YouTubeが大きな賭け、有料版は吉と出るか――専用スタジオを世界に8ヵ所、有料化は諸刃の剣?

『Google』による買収から10年。動画配信サイト『YouTube』が大きな賭けに出る。今年中にも日本やヨーロッパ、そしてオーストラリア等で有料サービスを始める。有料化は収益力を上げるメリットもある一方で、広告収入が減りかねないリスクも孕む。 (齊藤美保)

20160426 13
2005年、YouTubeで配信されていた1本の動画に、Google幹部の目は釘付けになった。中国人の学生が、イギリスの人気アイドルグループの曲を歌っている動画だった。「世界中の誰でもコンテンツを発信できて、それを誰もが視聴できる。これが、エンターテインメントの新たな形になる筈だ」。そう直感したGoogleは翌年、YouTubeを16億5000万ドル(約1800億円)で買収した。当時の売り上げが約100億ドル強だったGoogleにとって、YouTubeの買収は大きな賭けだった。それから10年。YouTubeは、Googleの想定を遥かに上回る規模に成長した。対応する言語は76に上り、配信地域は世界88カ国を超す。今や、全世界で10億人以上が視聴する世界最大の動画配信プラットフォームだ。創業から11年、Googleの傘下に入って10年が経つ今年。無料という強みを生かし、利用者を増やし続けてきたYouTubeは、有料サービスを世界で開始する。有料動画市場は競合が犇くが、YouTubeにどんな勝算があるのか。カリフォルニア州サンブルーノ。YouTubeの本社オフィスは、現在も創業当時の地にある。『PayPal』社員だった3人の青年が立ち上げた当時と比べると、従業員は数百倍に増え、オフィスも計3棟に増えた。それでも敷地内には、今もシリコンバレーのベンチャー企業独特の活気が満ち溢れている。「過去3年間、YouTubeの視聴時間は年50%以上の成長を続けている。次に考えることは、新たな10億人ユーザーの獲得だ」。Googleに16番目の社員として入社し、2014年からYouTube事業のCEO(最高経営責任者)を務めるスーザン・ウォジスキ氏(左下写真)は、こう語る。私生活でも5人の子供を抱え多忙を極める彼女が、アメリカのメディア以外に露出することはこれまで殆ど無かった。次の10年に向けたYouTubeの戦略を世界に発信する為、今回、アメリカ国外の経済メディアの取材を受けた。

20160426 1420160426 15

10年間のYouTubeの歴史を振り返ると、大きく分けて3つのターニングポイントがある。1つ目は、Googleによる2006年の買収だ。未だ知名度が低かったベンチャー企業へ約1800億円を投じることに、当時は「高い買い物」との批判が多かった。そんな声を尻目に、YouTubeはGoogleの資金支援を受けながら規模を拡大し続けた。2つ目は、動画投稿者へ広告収入を分配したこと。YouTubeではそれまで、一部の人気動画投稿者に限って広告収益を分配していた。2012年からは一定の再生回数を超える動画を投稿した人なら誰でも、広告収入の一部を受け取れるようにルールを改めた。この変更で、動画投稿者が爆発的に増えた。その結果、化粧品のレビュー・英会話レッスン・料理・ゲームの実況・曲のカバー等、自分の特技を生かした動画を撮影して投稿する素人が増え、広告収入で稼ぐプロの“ユーチューバー”の誕生に繋がった。アメリカでは、10代で年に5000万円の広告収入を得る人気ユーチューバーもいる。YouTubeが人気を集めた背景には、若者を中心としたテレビ離れがある。企業にとっては、テレビ広告に比べ安価で、よりターゲットを絞った広告が打てるメリットがある。その為、YouTubeや『Facebook』等のインターネット上へ、動画広告の出稿を増やす動きが広がっている。YouTubeに舞い込む動画が爆発的に増えたことで、弊害も出てきた。例えば、投稿されたコンテンツの管理。「これまでに本当に沢山の動画を削除してきた。恐らく…何千万本にも及ぶ」。ウォジスキCEOは、こう明かす。YouTubeには現在、毎分400時間以上に相当する動画がアップロードされるという。その中には、YouTubeのガイドラインに沿わない動画もある。具体的には、アダルトコンテンツ・暴力的なビデオ・ヘイトスピーチ等だ。中東の過激派『IS(イスラミックステート)』は、影響力と発信力のあるYouTubeのプラットフォームを逆手に取り、殺害予告や暴力的なシーン等の動画配信を続けている。YouTubeでは、専門のチームがこうした違法動画を削除している。視聴者が“違法コンテンツ”として報告してくるケースが殆どだ。しかし、その膨大さ故にイタチごっこは続いている。




