【働きかたNext】第9部・老いに克つ(04) “老害シニア”お断り――現役世代の力、引き出す

20160419 15
「あの人と一緒なら、もう辞めたい」――。大手システム会社の人事担当者は数年前、若手にこう告げられ、思わず言葉に詰まった。問題の人物は、定年後の再雇用で働く60代のシニア社員。碌に仕事もせず、勤務時間中に社用携帯で飲み会の相談をし、資料作成も若手に振る。仕事が回らなくなった若手から悲鳴が上がった。年金の受給開始年齢の引き上げや元気な高齢者の増加で、職場に増えるシニア社員。だが、管理職だった“現役”時代の意識が抜けない人は多い。「過去の経験に拘る」「柔軟性に欠ける」「事務仕事を押し付ける」。『企業活力研究所』の調べでは、シニア社員に対する現場の不満が並ぶ。意識をリセットし、“老害”と敬遠されない為にはどうすべきか。「このパソコン、調子悪いので再設定お願いします」。『タニタ』(東京都板橋区)の情報システム課長・山田学(54)が指示を出す相手は、2代前の課長の松岡徳男(67)だ。松岡は、子会社の『タニタ総合研究所』に属する派遣社員。タニタでは定年後も働く人は総研に転籍し、タニタからの依頼で派遣する。何か問題は無いか。職場の要請があれば派遣社員を変更する。総研社長の今正人(66)は、「定年後の再雇用は過去の上下関係が引きずられる」と指摘する。総研が仲介することで互いに襟を正し、職場が円滑に回るようになった。学習院大学教授の今野浩一郎(69)は、「自分はもう管理職ではなく、担当者の1人と自覚することが重要」と指摘する。

若手や中堅にとって、職場に増えるシニアは、ただでさえ職と賃金を奪い合う対象だ。そんな現役世代を理解し、支える意識を持つことが欠かせない。「赤ちゃんは関節が柔らかいから気をつけて」。2015年10月中旬、保育補助員の養成講座。慣れない手つきで人形のおむつ替えをした山田一(65)は、『ホンダ』で海外駐在20年の元企業戦士だ。未知の職場に挑むのは理由がある。「現役時代は子供に関われなかった。孫や子育て世代に貢献したい」。保育士の負担を減らす山田のような働き方が増えれば、共働き世帯の活躍に繋がる。若手の力の引き出し役に徹するシニアもいる。『トヨタ自動車』の生産現場を勤め上げた池田一美(66)は毎週、長野県の部品会社『南信精機製作所』に通う。所属するトヨタ系コンサルティング会社の仕事はカイゼン指導だけではない。働きがいを感じる職場作りだ。池田は若手の発言の否定もせず、具体的な指示もしない。聞き役に回り、時折適切な助言を行うだけだ。南信精機の村瀬寛昭(27)は、「若手が自分で考えて動く組織に変わってきた」と語る。就労観も違う上に、年金等負担を強いられる若者世代とシニアの逃げ切り世代では当然、摩擦も起きる。だが、人口減社会では年齢や立場を超えて力を合わせなければ結果は出ない。現役とシニアが互いの立場を理解し、力を引き出し合う。そんな働き方が明日の成長を呼び込む。 《敬称略》




20160419 10
「悪気は無いが、つい昔の手柄話をしてしまう」「年下の上司からの指示にむっとした顔をしてしまう」「昔、面倒を見た後輩だし、これくらいの態度は許されるだろう」――。そう思っても、度が過ぎると“老害”と言われかねない。どんなことに気をつけたらいいのか、人事制度やキャリア構築の専門家に話を聞いた。チェックリスト(左表)を参考に、心当たりがないか確かめてみよう。チェックしてみて、該当数は幾つだろうか。『中央職業能力開発協会』(東京都新宿区)でシニアに移行する為のワークショップ等を担当する泉田洋一氏は、「6つ当て嵌まったら立派な“老害”。3個以上あると老害候補になる」と話す。勿論、シニアだけではなく、何れはシニアになる中高年も十分注意が必要だ。では、具体的にどうしたらいいのか。人事管理が専門である学習院大学の今野浩一郎教授は、「再雇用後、職場で上手くやっている人に共通するのは、“愛される高齢者”であること」と指摘する。「『自分はもう管理職ではなく、担当者の1人である』と自覚すること」が大切という。『暴走老人!』(文春文庫)の著者である藤原智美氏は、「肩書きと人間の魅力は比例しない。肩書きが無くなったシニアこそ、人間の魅力で勝負すべきだ」と話す。例えば、「俺が若い頃は…」といった自慢話。「自慢話より、嘗ての失敗談を」と泉田さんは話す。長いキャリアで誰もが失敗はある。何が悪かったのか、どう克服したのか若手は学べるし、自慢話より親しみを覚え易く、コミュニケーションの活性化にも繋がる。職場が多忙を極めている時にさり気無く雑用を引き受け、若手の負担を減らす等の気配りも重宝される。口調や態度の問題は、企業風土にも原因がある。例えば、殆どの社員が定年後も働き続けるタニタでは、「元々、上司も部下も“さん付け”で呼び、丁寧に話す文化がある」(同社)為、定年後、上下関係が入れ替わっても、がらりと口調を変える必要がない。

