【特別対談】 部下は“叱り8割、褒め2割”で教育せよ――永守重信×入山章栄

代名詞のM&A(合併・買収)は今や世界に広がり、『日本電産』はグローバル企業となった。将来を見通す独特の嗅覚に強烈なコスト削減、社員の心を掴むコミュニケーション力。同社・永守重信会長兼社長の繰り出す経営の一手一手は、最先端の経営理論に符合する。『早稲田大学ビジネススクール』の入山章栄准教授が聞く。 (広岡延隆・林英樹・杉原淳一・齊藤美保・主任編集委員 田村賢司)

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入山「シャープが台湾の鴻海精密工業に買収され、東芝は不正会計後の不振に尚、喘いでいます。企業には苦況の時期は必ずありますが、衰退の条件とは何でしょう?」
永守「飽く迄も一般論ですが、業績が悪化する企業に共通していることは、危機感の無さです。大赤字を出していてもタクシーチケットが使い放題だったり、部長クラスでも新幹線のグリーン車に乗っていたりする。それがどれだけ問題か。日本電産は2003年10月に三協精機製作所(現在の日本電産サンキョー)を買収しました。この期は約300億円の最終赤字でしたが、翌2005年3月期は一気に151億円の最終黒字へV字回復しました。でも、この間に何をやったかというと、経費を節減し、仕入れコストを下げたことだけなんですよ」
入山「つまり、不振企業はコストに鈍感になっているということですね」
永守「僕には、永守3大経営手法というのがあるんですよ(笑)。1番が井戸掘り経営、2番が家計簿経営。そして3番が千切り経営ですわ。井戸掘り経営というのは、地球上大抵のところで井戸を掘れば水は出てくるでしょう。ただし、次々と汲み上げないと新しい水が湧いてこない。経営の改革・改善の為のアイデアも同じです。汲み上げ続けると必ず、出続ける。これだけアイデアを出したからもう終わりということはなく、汲み続けることが大事です」
入山「経営学で言う“知の深化”です」
永守「2つ目の家計簿経営は、収入に見合った生活をするという、家庭の主婦がやっているのと同じです。不景気が来て旦那の給料が減ったら、晩酌でビールを2本飲んでいたのを1本にしてもらって、支出を減らす。でも、子供の教育とか、家を持つといった将来の備えや資産形成は、苦しくても頑張る。経費を収入の範囲内に収めつつ、投資にも目を配る。これが家計簿経営。千切り経営は、『何か問題が起きたらそれを小さく切り刻め』ということです。難しそうでも、小さく切り刻んで対処していけば、問題解決の糸口は見つかると考えているんですよ」

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入山「千切りとか、井戸掘りとか、表現力が本当に素晴らしいです。経営学では、優れたリーダーほど情景が浮かぶような言葉を使うことが明らかになっていて、永守会長はまさにそれを体現しています。ところで、強い企業と問題企業は、何が違うのでしょう?」
永守「一番大事なのは社員の士気です。利益を絶対に上げる。利益を上げれば次の投資や開発に繋がるから顧客の為になるし、最後は自分たちの給料にも跳ね返る。その為にも、無駄は無くさないといけない。『無駄は悪だ』というくらいの気構えが必要です」
入山「私もそれに興味があります。社員のやる気を引き出す時、褒めたり叱ったりしますが、どちらが大事でしょう? ホンダの創業者である本田宗一郎さんも結構、げんこつと共に社員を叱っていたと伝えられていますね」
永守「叱り8割、褒め2割。場合によっては9対1。褒めて育てるみたいな本を書いた人がいるけれど、全部嘘。僕は震えるほど叱る。叱るけれど、厳しく叱ったら抱かないといかん。子供は何故父親より母親のほうが好きなのかというと、母親は怒る時はバシッと言うけれど、抱きもする。親父は帰ってきてガタガタ言うだけで、抱かない。やっぱり抱かないといかんね」
入山「最近の経営学では、リーダーに必要な素養の1つが“トランザクティブリーダーシップ”だとされています。要するに、『よくできたら褒め、失敗したらきちんとペナルティーを科す』というものです。しかし、実践しようとすると部下を1人ひとりきちんと見ないといけないので、とても難しい。永守さんは、大企業のトップでありながらそれを徹底しています」
永守「但し、叱るだけ叱っても、会社の業績が上がらないんじゃ仕方ない。“結果”が出ないといけません。僕は、業績の悪い会社を買収して再建に行くと、初めに必ず言います。『あなた方には初めてお会いしました。だから今、『私を信用して』と言ってもできませんね。でも、1年間だけ騙されてくれませんか」と。例えば労働時間を延ばすかもしれません。それで、『1年後に業績が回復しなかったら、労働時間を延ばした分は私が自分で払います」と言う訳です」




