潰れそうなあの店が潰れない秘密――閑古鳥が鳴く優良店の謎、“ここだけの技術”の旨み

閑古鳥が鳴く店内、時代遅れの外観。だが、潰れそうで潰れない──。街でそんな店を見かけ、不思議に思った経験は誰しもある筈だ。人口が減り、大資本による流通の寡占化が進む中、目新しい商売をしている訳ではない彼らが、何故生き残っているのか。そこには、成熟極まる市場で事業を永続させる為の新しい経営モデルが隠されていた。 (西雄大・宇賀神宰司)

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今年度から10年計画での大規模再開発が決まり、一段と賑わいを見せるJR川崎駅前。ここに、一際異彩を放つ店がある。『辻野帽子店』(右写真)だ。創業は1930年代で、川崎駅前大通り商店街で帽子一筋の専門店としてやってきた。駅前で人通りが多いにも拘らず、入店する客は殆どいない。取材当日の午後、店を訪れたのは1人だけだった。賑やかな商店街だが、よく見ると混み合っているのはチェーン店が中心。「商店街の仲間の多くは店を畳んで、大企業に土地と建物を貸している。そりゃそうですよ。普通ならそっちのほうが儲かるもん」。辻野洋二郎取締役は、そう笑う。だが、それは決して自虐的な笑いではない。外観だけ見ると昭和からタイムスリップしたようなこの店、相当の優良店なのだ。昨年の売上高は約3000万円。「成長著しいとは言わない。でも、潰れることは先ず無い筈です」(辻野取締役)。閑古鳥が鳴く店内、時代遅れの外観。だが、潰れそうで潰れない──。街で辻野帽子店のような店を見かけ、不思議に思った経験は誰しもある筈。人口が減り、大手流通による寡占化が進む中、目新しい商売でもないのに何故生き残っていられるのか。その背景に、成熟市場で事業を永続させるヒントがあるかもしれないと考えた本誌取材班は、“シャッター商店街の個人店”から“離島の共同店”まで全国を取材した。そこから見えた“潰れそうで潰れない店”の秘密は、“ビジネスモデルが独特”で“地域と助け合っている”、この2つに集約できる。「何れも、顧客や地域との信頼関係をベースに、顧客の絶対数が少なくても商売が回る仕組みを構築している店が多い」と、商店街や個人商店事情に詳しい『船井総合研究所』経営改革コンサルティング事業部シニアアソシエイトの丹羽英之氏が言う。

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先ず、“ビジネスモデルが独特”から見ていこう。丹羽氏を始めとする専門家の意見を総合すると、客がいないのに破綻しない店のビジネスモデルは、大別して3つある。1つは、不動産収入等があるケース。2つ目は、外部から見えないだけで実は客はいるというケースで、店に客はいないが病院や動物園等が近隣にあり、そこと事実上の提携関係にある青果店等が当てはまる。以上の2つは、不動産にせよ地縁にせよ、“先代からの遺産”によるところが多く、一般企業の経営に参考にならないので深く踏み込まない。今回解剖するのは、3つ目の、極めて限られた顧客に高利益率の商品・サービスを提供している店だ。こう書くとありがちなパターンに思えるかもしれないが、ここに該当する“潰れそうで潰れない店”の商売は、そんじょそこらの高付加価値ビジネスではない。“顧客の限られ方”や利益率の高さは尋常でなく、客は年間数十人なのに利益率9割以上といった店もザラ。逆に言えば、それだけ高利益だからこそ少ない客で成立する訳だが、では何故そこまで利幅が取れるのか。その理由は2つある。1つは、競合相手が極端に少ないことだ。冒頭に登場した辻野帽子店はその典型的事例で、東京帽子協会によると、「同レベルのサービス・品揃えを提供できる店は、関東で3店しかない」。だとすれば、約1万㎢・人口1300万人に1軒」(=関東1都6県の人口4260万人、面積3万2420㎢に3軒)の超希少店となる。自ずと一般に流通していない商品も多く、それらを求め、帽子愛好家が全国から訪れる。その数、約500人。春夏2回訪れるとして年1000人。1日の来店者は約3人となる。確かに数は少ない。が、この3人は、好きな帽子を手に入れる為なら金に糸目をつけず、ほぼ確実に平均単価約3万円の帽子を来店する度に買っていく。この“単価3万円”“年間来客数延べ1000人”といったシミュレーションは、同店の年商や取材当日の来店客数とも整合が取れる。勿論、ただ珍しい帽子が欲しいだけなら、今の時代、通販で購入することも可能。この店に「遠くは北海道からも熱烈なマニアが訪れる」(辻野取締役=左写真)のは、品揃えも然ることながら、ここでしか受けられないサービスがあるからだ。フィッティング(帽子のサイズ調整・被り方指導)である。現在、帽子の多くはフリーサイズで売られている。だが辻野取締役は、「人間の頭の形は千差万別で、顔の左右非対称ぶりも様々。本来なら1㎝単位でサイズを合わせ、被り方を決める必要がある。フィッティング無しには、どんな人でも本当の意味で帽子は似合わない」と強調する。本気でフィッティングサービスを提供するには、見立てる技術に加え、大量の在庫が必要になる。だから、効率重視の大手流通業者はフィッティングなどしないし、フリーサイズの帽子しか扱わない。だが辻野取締役は、「それでは日本から真っ当な帽子文化が消えかねない」とばかりに、2階の倉庫に膨大な在庫を確保。500人の帽子愛好家も、そんな同店の姿勢を断固支持している。これが、辻野帽子店が潰れそうで潰れない最大の理由だ。