職場により程度はあるが、パソコンのExcelやWord等は使えたほうがいい。最早管理職ではなく、資料を作ってくれる部下はいない。デジタル技術がわからなくても放り投げるよりは、若手に聞けばいい。泉田さんは、「できるシニアは『若い頃にもっと勉強すればよかったな』と謙遜の姿勢を見せつつ、若手から技術を吸収する」と指摘する。定年を機に、“話す”側から“聞く”側へと意識を切り替えることも大切だ。『博報堂新しい大人文化研究所』の阪本節郎統括プロデューサーは、「現職のメンターとして、先ずは相手がやりたいことを傾聴し、何が必要とされているか知ることが大切」と話す。前出の藤原智美氏も、「他人を理解できない人は愛されない」と言う。阪本氏は、「カウンセラー研修等を受け、相手を理解することに努めて」と勧める。たとえ照れ隠しでも、やる気が無い姿勢を見せたり、給与が下がったことへの不満を口にしたりするのは避けるのが賢明だ。「年を重ねてからの仕事はお金が全てではなく、生きがいが重要。周囲から感謝されることは、とても有難いこと」(『東京都健康長寿医療センター研究所』の藤原佳典氏)との認識を持つことが大切だ。シニア向けの職種は限られている。「長く仕事を続けよう」とか「早く就職しよう」と考えれば、仕事の選り好みは控えるべきだ。藤原佳典氏は、「原則として若者と競争するのではなく、勤務形態や内容で若者の助けになる仕事を選ぶべきだ」と指摘する。職場が忙しそうな時に「『できることがあったらやるので言って下さい』と言える人が愛される」(泉田氏)。ただ、シニアだから問題という訳ではない。「再雇用後、職場で受け入れられるシニア社員は、現役時代から有能で好かれる人が多い」と泉田さんは指摘する。チェックリストに挙げたような行動も、シニアだからというより「属人的なものも多い」(今野教授)。若くても心当たりがある人は、今の内から行動に気を付けたほうがよさそうだ。 (松本史)

               ◇

医療技術の進展を背景に長生きする人が増える中、罪を犯して服役する人も高齢化が深刻になってきた。特に、女性は男性よりも平均寿命が長い為、女子刑務所の“老人ホーム化”が問題になっている。介助が必要な服役者が増え、刑務所で働く女性刑務官にとって負担が増している。高齢化社会の課題を映し出す女子刑務所の現場を訪れた。

