【8年ぶりに新大統領が決定】(上) アメリカはヒラリー・クリントンを選ぶのか

20160428 07
2016年11月8日に投開票が行われるアメリカ大統領選挙。バラク・オバマ大統領の任期満了に伴い、アメリカは8年ぶりに新大統領を戴くことになる。民主党にとっての追い風は、景気回復が堅調なこと、格差是正への関心が高まっていること、オバマケアへの加入者が急伸していること、中南米系を中心に非白人の有権者が増加していること、人工妊娠中絶や同性婚・無宗教等への理解が広まっていること、キューバやイランとの関係改善が概ね評価されていること…等である。その半面、シリア問題に象徴されるオバマ政権の“弱腰外交”に対する批判は、依然として根強い。加えて、第2次世界大戦以降、同じ政党が3回連続して大統領選を制したのは1988年のみという事実が、民主党に重くのしかかる。2015年9月の時点で、オバマ大統領の支持率は約45%。クリントン大統領の2期目の同時期は約60%だったが、それでもゴア副大統領への政権委譲には失敗している(因みに、ブッシュ前大統領の同時期は約35%)。政権を3期連続して死守するのは斯くも難しい。その大きな要因としては、やはり国民の“飽き”がある。現状への不満が様々に募り、自ずと“変革”への期待が高まる。とりわけ近年は、党派対立によるワシントン(=中央政界)の機能不全が深刻で、国民の不満が鬱積している。連邦議 会の支持率は約15%と、稀に見る低迷が続き、「アメリカが悪い方向へ向かっている」と考える国民が6割を超える。こうした不満が“変革”を求めるうねりとなり、政権与党や現職にとって大きな逆風となる。この点が、目下、公職経験が皆無の“不動産王”ドナルド・トランプ氏が共和党内に旋風を巻き起こしている最大の要因でもある。構図そのものは、1992年の大統領選の際の“ペロー旋風”と似ている。

扨て、民主党の大本命は、やはりヒラリー・クリントン氏だろう。知名度・組織力・資金力の何れも他候補を圧倒しており、加えて“アメリカ史上初の女性大統領”という物語性も持ち合わせている。既に、ヒラリー支持を打ち出す党内有力者の数は、水面下で着実に増えつつある。とは言え、国務長官時代に個人のメールサーバーとアドレスを公務に使用していたこと、『クリントン財団』が外国政府から多額の献金を受けていること、ウォール街寄りの姿勢が目立つこと等、予てから彼女に纏わり付く“嘘吐き”“権力の猛者”といった負のレッテルを拭い切れないでいる。当初は泡沫候補に過ぎなかったバーモント州選出の連邦上院議員で、民主社会主義者を自任する庶民派のバーニー・サンダース氏が支持率を伸ばしているのは、そうした“反ヒラリー感情”の受け皿となっているからだ。片や共和党は現在(2015年9月末)、候補者が15人という異常事態にある。その要因としては、2010年のアメリカ最高裁判決により、政治資金管理団体(PAC)が上限無く献金を集めることができるようになった点が大きい。つまり、大富豪のパトロンさえいれば、立候補や選挙戦の継続が容易になったのである。実際、2012年の大統領選では保守派を中心に候補者が乱立しており、しかも内部で候補者を一本化できなかったこともあり、穏健派のミット・ロムニー氏が漁父の利を得る形で共和党の指名を獲得した。現在、穏健派では元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏や、オハイオ州知事のジョン・リチャード・ケーシック氏、保守派ではフロリダ州選出の連邦上院議員のマルコ・ルビオ氏、テキサス州選出の連邦上院議員のテッド・クルーズ氏辺りが有力視されている。フロリダ州やオハイオ州等、11月の本選挙の結果を左右する激戦州出身の候補者が並んでいる点は、共和党にとっては好材料と言える。その半面、民主党と比べると、現時点で既に候補者同士の中傷合戦が盛んな点は、党内分裂という致命的な事態を招きかねない不安材料である。




尤も、本選挙は未だ1年も先。何が起きるかわからないのが大統領選の本質であり、醍醐味でもある。8年前の今頃、オバマ氏の指名獲得を予測した専門家は皆無に等しかった。ただ、確実に言えることは、候補者は2年間近い熾烈な選挙戦を耐え抜くことで、超大国の次期指導者として着実に鍛えられるという点だ。ある知日派のアメリカ人専門家によると、日本の政治家なら2ヵ月で音を上げるか潰されるほど過酷なレースだという。筆頭候補なら10億ドル近い選挙資金を工面する必要がある。近年の大統領選では、ほぼ決まって「中流層の窮状を如何に救うか?」と「アメリカの国益と優位性を如何に守るか?」が2大争点になる。この点は今回も変わらない。具体的には、オバマケア・最低賃金・税制改革・TPP・不法移民・テロ対策・中東情勢・中国の台頭等である。そして、民主党が政府の積極介入・弱者救済・国際協調路線・対話路線等を重視し、共和党が民間活力・自由競争・自助・単独行動・有志連合・力の行使等により積極的という構図も変わらない。アメリカは、君主や貴族ではなく、市民(デモス)が大国を統治するという人類史上初の試みを地で行く実験国家であり、屡々“理念の共和国”と称される。自由や民主主義といった“理念”を標傍している点は両党とも同じだが、それに至る方法論の違いは明確だ。民主党が東部・西海岸・都市部・高学歴層・若者・マイノリティーを、共和党が西部・南部・農村部・白人・中高年・男性を其々支持基盤とする構図も変わらない。両党の支持率がほぼ拮抗する中、最後は約10の激戦州の中の約2割を占める浮動層の心を掴んだ候補が、ホワイトハウスの新たな館主となる。


渡辺靖(わたなべ・やすし) 文化人類学者・国際政治学者・慶應義塾大学環境情報学部教授。1967年、北海道生まれ。上智大学外国語学部卒業後、1997年にハーバード大学で博士号を取得(文化人類学)。著書に『沈まぬアメリカ 拡散するソフト・パワーとその真価』(新潮社)・『“文化”を捉え直す カルチュラル・セキュリティの発想』(岩波新書)等。


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