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圧倒的な希少性を武器に、客が少なくても高収益を維持している店がある一方で、徹底的な低原価で利幅を確保している店もある。さいたま市にある『馬場寝具店』(上写真左)はその1つだ。1946年開業の同店も、辻野帽子店に負けず劣らず、店では閑古鳥が鳴いている。商店街から外れた場所にあり、一見の客がふらりと店に入り、購入することはほぼ皆無。それでも、店には馬場宏社長(上写真右)と2人の子供が働いており、「おかげさまで、全員が普通に暮らしていくだけの商売を続けさせて頂いている」(馬場社長)という。約2000万円という年商でそれが可能なのは、それだけ事業コストが低いからだ。収入の柱は、約500人いる固定客を対象にした布団の“打ち直し”と“洗い”。打ち直しとは、布団の中の綿を詰め直すことで、洗いは文字通り、布団に染み付いた汗や汚れを洗うことだ。料金はシングルサイズで6480円(税込み)からだが、発生するコストは洗剤代・クエン酸代・水代・綿代程度。料金の大半は技術料だ。また、500人の固定客は10~15年に1度という低頻度ながら、布団を確実に買い替える。何れも平均単価20万~40万円の高級布団の為、こちらの利益も大きい。500人の常連客について馬場寝具店は、「家族構成は勿論、1人ひとりが好む枕の硬さ・高さ・素材まで把握している」(馬場社長)。常連客は高級布団を使う富裕層世帯であることもあって、多少値段が安かろうとアフターサービスなどほぼ無きに等しい量販店等へ“浮気”することはレアケースだという。

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“潰れそうで潰れない店”の中には、辻野帽子店のような希少性と、馬場寝具店のような低原価の両方の性質を兼ね備えた店もある。福岡県久留米市。シャッターを下ろす店が目立つ典型的な地方商店街、西鉄久留米駅近くの『ベルモール商店街』に『ぼたんや』という洋裁店がある。固定客は今や300人程しかいないが、82歳の加藤幸恵社長(右写真中央)は昭和30年代から現在まで安定した経営を続けてきた。強みの1つは、やはり希少性。「専業でやっているのは、久留米ではうちくらい」と加藤社長は話す。計算上の希少性は“人口30万人・200㎢に1軒”と辻野帽子店ほどではないが、1万種類以上の在庫を抱え、60年前から店頭に並ぶボタンもあるほど。東京からも洋裁マニアが買い付けに来る。事業コストも低い。主要顧客の1つが、洋裁教室に通う生徒たちだ。洋裁の場合、ある程度基礎を積めば、シャツやカーディガン等を縫うこと自体はできる。が、ボタンホールを作る“穴かがり”等、特殊な技術の習得には時間が必要で、生徒には荷が重い。そこで、加藤社長らが地域の洋裁教室を回り、穴かがり等の作業を請け負う。これがボタンの販売以上の利益を生む。単価は1個100円。だが、原価は糸代だけで、馬場寝具店の打ち直し・洗い同様、ほぼ技術料。穴かがり以外にも、ぼたんやには、クリーニング店が顧客のボタンを無くした際に、全く同じものを復元する技術等、“ここでしかできないサービス”が数多くある。希少性が高く、低原価な商売は他にもあるに違いない。だが、人口急減が避けられない今後の日本では、並みの珍しさと利幅では、市場成熟の波に確実に洗われる。その意味で、成熟極まる市場で小さな店が永続する条件の1つは先ず、“30万人に1軒”“利幅9割”といった究極の希少性と利益率を有することになりそうだ。尤も、そうなると縮小市場で生き残るのは、超ニッチ・超高付加価値店だけになってしまう。が、今回の取材では、極めてオーソドックスな業態ながら事業を逞しく存続させ続けている“潰れそうで潰れない店”も発見した。その秘密を一言で言えば、“地域と助け合っているから”となる。

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急速な過疎化が進む沖縄。中でも名護市以北のヤンバル地区は、コンビニエンスストアさえ疎らな地域だ。その最北端、那覇市内から車を2時間ほど走らせた場所にある国頭村の集落“奥”に、その店はある。外観・店内共に年季が入っており、お世辞にも繁盛店には見えない。実際、1日の平均客数は100人ほど。それでも、この『奥共同店』(上写真左)は、1906年の設立から110年、歴史の荒波に揉まれながらも商売を存続させてきた。品揃えは日用品や食料等、小さなスーパーマーケットと遜色なく、ニッチ業態でも何でもない。典型的な過疎地で、且つオーソドックスな業態でありながら商売が続く秘密を探る前に、“共同店”という沖縄独特の業態を解説しておこう。共同店は文字通り、集落の全世帯・全住民が出し合った資金を元に共同運営する仕組みを取る。戦後に都市化が進む中で急減したが、嘗ては本島全域に普及していた。今もヤンバルを始め、交通の便が悪いエリアや、宮古島等の離島に点在する。運営方法は店毎に違いはあるが、原則として、集落に移り住んだ者は自動的に組合員となり、組合費の納付が求められる。産まれたばかりの赤ん坊も同様で、出生してから一定期間に親が加入金を支払わねばならない。多くの場合、組合費は一生に一度納付すればよく、店の運営は住民から選ばれた代表者が担う。

