【「安倍首相は現実主義者だ」・古谷経衝氏に聞く】(上) なぜ安倍政権の支持率は高いのか?

特定秘密保護法や安保法制等、国論が分かれる政策を進めながら、底堅い支持率を維持している第2次安倍政権。ネット右翼等に詳しい著述家の古谷経衡氏に、安倍首相の実像や日本の大衆について持論を語ってもらった。 (聞き手/川本裕司)

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――安倍晋三政権になってから3年余り、内閣支持率が概ね40%を超えて安定しています。理由はどこにあるのでしょうか?
「安保法制が成立した昨年秋に支持率が下がりましたが、また戻りました。閣僚の失言等で少し下がることがあっても、誤差の範囲内です。理由は、自民党の支持層が変わってきたからではないでしょうか。1990年代までは土建・農林水産・運送・郵便といった職能団体に支えられてきたのですが、2000年代以降は大都市部に住む、それまでの職能団体とは無関係の無党派的中産階級から支持を集めるようになっています」
「例えばそれは、構造改革を訴えた大阪市の橋下徹前市長が好きなような、貧困とは遠い層です。自民党は小泉内閣を経て、明らかに職能団体に依存した地方型の政党から、職能団体とは無縁の都市型の政党になったと言えます。小泉元首相は、自民党の有力な集票団体だった特定郵便局長会(全特)を切り捨てても衆院選で大勝しました。職能団体を通じた投票行動は、戦後日本に特有の“職能を通じた民主主義”でしたが、その前提を支える終身雇用が崩れ、非正規雇用も増大した為に、職能団体の権勢が低下し、そういった団体を充てにする必要性も低下したのです」
「基本的に、この路線を第2次安倍政権も継承していますので、1990年代以前の自民党では考えられないような環太平洋経済連携協定(TPP)交渉等も平然と進めます。農協という職能団体からの票が離れたとしても、自民党は大都市部の無党派・中産階級から支持されると確信があるので、こういった政策に出る訳です。“打って出る攻めの政策”“成長戦略”“第三の矢”等、所謂“既得権”を持つとされる従来の職能団体からは嫌われますが、“改革”を是とする都市部の無党派にはウケます」

――支持基盤が変わってきたという指摘ですが、安倍政権の政策の評価はどうでしょうか?
「株価が民主党政権時代よりも遥かに高くなっているのは客観的な事実で、失業率も改善されています。これは、素直に評価してよいと思います。安倍政権の支持層の中核である都市部の中産階級は、所謂“格差社会”や“長期デフレ”でそれほどダメージを受けておらず、消費税が上がっても『自分で頑張ればいい』という自力救済型のポジティブシンキングの人々が多いのでしょう」
「何故なら彼らは、景気が良かった時代に企業内で地位を築いたり、今よりもずっと経済環境の良かった時代に起業して成功している人々だからです。よって、安倍政権の支持層は、若者ではなく30代半ばから40代以上~70代くらいまでの中高年層・大都市部在住・中産階級が多い。この傾向は、ネット保守(ネット右翼)とも言われる人々の類型とも一部重なります。深刻なデフレ不況の影響を受けている若年層は、学生団体“SEALDs”に代表されるように、決して安倍政権に親和的ではないのがその証拠の1つでしょう」
「貧困や不況とは縁遠い、都市部の裕福な“プチ富裕層”が安倍政権支持者の中枢です。私自身、安倍首相を概ね支持しておりますが、若い頃から『独力で仕事をやってきた』という自負があります。だから、安倍首相や自民党支持者の多くが生活保護や社会的弱者への再分配には厳しい視線を向けます。『自分たちは頑張ってきたのに、国家や社会に甘えるとは何事か』という理屈です。実際には時代状況・運・親の資産がそうさせているだけなのに、それが“自分の実力”と思っている人も多いことでしょう。貧困や格差から遠いので、そういう発想になります。逆に言えば、“格差社会”のある種の“勝ち組”が安倍首相の支持層ということもできます」




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――約1年間と短命で終わった第1次政権の教訓を踏まえているのでしょうか?
「今思いますと、第1次政権で失速したきっかけは、郵政造反組の復党を認めたことでした。小泉路線を継承しなかったのが失敗だったと受け止められたのです。当時の報道の言葉を借りれば“後退する改革”。そこで第2次政権では、前述したTPPに調印し、『農協改革もやる』『岩盤規制も突き崩す』といった大都市部の“非職能団体民”に支持される政策を取っています。これは、率直に第1次政権の反省という部分もあり、更には小泉から継続されている清和会的な潮流を受け継いでいると見れば、安倍首相が元々持っていた性質という風にも見えます。正社員を『既得権益だ』と言って批判している竹中平蔵氏を実質的ブレーンに迎えている訳ですから、“元来の性質”である観は否めません」

