【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(60) “無能”ではなく“複雑”…バラク・オバマは頑固で孤独な革命家だった!

アメリカ大統領選が盛り上がるに連れ、“前任者”のバラク・オバマ大統領をどう評価するかという議論も増えてきました。特に外交政策は、リベラルなメディアでさえ厳しい目を向けているのが現状です。そんな中、アメリカの月刊ニュース雑誌『ザ・アトランティック』に掲載された『オバマドクトリン』という長文記事が話題を呼んでいます。執筆者は、ジャーナリストのジェフリー・ゴールドバーグ。大統領専用機『エアフォースワン』にも同乗する等、相当突っ込んだ密着取材を基に書かれた記事です。これを読むと、オバマに対する“決断力に乏しい大統領”という批判が、かなり的外れだということがわかります。その代表例が、シリアのアサド独裁政権に対する“煮え切らない態度”です。2013年、「アサド政権がシリア国民に対して化学兵器(サリン)を使用している」という疑惑が浮上。「化学兵器は“レッドライン”だ」と警告していたオバマは、シリアに対する軍事行動を示唆したものの、アメリカ議会の反対もあり、結局、介入は取り止めになりました。「オバマの決断力の無さが、アメリカの国際的な権威を損ねた。これで、シリア問題における主役の座をロシアに奪われた」――。当時のアメリカでは、こんな論調が主流でした。また現在では、「この時点でシリアに介入しなかったことで“空白”が生まれ、IS(イスラミックステート)が勢力を拡大した」とも批判されています。しかし、前述の記事は、かなり深い切り口でその真相を明らかにしています。当時、シリアへの軍事介入はほぼ決定事項で、ミサイルの目標地点まで決まっていた。しかし、オバマは「2003年のイラク戦争と同じ轍は踏みたくない」と考えた。当時、ジョージ・ブッシュ大統領はCIA長官から「サダム・フセインの大量破壊兵器使用は“スラムダンク(確実)”だ」と聞いて開戦を決断したものの、その情報は大間違いで、アメリカはその後、大義の無い戦争に長く苦しめられることになったからです。

そこでオバマは、情報機関の担当官を呼び寄せ、「アサド政権のサリン使用を断定できるか?」と厳しく追及。担当官は、「他の勢力が使用した可能性も無くは無い」と返答します。オバマは「これは“抜けられない戦争”にアメリカを引きずり込む罠かもしれない」と考え、直前での方針転換を決意したのです。ここからがオバマの深謀遠慮の本領発揮です。彼は大統領権限で「介入を止める」とは言わず、軍事介入が正しいかどうか、敢えて議会に判断を委ねた。当時のアメリカ議会下院は共和党が多数派で、オバマが「やる」と言ったことには何でも反対していたので、この時も“否決されることを見越して議会に是非を問うた”のです。それでも優柔不断との評価は付き纏いますが、少なくとも「オバマが独断で前言撤回した」という批判は躱した訳です。これまでアメリカはベトナム、ニカラグア、アフガニスタン、イラク等、多くの国に“人道的に軍事介入”してきました。「軍事力で世界の平和を主導することこそが、アメリカの信頼性を担保する」――。これが基本方針でした。しかしオバマは、このロジックに極めて批判的です。前述の記事でオバマは、こんな趣旨のことを語っています。「ワシントン(アメリカ政府)には、大統領の外交政策に関する“脚本”がある。外交既得権層が書いたその脚本に従うと、全ての外交上の決定は軍事優先になり、結果として歴代大統領は意味の無い戦争に突入した。『自分が爆弾を落とせる』ことを示す為だけに誰かに爆弾を落とすのは、本当にバカげている」。勿論、全ての軍事行動に意味が無いとは言えません。短期的に見れば救われた命もあるでしょう。しかし結局、アフガンでもイラクでも、アメリカが介入しても平和は訪れなかった。中東には混沌が残り、そして激しい反米感情が芽生えた…。実は、先程のシリアの話には続きがあります。2013年9月のG20サミットで、オバマはロシアのプーチン大統領に対し、「アサドに化学兵器を無くすよう働きかけてくれたら、アメリカはシリアを攻撃しない」と約束したと言います。つまり、オバマは出口の見えない軍事介入を避けて目的を達成できるなら、たとえロシア主導であろうとアメ リカの威厳が損なわれようと構わないのです。




軍事介入を直前で回避した時、アメリカのケリー国務長官は知人に電話し、「オバマにやられた」と怒りを見せたようですが、結果としてアサド政権は化学兵器を減らした。ミサイルを撃ち込み、アサド政権が逆ギレしてイスラエル、ヨルダン、トルコに化学兵器をブチまける可能性もあったことを考えれば、“名を捨てて実を取る”戦略が功を奏したと言えます。但し、オバマは単なる平和主義者ではありません。サウジアラビア等、中東の同盟国がアメリカをいいように利用していることを苦々しく思っており(イランとの接近もその表れです)、また大統領として表立って口にはできませんが、中東問題全般に関しても「宗教と現実を和解させる努力をしていない」と、驚くほど悲観しています。「アメリカは、もう世界の警察ではない。自分たちの問題は自分たちで何とかしろ」――。これを支持する人もいれば、「人道軽視だ」と批判する人もいるでしょうが、何れにしてもオバマは、アメリカ的価値観を世界中に広めるという“超大国イデオロギー”と決別した、歴代のどの大統領よりラディカルな現実主義者なのです。扨て、次の大統領候補者の中に、この路線を継承する人はいるでしょうか? ファーストレディーも務めた“プロ政治家”のヒラリー・クリントンは、既得権層と“上手くやる”でしょう。ドナルド・トランプは、大衆が熱狂する“超大国”を演出することしか考えていない。バーニー・サンダースはその真逆の左派ポピュリストですから、「戦争はしない」という結論は同じでも、これほど冷徹に“わかり難い判断”ができるかどうかは大いに疑問です。“最強のアメリカ”を好む既得権層や大衆にとって、オバマ政権の8年間はビターチョコレートのように苦かったかもしれません。僕は、その苦みの深さが堪えられないほど好きなのですが、多くのアメリカ人は苦みに耐え切れず、口から吐き出して、今度は“砂糖塗れの大統領”を選ぼうとしているのでしょうか。


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)等に出演中。4月4日から『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)にニュースコンシェルジュとして出演!


キャプチャ  2016年5月2日号掲載




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テーマ : 国際政治
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