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そんな共同店が存続する上で何よりネックとなるのは、大半が過疎地にあるが故、客足が極端に少ないことだ。奥共同店の1日100人は未だ多いほうで、伊部共同店(国頭村=上写真左)に至っては「1日5人の時もある」(店主の名嘉山スエ子さん)という。それでも店が存続できるのは、販売価格を高く設定しているからだ。奥共同店の場合、例えばカビ取り剤『カビキラー』が525円(税込み)、風呂用掃除剤『バスマジックリン』が360円(同)と、とある東京のドラッグストアの価格(其々約330円・約250円)に比べ4~6割高い商品もある。この価格差が、少ない客足をカバーする原資となる。勿論、約180世帯ある奥共同店の常連客は、最も近い都市部である名護に行けば、もっと安く買い物ができることを知っている。だが、現実には行かない。共同店の利用者の中心である高齢客はほぼ、車を持っていないからだ。名護へ行くには、唯一の公共交通機関であるバスを利用せざるを得ず、往復で3時間はかかる。その手間を考えれば、多少高くても共同店で買い物した方が遥かに楽なのだ。それに、共同店で買い物すれば、掛けで支払いができる。ルール上は月末締めだが、最大12ヵ月の猶予が可能。現金収入が少ない高齢者には使い勝手が良く、2ヵ月に1度の年金支給日に払う人もいれば、年末年始に帰省した子供が一括で払うケースもあるという。

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注目すべきは、奥に暮らす若者たちまでも共同店を利用するケースが多いことだ。若者は車を持っており、その気になれば名護へ毎日でも買い物に行くことができる。「だが、それをしてしまうと、“おじい”や“おばあ”が買い物難民になってしまうことを、彼らは十分理解している」と、共同店の歴史に詳しい『やんばる・地域活性サポートセンター』の比嘉明男理事長は説明する。沖縄の共同店が“優しい”のは、利用者に対してだけではない。納入業者には、僻地である奥まで物資を運搬しても割に合うようにと、原則として現金で支払う。共同店の経営という観点から見れば、これら一連の仕組みは厳しい。消費者に掛けで売り、納入業者に現金で支払っていれば、運転資金は徐々に枯渇する。価格設定が多少高いとは言え、ここまで商圏が限られれば、内部留保する余裕など生まれない。1日に訪れる100人の客が1000円使っても、年商は3650万円。粗利から人件費や光熱費等の経費を引けば、毎年トントンだ。だが、前出の比嘉氏は「それで十分。決算を締める時に帳尻さえ合えばよい。何の問題も無い」と主張する。確かに、住民は多少割高な買い物をせねばならず、納入業者は遠路はるばる物資を運搬する必要があり、店は大きな儲けは望めない。しかしその分、全国屈指の過疎地でありながら誰1人、買い物難民にならず、納入業者は経営が安定し、共同店は永続し雇用を維持できる。「皆が少しずつ我慢することで、皆で生きていくシステム」。沖縄の地域創生に携わるコンサルティング会社『カルティベイト』の開梨香社長は、共同店の在り方をこう表現する。そんな助け合いの精神を、沖縄では“ゆいまーる”と呼ぶ。開社長が言うように、この独自のシステムは、共同体の各メンバーが経済合理性を過剰に追わないことで成り立っている。

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デフレの進行が一段落したとは言え、日本の他の地域では今も、顧客は1円でも安く買おうと店を選別し、企業は1円でも儲けようと競争に明け暮れている。だが、互いに経済合理性を追求した結果、共に恩恵を得ているかと言えば、そうではない。「店側は過当競争による利益無き繁忙で消耗し、櫛の歯が欠けるように撤退が続いている。その結果、便利な筈の都内ですら買い物難民が増えている」と、『船井総研』シニアアソシエイトの丹羽英之氏が指摘する。皆が経済合理性を追求したからといって、社会全体が合理的になると限らない。寧ろ発想を転換し、其々が利益を過剰に追求せず助け合えば、社会の生産性は却って高まり、成熟社会でも企業の存続や生活レベルの維持が可能になる──。そんな教訓が、沖縄の共同店の事例からは学び取れる。こうした顧客と地域・企業の助け合いで繁栄を維持する構図は、前出の“超ニッチ・超高付加価値店”にも共通するものだ。街角にひっそりと立つ“潰れそうで潰れない店”。それは今後、人口減少時代を控えた日本と日本人に重要なヒントを示していると言えそうだ。


キャプチャ  2016年5月2日号掲載




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テーマ : 経済・社会
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