【どの面さげて】(07) “リア充”圧力の嫌な感じ

イケメンで“豪華過ぎる”恋愛遍歴で知られるモテ男に、いいオジさんが嫌味を言うのは嫉妬みたいだし、あまり趣味がいいとは言えない。それを承知の上で、捨ておけない俳優がいる。伊勢谷友介である。NHKで白洲次郎や吉田松陰の役をやった人である。つい目に留まってしまったのは、例によって朝日新聞の記事だった。「成長を追いかけるあまり、みずから地球を食いつぶそうとしている。人間って愚かな生きものですね。でも、愚かなままで終わりたくありません」。昨年10月7日の『リレーおぴにおん』欄の冒頭である。この思い切り上から目線、どうでしょう? 「自分だけが賢い」とでも言いたいらしい。“聞き手/諸永裕司”とあるから、書いた記者の問題もありそうだが、観察を続けているとかなり確信犯であるのが判明した。
今年1月20日付の、“座右の銘☞挫折禁止”という意味不明の但し書きが付いたアカウントから発せられたツイートである。当然、物議を醸した。御説御尤もかもしれないが、『SMAP』より人気の無い芸能人からは言われたくない。

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この御仁の自信の源は、8年続けているという『リバースプロジェクト』という株式会社にあるようだ。「リバースとは『再び、生まれる』。世の中で捨てられたり使われなくなったりするものにデザインで命を吹き込み、新たな商品としてよみがえらせる。俳優業と並行して、母校である東京芸術大学などの仲間たちと始めました」。で、廃棄された車のエアバッグやシートべルトからダウンジャケットやバッグを作ったり、倉庫に埋もれていた布を新たなデザインで売り出したり、30以上のプロジェクトに取り組んできたそうだ。当然、被災地でのボランティアにも熱心だし、“地球に優しい”お仕事が満載で、ゴリゴリの反原発論者。『メンズノンノ』モデル出身で、映画監督をしたり、“アート”方面でも活動をしているけれど、何が本業なのかよくわからず、中途半端。あまりに朝日が持ち上げるのを訝しんでいたら、『社会彫刻』という最初の本が朝日新聞出版から出ていた。やはり論客候補ですか。自分は“志士”で、『松下村塾』をやっているというのだが、いい加減“維新”幻想も止めて頂きたい。伊勢谷だけが悪いという訳ではない。というか、“NPO法人”とか“ボランティア”方面(デモも含む)でご活躍されて、SNS的に経歴を盛り、“リア充”っぽい“モテ男”を演出していると思しき方々が諸方面に増えつつあるのが鬱陶しいのだ。大体、本業が微妙な人に限って“社会貢献”に熱心。同じ臭いがする筆頭は、世界の“反原発”音楽家・坂本龍一と目星をつけてみたら、やっぱりリバースプロジェクトと共同で事業を手掛けていた。ボーカロイドの『初音ミク』でオペラを作ってフランスで上演したという同窓生の渋谷慶一郎は、中山美穂の元カレ。いっそ、キャンドル・ジュンくらいぶっ飛んでいれば楽しいけれど、フツーの世間に未だ片足を置いているほうが始末が悪い。