――甘利明経済再生担当大臣が斡旋疑惑のスキャンダルで辞任した後、支持率が上がるという現象が起こりました。
「甘利さんの人間性や、テディベアに似た外見が少し影響したのかもしれません。第1次政権時に辞めた松岡利勝大臣や赤城徳彦大臣(共に農林水産省)の時に比べれば、同情を誘うような辞任会見に映りました。週刊文春のスクープがきっかけでしたが、逆に文春が芸能人や議員の不倫疑惑といったスクープを毎週のように報じて、甘利さんの問題もそのネタの1つという形で相対化され薄まったような印象があります。週刊誌報道により世論が沸騰するというのが毎週・毎月のように続いているので、“耐性”が出来てしまったのでしょう。新聞や他の週刊誌が第一報として甘利さんの疑惑を報じていれば、もっとダメージがあったように思います」

――“一強多弱”と言われ、野党への支持が増えない理由は何でしょうか?
「麻生太郎政権は『アニメの殿堂を造る』等と言っていたのが象徴でしたが、旧来型の自民党バラマキ政治・ハコモノ政策と映り、『小泉改革路線が継承されていない』と国民に受け止められたように思います。『政権交代を一度してみよう』という空気もあり、民主党に改革路線を期待したのですが、八ツ場ダムの建設中止等が実現せず、或いは“事業仕分け”等、改革するべき対象のピントがずれ、既得権益を崩せずに失望を生みました」
「嘗てのスペイン人民戦線は、スペイン内戦時代に“反フランコ”の一点で、アメリカ人作家のヘミングウェイからソビエト連邦軍事顧問団まで連帯しましたが、結果は敗北でした。現在、野党が反安倍政権を旗印に手を結んでも、選挙対策であることは明白。民主党が民進党に名を変え、生活の党や日本共産党も合流や協力姿勢を見せていますが、抑々政策がバラバラなのに“反安倍”の一点で集結していても、人民戦線の二の舞になるのは火を見るよりも明らかです。世論調査でも『期待しない』という人が多くなっているじゃないですか。理念無き集結では、結果的に野党は負けが必定でありましょう」

――野党側の戦術が下手ということでしょうか?
「リベラルは安倍首相に対して『独裁者だ』と攻撃しますが、根拠が薄弱です。実際には、安倍さんはイスラエルで昨年1月、『ホロコーストを二度と繰り返してはならない』と発言しました。公式な発言の限りにおいては、安倍首相は“戦後民主主義”を肯定しております。成蹊学園で内部進学してきた温和な首相が、独裁者になるとは思いません」
「或いは、北朝鮮のミサイル発射(テポドンショック)・拉致問題・核の脅威・尖閣諸島での中国漁船衝突事件・韓国大統領の竹島上陸といった出来事が立て続けに起こり、リアルな現実世界で日本人の外交安保に関する皮膚感覚が変わっています。安倍首相に言われなくても危機感を持ったのだと考えます。だから、こうした潮流は安倍首相が先導しているのではなく、どちらかと言えば“下から”の変動でしょう。リベラルが『安倍首相に騙されている』というストーリーに持って行こうとするのは、換言すれば『日本人には自主性・判断力が無い』といっているのに等しく、流石にそれは日本人を愚民視し過ぎと考えます」


古谷経衡(ふるや・つねひら) 著述家・社会福祉法人『佐久コスモス福祉会』評議員。1982年、北海道生まれ。立命館大学文学部史学科卒。インターネット・歴史・社会・若者等について幅広く執筆。ラジオ番組『TIME LINE』(TOKYO FM)パーソナリティー。著書に『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)・『右翼も左翼もウソばかり』(新潮新書)・『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』(コア新書)等。

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞編集委員。1959年、大阪府生まれ。京都大学教育学部卒業後、1981年に『朝日新聞社』入社。学芸部・社会部等を経て、2006年から放送・通信・新聞等メディアを担当する編集委員。2010年から論説委員も兼務。2015年3月からオピニオン編集部。著書に『ニューメディア“誤算”の構造』(リベルタ出版)。共著として『テレビ・ジャーナリズムの現在 市民との共生は可能か』(現代書館)・『被告席のメディア』(朝日新聞社)・『新聞をひらく わたしたちの現場から』(樹花舎)。


キャプチャ  2016年4月21日付掲載




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テーマ : 安倍晋三
ジャンル : 政治・経済

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