【新聞エンマ帖】 甘利大臣辞任と世論調査/マイナス金利の先に何がある?

もう幕引きか。だとすれば、新聞の不甲斐無さに呆れる。『週刊文春』の口利き献金疑惑スクープで1月28日に辞任した前経済再生担当大臣・甘利明氏の問題である。甘利氏に対する翌日各紙の形容が凄い。「アベノミクス主軸」(朝日)・「経済の要」(読売)・「司令塔役」(日経)・「屋台骨」(毎日)。そんな大物が欠けたら政権も傾く筈が、ケロリとしている。空気を変えたのは、辞任直後、毎日・共同配信各紙が「それでも世論調査の内閣支持率は上昇」と報じたことだったのではないだろうか。実際、追及の気勢は一気に削がれてしまった。「これが世論の空気です。新聞はそれを客観的に映し出す鏡です」といって、調査結果をただそのまま掲載するだけでは、報道機関の使命を果たしているとは言い難い。何故なら、世論調査も一種の報道であり、報道に無垢の客観性などあり得ないからだ。実際、これまでも、世論調査報道は政治の風向きを変える“事件”になってきた。流石に今回は、各紙とも調査結果を報じた翌2月2日の朝刊で、何故支持率は上がったのかという疑問に焦点を当てた分析記事を載せた。読売は「“決める政治” 危機にも強く」の見出しで、週刊誌のスクープから「1週間後でのスピード辞任」「“ダメージコントロール”の巧みさ」「支持率が急落しても持ち直す“復元力”」と政権賛美一色。大手柄でも上げたかのような歯の浮く修辞に鼻白む。それに、29日の朝刊1面に書いていた、甘利氏が安倍晋三首相の強い「慰留に一度は翻意」した顚末と、官邸が辞め時を計りに計ったという見方とは矛盾していないか。日経は、「内閣支持率なぜか堅調 電撃辞任奏功? 強い野党不在」の凡庸な説明。「人気グループSMAPやタレントのベッキーさんの話題と同時並行で、関心が分散」という政治学者の理由付けは、テレビなら面白いけれど、新聞に期待する政治分析とは言えない。折角の記事が、消化不良の問いかけに終わった。

東京は政治心理学者のインタビュー。「潔さ、無念さ、うまく演出。今回は成り行きでうまく行き、浪花節的に収束したが、いつもこうなるわけではない」。手馴れた弁舌だが、言葉がどれもふわふわした印象を受ける。学者自身、「政治は情緒に動かされる部分だけではない」と言い添えている。そこは、現場を取材する政治記者が書いて補わなければならないが、聞き手に終始したのは残念だ。毎日は国会審議の見通し記事で、「辞任表明が一定の評価を受けたとみられ、政府・与党内には安堵感、民主党幹部は肩を落とす」と書いた。疑惑発掘から辞任とその後の影響に至るまで、新聞は結局、自らは何もリスクを取らない。寧ろ、「それでも世論は政権を支持」という“調査”をタイミングよく差し出した格好になった。これでは、不祥事を水に流したい政権の魂胆を結果的に助けているだけではないか。他紙の“分析”記事に慌てたのか、毎日は4日の3面で、「政権ほころびの芽 野党追及緩めず」と掌返しのような大紙面を展開。支持率上昇の理由は、「安保法への関心が薄れ、同法反対の傾向が強かった女性の安倍離れが弱まり、支持率を押し上げた」。データの読み方に疑問がある上、甘利問題とあまり関係が無い。支持率は、1週間遅れのNHK調査でも上がり、2週間後の朝日の調査は2ポイント減で“横這い”だった。朝日は「支持理由が政策重視に変わって閣僚スキャンダルには打たれ強くなった」(2月16日付朝刊)と書くが、NHK調査の問いと答えを見ると、そうは言えない。甘利氏の会見が“潔い”サプライズに化けたのは、辞意を掴めず、軒並み“続投”と見ていた新聞の驚きに他なるまい。29日の読売・朝日・日経によれば、安倍首相が「支持率が10%下がっても、続けてもらいたい」等と慰留したという。それでも辞めた甘利氏は、他にも多くの疑惑があったと雑誌ジャーナリズムは続報している。抑々、安倍氏のお気に入りでこそあれ、それほどの大物政治家なのか。そうした知りたいことを、新聞は何も教えてくれない。