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今時の“社会貢献”型胡散臭さの元祖は多分、田中康夫ではないかと睨んでいる。阪神・淡路大震災の時、原付で被災地を駆け廻って災害救援を行う姿は、『なんとなく、クリスタル』の作者らしく、確かに新鮮ではあった。その勢いのままに“脱ダム”を掲げて長野県知事となり、2012年まで国会議員を続けた康夫ちゃんがどれだけ“社会貢献”したか、微妙という他ない。しかし、石原慎太郎とはまた違う、“意識高い系”の出世コースを準備したのは確かである。湾岸戦争時の文学者の集会で、いきなり別行動を取り、事務局を買って出て立ち上がった瞬間の、高揚してテラテラ輝いた顔つきが忘れられない。あのバブルっぽい『東京ペログリ日記』で、連日連夜の“おショックス・デート”を書く態度こそ、先駆的な“リア充”的感性だろう。元々“リア充”は、“コミュ障”の“オタク”の“ネット民”が使っていた呪詛の言葉である。女の子たちと一緒にバーベキューをすれば、もう“オタク”離脱で“リア充”組みたいな意味だったのが、毒気が薄められて、曖昧なまま流用されるようになった。だから、どこかに嫉妬と羨望の黒い色が残っており、それ故に広く流通したのだろう。大体、伴侶にも恵まれ、カネもあって、友だちにも慕われ、名の知られた団体の1つや2つ立ち上げ…みたいな本物“リア充”人間は、世界中どこにも存在しない。本気で競争をすれば、ドナルド・トランプとかべルルスコーニが案外いい線行っている領域ではないか。康夫ちゃんが大活躍した20世紀末は、未だSNSが普及しておらず、活字媒体でご活躍を拝見するだけだから、未だ目立たなかった。しかし、ブログを通り越して、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムと素人が“発信”できるメディアが増え、幾らでも“リア充”を演出できるようになれば、もう無法地帯。今の女子高生は人類史上、最も大量の写真を撮っている世代という。女の子の日常写真ならば未だいいけれど、基本的に代わり映えしない生活を送っている年代になれば、何かを頑張るしかない。その方向性が、誰にも文句の付けようのない“社会貢献”に集約され、“就活”中の学生にまで影響を及ぼしていて、“リア充”圧力から脱落したら落伍者みたいな嫌ったらしい雰囲気。そのトレンドの只中に伊勢谷の自意識がある。

「巧言令色鮮し仁」とは言わないまでも、目立つのが仕事なのだから、何故オフぐらい普通にしておれないのか。「実質的に社会とかかわりながら、社会の改善を促していくというソリューションを会社が持っていること自体、僕は1つのファインアートだと思っています」という伊勢谷。ヨーゼフ・ボイスの唱えた“社会彫刻”に近い概念というけれど、人智学をべースに常に賛否両論を捲き起こしながら『緑の党』の結成に参加し、現代芸術のシャーマンであり続けた御本家とはやっぱり一緒にできない。槍玉に挙げ続けて申し訳ないが、あまりに典型的なので面白くて、伊勢谷の履歴を調べてしまった。確かめようもない噂は兎も角、昨年6月18日放映の『櫻井有吉アブナイ夜会』(TBSテレビ系)での発言にはびっくりした。映画『天の茶助』で共演した女優・大野いとの出番で、趣味のパン屋巡りに言及した時、VTRで耳に付けているクロワッサンのピアスを見て、「全然意味がわかんねー。耳にクロワッサン着けて素敵って思う気持ちわからない」と発言し、周囲が凍りついた。スタジオでゲストが食パンを食べている時も、「パン俺食べなくて全然いい」「バターとか小麦が内壁にへばりつくから」とか不規則発言を連発。放送事故として語り継がれている。地球を救う前に、目の前の女の子に放送中だけでも優しくしたほうがいいと思う。どうやら、アドリブが要求されるバラエティーは苦手らしい。“ボランティア”や“NPO”について考える時、2011年に撮影された『DOCUMENTARY of AKB48』の第2弾を思い出す。心の準備も無いまま、バスで被災地訪問ライブに向かう道中、酷い破壊を目にして顔面が蒼白になるAKBメンバー。しかし、現地に到着して歌う内に、子供たちが踊ったりして、自分たちの存在が何かの意味を持つことを発見していく。あの経験は深いところで彼女たちの糧になっているだろう。狙ってはいけない。10年後、伊勢谷友介・DAIGO・高橋みなみの3名は、かなりの率で政治家になっている気がする。伊勢谷の異母兄は山本寛斎だし、冒頭のSMAP発言効果で次の参院選の出馬も噂されているくらいだから、“志士”の前途は洋々か。しかし、もう1つ別種の『生活の党と山本太郎となかまたち』が生まれるのならば、全力で止めたい。


川東吉野(かわひがし・よしの) フリージャーナリスト。1961年、兵庫県生まれ。早稲田大学文学部卒。昭和文学愛好家。趣味はJR中央線沿線探訪。


キャプチャ  2016年3月号掲載

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