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JR西岩国駅の近くにある『岩国刑務所』(山口県岩国市)は、全国に10ヵ所ある女性専用の刑務所の1つ。執務エリアから鉄格子の扉を潜ると、目に飛び込んできたのは白髪の女性らだ。作業場から食堂へと移動する人々の列に、手押し車を押す人、杖をつく人等、足腰が弱った女性受刑者が続く。最後尾には、一歩ずつゆっくり歩くのがやっとの60代の受刑者に女性刑務官が付き添う。刑務官の人数がギリギリの中、この受刑者に1人を充てて対応しているという。食事風景も宛ら介護施設だ。高齢の受刑者の中には、食べ物を飲み込む力が低下している人も多い。食堂のテーブルの一部には“軟”“A”等と書かれたビニールのテープが貼られ、受刑者に合わせて予め刻んだ食事や、ミキサーで細かくした食事を出している。食べ終わった受刑者は1人、また1人と手を挙げる。すると刑務官が駆け付け、食後に服用する薬を1人ひとりに渡す。誤飲を防ぐ為に受刑者の薬を管理しているという。あるベテランの刑務官は、「ここが本当に刑務所なのかと思うことがある」と漏らす。「本来は社会に復帰する為のプログラムを実施するのが刑務所だが、それを熟せない受刑者が増えている」と指摘する。岩国刑務所の収容定員は約360人で、粗満員の状態だ。罪状は窃盗が4割超で、覚醒剤がそれに続く。平均年齢は50歳を超え、65歳以上の割合は25%に達する。重い病気にかかった受刑者は医療刑務所に移されるが、日常生活ができる場合は一般的に通常の刑務所で服役する。階段を上ったり下りたりすることが難しい人も目立つ。生活苦から窃盗に手を染める人が多いとされる高齢受刑者だが、女性の場合は「『お金はあるが使うのがもったいない』とか『むしゃくしゃしてやった』というケースが多い」(鈴木礼子所長)という。岩国刑務所を出所後、再び罪を犯して再入所してくる人も5割近くに上っている。

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「早く娘の許に帰りたい。もう、二度とこんなことはしません」。スーパーで窃盗を犯し、服役中の女性受刑者(78)は反省する。夫と長く鉄鋼業の下請けを営んできたが、夫が食道癌で胃瘻となってから、昼夜無く痰の吸引が必要な生活が続いた。介護を9年間続け、ストレスから万引きしてしまったという。「お金に困っていた訳ではないのに…」と涙を浮かべる。別の女性受刑者(84)は、岩国刑務所を今年の2月に出所して直ぐに再び窃盗を犯し、戻ってきた。息子が4年前、膵臓癌で亡くなってから「偶に窃盗してしまうようになった」という。「息子は親思いのとても良い子だった。夫も亡くなり、愈々1人になってしまった」と寂しげに語る。女性受刑者は全国で4376人(2014年末時点)。全受刑者に占める割合は8%で、上昇傾向にある。女性刑務官にとって、受刑者の高齢化は深刻な問題だ。岩国刑務所の井上友加里刑務官(27)は、「高齢受刑者のおむつを交換していたこともある」という。刑務所では受刑者を戒め、守るという意味の“戒護”という言葉がよく使われるが、「戒護でなく介護をしているようだ」という。こうした状況もあり、女性刑務官は採用後3年間に辞める人が3割を超える。法務省は女子刑務所の運営状況を改善する為、2014年から『マーガレットアクション』と呼ぶ対策を始め、女性刑務官の採用を増やす等している。“PFI(民間資金を活用した社会資本整備)”を活用して、民間企業と共同で運営する『美祢社会復帰促進センター』(山口県美祢市)等の刑務所も増やし、施設の見回り・監視・教育プログラム等は民間企業に任せるといった現場の負担軽減にも力を入れるが、高齢化が加速しているだけに、状況を改善するには時間がかかりそうだ。 (学頭貴子)

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『電通総研』が実施した調査によると、50代後半に就労経験がある60~69歳の男女2600人の内、定年後も約7割が仕事を継続していた。「働きたい」という人は全体の半数以上、60代前半では約6割に達する。再雇用等で働くシニアは今後増加し、職場で一定の割合を占めるようになる。企業側も、シニアが能力を発揮できるような仕組み作りが必要になる。定年後のシニアについて、学習院大学の今野浩一郎教授は、「企業側は『置いておいてやろう』という福祉的雇用の姿勢が透けて見える」と指摘する。成果を出しても出さなくても、賃金が一律な制度が象徴的だ。嘗て、職場のシニア社員は少数派で、個別対応が可能だった。だが、シニア社員が増えたことで、現在では全員に一律の待遇を適用する企業が多い。今は少数派から一定数へ移行するという「過渡期にある。企業もシニアも働き方を模索中」(電通総研の斉藤徹氏)なのが現状だ。今の60代は体力があり、現役同様に収益に貢献できる人も少なくない。人口が減少に転じ、1人ひとりの生産性向上が必要になる中、シニアも例外ではない。シニアの力をどう引き出すのか。本人の能力と職場の事情を勘案したマッチングや報酬体系等、きめ細やかな対応が求められる。


≡日本経済新聞 2015年12月17日付掲載≡




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