20160426 16
収益面にも目を向けなくてはならない。同社は広告収入を主な収益源としているが、動画投稿者への収益分配等、支出も大きい。GoogleはYouTube事業の売上高や利益等の財務情報を明らかにしていないが、今も業績面では苦戦しているようだ。「利益は出ているのか?」という質問に対し、ウォジスキCEOは「答えられない」と前置きした上で、「言えることは、今は成長期だということ。プラットフォームを大きくする為の投資をしている段階」と強調する。新たな億単位のユーザー獲得や利用者の選択肢拡大だけでなく、収益面で苦戦していることも、GoogleがYouTubeの有料化に踏み切った理由と言えそうだ。そしてこれが、3つ目のターニングポイントとなる。2015年10月、アメリカで先行して有料サービス『YouTube Red』を始めた。2016年内には日本やヨーロッパ、そしてオーストラリア等アメリカ国外でも、YouTube Redを始める計画だ。価格は月額9.99ドル(日本円で約1100円)。広告を非表示にできる他、スマートフォンやタブレットに事前に動画を一時保存して、インターネットに繋げていないオフライン状態でも動画を視聴できる。若年ユーザーから要望の多かった“バックグラウンド再生”にも対応した。動画の音楽を聞きながら、メールやブラウザーの閲覧等ができるようになる。課題は多い。YouTubeの利用者は10億人いても、大半は無料サービスに慣れている。その内の何%が有料サービスに移行するかは未知数だ。一定額の料金を支払えば、いつでも好きな時にコンテンツを視聴できるビデオ・オン・デマンド(VOD)市場は、競合が犇いている。世界では『NETFLIX』や『Hulu』の他、『Amazon』等インターネット業界からの参入も相次ぐ。日本では『NTTドコモ』等が配信する『dTV』が、国内最多の約470万人超の会員を持つ。YouTubeが有料サービスの目玉と位置付けているのが、無料版では視聴できない独自コンテンツの配信だ。ハリウッドや民放テレビ局等と提携し、映画や番組等も作成するが、同様のことは既に他社も手掛けている。同社ならではの強みと言えば、世界中に数多いるユーチューバーだ。現在、YouTubeでは有料版向けの独自コンテンツの作成も視野に、ユーチューバーの動画の質を高める為の支援サービスを強化している。それを実現する拠点が、『YouTube Space』と呼ばれる施設。世界8ヵ所にあり、日本には『グーグルジャパン』(東京都港区)の本社や『六本木ヒルズ』内にある。YouTube Spaceの中でも最大規模を誇るのがロサンゼルスだ。ロサンゼルス国際空港に程近い好立地に立つ、3800㎡の広大な建物。内部には、動画作成の為のあらゆる設備が完備されており、大小合わせて7以上のスタジオがある。会議室・病院・バー等のセットがスタジオ内に組まれており、このセットを使ってユーチューバ―は実際に撮影したり、プロのカメラマンや演出家から撮影のコツ等の指導を受けられる。

20160426 1720160426 18
20160426 1920160426 20

20160426 21
有料サービスは広告収入のみだったYouTubeにとって、新たな収益源の確保に繋がる。一方、広告を非表示にできる有料版会員が増えると、広告を出す価値は低下し、広告収入が落ちる可能性も高まりかねない。有料版は、YouTubeにとって“諸刃の剣”でもあるのだ。この点に関して、YouTube Redの責任者でもあるロバート・キンセル副社長は、こう強調する。「YouTubeの立ち位置は飽く迄も、世界中の動画プラットフォーム。長期的に見ても、有料版での収益より広告収入が多いという状況は変わらない」。ブラジル、メキシコ、インド…。キンセル副社長は、こうした新興国等で更に1億人のユーザーを増やせると試算している。『ユニリーバ』や『プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)』等を例に、「同市場に製品を売り込む為、YouTubeを広告媒体として利用する企業はまだまだ増え続ける」と自信を見せる。Googleは昨年、持ち株会社『アルファベット』を設立。自動運転車等を開発する『X』や投資部門の『グーグルキャピタル』等は、検索部門のGoogleとは別組織とした。YouTubeはGoogleの中に留まったままだが、その資産はアルファベット全体に波及する潜在力も持っている。アメリカのインターネット業界に詳しい関係者は、こう話す。「YouTubeが持つ動画解析の技術は、今後、アルファベットの他の事業でも生かせる」。例えば、Xが手掛ける自動運転車やロボットの開発において、画像解析は重要な要素技術となる。その意味で、YouTubeが積み重ねてきた技術的な資産は今後、活用の場が広がると見られている。ウォジスキCEOは、「イノベーションの秘訣は速く変化すること。何かが変わったら自分たちも変わればいい。その繰り返し」と語る。世界最大の動画プラットフォームに育ったYouTubeは今、次の覇権を握るべく、急速に変わろうとしている。


キャプチャ  2016年4月25日号掲載




スポンサーサイト

テーマ : ITニュース
ジャンル : ニュース

Categories
Profile

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR