い」だの「無駄遣いの懸念がある」だの、果ては「バラマキ」だのと報じてきた。緊縮財政への変質を批判した一般紙は皆無だ。




はっきり言って、この国の新聞は擬似現実を捏造している。その閉ざされた言説空間が英米のジャーナリズムによって破られるという異常事態だ。旧民主党に愛想を尽かした嶋聡氏の言ではないが、「『アベノミクスは破綻した』と非難するだけでは、まるで日本経済の失速を願っているような印象を残すだけだ」(『日曜に想う/メインにならぬニッチでは』・朝日新聞3月13日付朝刊)。けれど、第2の矢の不発という失政は、リベラルにとって恰好の攻めどころの筈である。スティグリッツやポール・クルーグマン、ローレンス・サマーズらリベラル系経済学者の提言にもあるように、世界経済の大沈滞・長期停滞に対処できるのは財政政策である。金融緩和は必須だが、補助的な役割に限定される。リベラルこそアべノミク スの不履行を突き、消費減税と大規模補正予算を公約すべきだ。だが、岡田克也・枝野幸男・野田佳彦といった到底リベラルとは思えぬ緊縮派が民進党の幹部に居座る限り、かかる時策は採り得まい。先ずは野党におけるパワーシフトが必要だ。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2016年4月14日号掲載




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