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入山「最近、日本企業が海外企業を相手に大型のM&A(合併・買収)をしています。でも結局、巨額の減損に追い込まれるケースが少なくない。やはり高値で買わされているのでしょうか?」
永守「まぁ、価格の算定が間違っているよね。最初から買いたい気持ちで行っているから。これが目利きのポイントの1つ目です。企業買収は、全体を100とすると買収時点では未だ20なんですよ。残りの80はPMI(買収後の一体化)。それを考えないと駄目」
入山「永守さんは、多くの案件の中から自身の判断で選んでいます。目利き力がある。企業買収では、売り手自身の情報は売り手のほうが買い手より詳しく知っています。経済学で言う“情報の非対称性”です。でも、“目利き”のできる経営者は“情報の非対称性”が高い状況でも、より安全な企業を買える」
永守「買収先を選ぶ目利きのポイントの2つ目は、シナジーを自分の方法で作り出すことです。相手を選ぶ基本は技術力です。でも、競争相手を買うのだから、それはわかっています。大した技術でなかったり、自分のマーケットと違ったりする会社は買わない。近いところにある会社を買う。会社を島に例えると、3つくらい島を買う。其々をシナジーで陸続きにする。ある時、真ん中の水をぱっと落とすと、全部自分の土地になる訳。M&Aは、そんな将来の構想を描いて取りかかる。そうでないと、シナジーを出せずに減損の憂き目ばかりを見る」
入山「その事業構想は、何年先ぐらいまで見据えられて作ったものなのですか? 『10年後に売上高10兆円を達成する』とも仰っています」
永守「今のところ、10兆円は大法螺だな(笑)。でも、実現したい気持ちで言っているから嘘ではない。私は売上高2兆円を“夢”としています。夢は必ず実現する。だから、2020年には達成する。僕は世の中の動きを、30年ぐらい先を見ないといけないと思っている。例えば僕は、将来は皆がドローンを1台ずつ持って、それで通勤してくるような時代になると思っています。だから、当社ではもう5~6年も前からドローンを研究している」
入山「なるほど。経営学でも長期ビジョンの重要性がよく言われます。例えばデュポン(アメリカ)は毎年、社内のトップ級が集まり、100年後の世界はどうなるかを有識者を交えて真剣に議論するんです。そして、そこから逆算してM&A等を考えているらしいです。この議論により、経営学的に言うと幅広い“知の探索”が可能になる。永守さんは、自身で30年以上先の将来像を描いているのですか?」
永守「京都には創業者が多いけれど、ちょっと変わったのばかりですよ(笑)。京都の創業者が集まると、お互いに『あんた変わっている』と言い合うことになるんだけれど(笑)。皆、自分で考えた『こういう時代が来る』という将来を信じて疑わない。一方で、足元では家計簿経営のような細かいことを徹底する」

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入山「先のことを創造的に考えると同時に、そこに向かって一歩ずつ一歩ずつ基本動作を続ける。バランスというか、その矛盾が凄い。今、日本で業績がいい会社って、創業者がまだトップか、同族が多いんです。最近の研究でも、利益率でも成長率でも統計的にはっきり差が出ています」
永守「創業者とサラリーマン経営者の違いは、『この会社を何とかしないといかん』という理念とか、職業観のようなものかもしれない。サラリーマン経営者の中にも、立派な経営者もおられるから全部がそうとは言いません。でも創業者には、自分の出世の為という思いはない。『世の中はこうなる』『こう変わっていく』『だからこれをやりたい』という強い思いだけがある」
入山「シャープでも、サラリーマン経営者の“難点”は、そこにあったのでしょうか?」
永守「シャープのことは僕にはわからないから、何も言えない。だが、さっきの創業者の発想から言えば、『会社は絶対に潰してはいけない』という思いが非常に強い。自分で作った会社ですから、潰れるようなリスクには近寄らない。『ここまでなら潰れない』という一線がありますわな。ぎりぎりまでは行くけれど、それ以上は近付かない。創業者は臆病なんです。僕なんか昔からそう。2003年に三協精機を買収した時も、最初は40%しか出資しなかった。大赤字でしたからね。その後に45%・50%と増やして、最後は100%にした。『株価が安かった時にな何故完全買収しなかったのか』と言う人がいるけど、それは結果論であって、再建できなかったら日本電産本体も無くなってしまう」
入山「経営学で、リーダーに必要な2つ目の素養とされるのが“トランスフォーメーショナルリーダーシップ”です。ビジョンを掲げ、社員に明確に伝え、巻き込むリーダーです。今後、永守的思想・ビジョンをどう次代に伝え、社員に植え付けていくのですか? 社内大学を始めるのも、その一環ですか?」
永守「そうそう。最近、僕の考え方や言葉を纏めたテキストができました。社内大学は幹部向けだけれど、僕が話すだけではなく、シンクロナイズドスイミングの監督や仏教の高僧から話を聞く予定にしている。これまでもスポーツの監督等に話してもらったけれど、面白いのは、皆、僕と殆ど変わらないことを言うことです。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長に話してもらった時もそう。基本は同じで、努力し続けることです」
入山「ゼネラルエレクトリック(アメリカ)のジェフリー・イメルトCEO(最高経営責任者)は、彼の仕事の30%は、そうした大学で只管自分の理念を説くことだと言っています」
永守「僕は、講演時間の半分以上は質疑応答にしているんです。一方的に聞かされるより、本当に知りたいことを聞けるでしょう。社員を叱る一方で、ちゃんと抱いてやる。考えを伝えることは、そのくらい大事なことなんです」


キャプチャ  2016年4月18日号掲載

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テーマ : 経済・社会
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