アベノミクスの雲行きが愈々怪しくなってきた。2015年10~12月期の国内総生産(GDP)は、個人消費の低迷等で前期比0.4%減、年率換算では1.4%減と、2四半期ぶりのマイナス成長となった。中国経済の低迷による世界同時株安・円急騰に対処する為、日銀が1月29日に急遽発表した禁じ手“マイナス金利”も始まったが、市場の混乱や日銀の信頼性も揺るがしかねない事態が懸念されている。7月に参院選を控え、安倍晋三首相はアベノミクスを失敗と取られるのだけは避けたい。形振り構わず、更にカンフル剤を打ってくる可能性がある。こんな時こそ、新聞が安倍政権の審判に向け、適切な材料を国民に提供しなければならない。ヨーロッパで先例があるとは言え、民間銀行が中央銀行(日銀)に預ける一部資金の金利をマイナスにするマイナス金利が、奇策中の奇策なのは間違いない。民間の金利を更に下げて市場にお金が出回る効果があるとされるが、評価は分かれた。毎日は1月30日の社説で、「金利はすでに超低水準にあり、わずかな追加的低下が、設備投資や消費を刺激して物価を押し上げるとは思えない」と指摘。朝日も、「歴史的な超低金利のもとでも銀行が貸し出しを大きく増やさないのは、企業の資金需要が乏しいからである。その根本的な問題がマイナス金利の導入によって解消するわけではない」と同意見だ。東京は、「異次元緩和という“薬”は、量も種類も増えるばかりだ。もうじき3年になるが一体、いつまで飲み続けるのか」と金融緩和政策の転換を求めた。これに対し、読売・産経・日経の3紙は、マイナス金利への過度の期待を戒めているものの、概ね好意的だった。読売は「物価目標を達成し、デフレ脱却を確実にする強い決意の表れだろう」と受け止め、「世界経済の先行き不安が強まる中、日銀が機動的な対応を取ったことは評価できる」と持ち上げた。

産経も「金融頼みには限界がある」としながら、やはり「脱デフレが滞る事態を絶対に避けるという、強い決意の表れである」と強調。日経は、「物価の持続的な下落であるデフレ局面に戻る事態は避けなければならない。そのための日銀の対応は理解できる」とした。何しろ、日銀の黒田東彦総裁は、マイナス金利発表の約1週間前には国会で導入を明確に否定していた。それをあっさり覆したのだから、追い込まれた挙げ句の窮余の策と見るのが妥当な認識だろう。デフレ脱却の一点張りで、このまま金融緩和政策の戦線を広げていった先に何があるのか。先行き不安を解消しないまま政府・日銀に旗を振るのは、大本営発表を鵜呑みにしていた戦前に近い雰囲気があると言ったら言い過ぎか。2012年12月の第2次安倍政権発足以来、日本経済は13四半期のうち6四半期がマイナス成長に陥っており、景気のふらつきは明らかだ。2月16日の朝刊では、各紙とも「アベノミクス苦境」(毎日)・「アベノミクス袋小路」(東京)・「減速懸念 政権に試練」(読売)と、政権側の危機感を露わにした見出しが並んだ。景気回復への処方箋について、朝日は「まずは金融・資本市場の動揺を抑える国際協調である」と指摘した。日経は、「経済の基礎体力を強める構造改革を再起動すべきだ」と主張。読売は、国際協調の必要性と同時に、「基本給のベースアップを中心に賃上げの裾野を広げ、経済の好循環を再加速することが重要だ」と訴えた。様々な不安要素を打ち消す為、複合的な対応、総合的な施策が欠かせないのは確かだろう。ただ、何度も先延ばししているインフレ率2%や経済成長率3%は、成熟した日本経済にとって実現可能で正しい目標設定なのか。安倍政権は株価引き上げに腐心してきたが、日経平均は僅か225社の指数であり、一部上場企業も2000社に満たない。これを土台に、中小・個人事業主を含めた日本企業全体を底上げすることにも無理はないのか。アベノミクスと実体経済の間にズレがあることを素通りして、記事に説得力を持たせられる筈もない。


キャプチャ  2016年4月号掲載




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テーマ : 政治家
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