【ソニー・熱狂なき復活】(11) 公私混同発覚で辞任…盛田家御曹司の大失態

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『ソニー』創業家の嫡男は、“最後の砦”からも遂に放逐されてしまった。昨年12月9日、故・盛田昭夫氏の長男である英夫氏(63)は、東証2部上場企業の『ジャパンフード&リカーアライアンス(JFLA)』の会長を辞任した。過去、数々の大型投資に失敗し、一族の財産を食い潰してきた同氏にとって、JFLAは残された本丸。しかし、公私混同による不祥事が発覚し、とうとうそこからも追われる結末となった。疑惑が持ち上がったのは昨年夏のことだ。監査法人が会計監査の作業を進める中、ある貸付先を巡る資金移動が問題視された。貸付先は、飲食会社の『モリタフードサービス』。2012年当時、英夫氏がハワイの資産管理会社を通じ、全額出資する個人会社だった。同年9月末時点で、JFLAは2億4600万円を貸し込んでいた。同年10月9日、モリタフードは一部事業を同業の『子の日』に譲渡。代金3億3000万円を受け取った。JFLAによる貸し付け条件は不明だが、本来ならその時点で返済を求めてもよい筈だ。しかし僅か6日後、モリタフードは受取代金の大半である2億6000万円を、英夫氏が代表取締役を務め、実質支配する資産管理会社『盛田アセットマネジメント』に貸し付けてしまった。結局、翌年12月以降、モリタフードによる弁済はストップ。JFLAは已む無く貸倒引当金を計上した。他方、盛田アセットに対する貸付金もその後、焦げ付いたと見られる。英夫氏からすれば、資金移動は全て身内企業の間で行われただけに見えたかもしれない。が、多数の株主による負託を受けたJFLAからすると、英夫氏は貸付金の回収努力を怠り、個人会社に資金を隠匿したように映る。監査法人の指摘を受け、JFLAは社外調査委員会を設置した。すると、他にも不透明な取引や支出が出てきた。レコードマネジメント契約等を名目とする取引は、必要性や実態が不確か。全てが英夫氏の知人が経営している会社に対するものだった。更に、英夫氏個人による社用クレジットカード等の私的利用まで判明する。事ここに至り、英夫氏はJFLAを去らざるを得なくなった。

英夫氏は嘗て、ソニーの将来を担うことを期待された人物だ。実父の昭夫氏が故・井深大氏と共に『東京通信工業』(現在のソニー)を起こしたのは1946年。その後、トランジスタラジオ等画期的な製品を次々と世に送り出した“SONY”は、1970年に日本企業で初めてニューヨーク市場上場を果たし、誰もが知る世界企業へと羽ばたいた。実は、その草創期に後ろ盾となっていたのは、盛田家の豊富な財力だった。盛田家は、愛知県の知多半島で江戸時代から清酒や味噌・醤油の醸業を営んできた名家だ。当主は代々“久左エ門”を襲名し、昭夫氏は15代目に当たる。業容を拡大した後も、ソニーは盛田家による同族経営が続いた。昭夫氏の下、後任社長には義弟の故・岩間和夫氏が就任し、末弟の正明氏が副社長として脇を固めた。そんな中、盛田家の御曹司である英夫氏は、1977年に系列の『CBSソニー』に入社。5年後にはソニー本体へと転じた。当然、次代の社長候補と目された。ところが1985年1月、英夫氏は突然、ソニーを退社する。転じた先は、盛田家の祖業を引き継ぐ『盛田株式会社』だった。この間、ソニーの経営に没頭していた昭夫氏に代わり、家業を守っていたのは長弟の和昭氏。英夫氏はその下で、来るべき16代当主としてのイロハを学ぶ為、謂わば出戻りした形だった。しかし、英夫氏がのめり込んだのは、祖業とは畑違いの大規模スキー場開発。梃子としたのは、莫大な資産価値を持つに至ったソニー株だ。海外の高級保養施設を模した『ARAIリゾート』が開業したのは1993年冬。最終的な投下資金は500億円超とされる。が、この間にバブルは弾け、巨額投資を回収することは不可能だった。初期赤字を穴埋めする為、盛田家の資産管理会社『レイケイ』は1994年1月、保有する約230億円相当のソニー株をスキー場開発会社に現物拠出する必要に迫られた。次に、英夫氏が多額の資金を投じたのはF1ビジネスである。2000年12月、『プジョー』のF1エンジン部門を買収。車体開発も手掛けようとイギリスに現地法人を設立した。元手としたのは、ソニー株を担保に欧米の金融機関から借りた230億円もの大金だ。だが、これも直ぐに頓挫する。提携先のチームにエンジンを無償で提供する杜撰な運営計画が祟り、2001年11月にエンジン開発の現地法人は経営破綻してしまったのである。




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折からのITバブル崩壊で、レイケイは2001年夏頃から銀行に追加担保の差し入れを求められた。結局その後、虎の子のソニー株は容赦無く市場で売却処分され、軈て底を突いてしまった。更に、英夫氏にとって誤算が重なる。2005年3月、F1事業の損失計上を巡り、レイケイが56億円もの法人税を追徴されたのである。最早、英夫氏にそんな大金を払う余裕は無く、国税当局に箱根の別荘を差し押さえられる始末だった。2008年頃からは、昭夫氏の肝煎りで設立された2つの財団法人の基本財産にも手を付け、前出の盛田アセットに10億円近くを流用してもいる。赤字垂れ流しの末、スキー場は閉鎖となった。そうした揚げ句、英夫氏に最後に残されたのが、家業の醸造業を引き継ぐJFLAだった。そのJFLAも結局、英夫氏の退社と共に新興の『阪神酒販グループ』に明け渡された。散財ぶりに愛想を尽かし、叔父の和昭氏とその長男・宏氏はとうの昔に英夫氏から離れ、酒類卸『イズミック』とコンビニチェーン『ココストア』を引き取り、新たに『MICSグループ』を立ち上げていた。和昭・宏両氏が本家嫡男の苦境に手を差し伸べることは終ぞ無かった。大手チェーンに押され、昨年10月にココストアをファミリーマートに売却しており、両氏にも余裕は無かった。「オーナーと使用人の関係」――。レイケイの元役員は語る。野放図な投資や脇の甘さを諌める人間は周りにおらず、それが不幸の始まりだった。最後には英夫氏は家賃やカード代金も滞納し、役員報酬を差し押さえられるほどだった。ソニーの奇跡的な成功から半世紀足らず、その母体となった盛田本家は落日の時を迎えようとしている。


高橋篤史(たかはし・あつし) フリージャーナリスト。1968年、愛知県生まれ。早稲田大学教育学部卒。『日刊工業新聞社』等を経てフリーに。


キャプチャ  2016年1月30日号掲載




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