【18歳・240万人の新有権者】(上) 政治の話「浮いちゃう」

6月20日以降に公示される国政選挙から、選挙権年齢が“20歳以上”から“18歳以上”に引き下げられ、夏の参院選に適用される見通しだ。新たな18・19歳の有権者は約240万人。普通選挙権が認められた1945年以来、約70年ぶりの参政権拡大が日本の政治に齎す影響を考える。

20160506 20
「熊本地震からの復興の為に力が必要です。ご協力をお願い致します」――。今月25日、熊本県南阿蘇村の東海大学農学部阿蘇キャンパスで学んでいた学生約10人が、東京のJR新宿駅前で復興に充てる為の募金活動を行っていた。その1人である同学部2年の上野真帆さん(19)は、南阿蘇村の学生寮がほぼ全壊し、埼玉の実家に避難した。同級生の1人は、全壊したアパートで命を落とした。上野さんは、「道路や橋を直し、住宅を造って、早く現地での生活を楽にしてあげてほしい。政治は難しくて理解できないこともあるけど、復興は政治が決めること。ちゃんと選挙には行ったほうがいいとも思うようにもなった」と話した。多くの若者にとっては、日常的に政治や選挙について考える機会が不足してきたとも言える。「友だちと政治の話なんてすると、“意識高い系”って呼ばれて浮いちゃう」――。先月29日、国会内で開かれた高校生約100人と、与野党各党の幹部らが交流するイベントで、女子高校生がそう語った。参加した他の高校生からも、同じような声が上がった。若者文化に詳しい『博報堂ブランドデザイン若者研究所』リーダーの原田曜平氏は、「一般の若者は、友人関係の話題への関心は高いが、政治、特に国政選挙のテーマは最も遠いところにある」と指摘する。安全保障関連法の反対デモを主導する学生団体『SEALDs』等については、「日本の若者の中では圧倒的な少数派だ」と見る。内閣府による世界の13~29歳を対象にした調査(2013年度)では、「政治に関心がある」と答えた日本の若い世代は50.1%。既に18歳選挙権が定着するドイツ(69%)、アメリカ(59.4%)、イギリス(55.8%)等を下回った。19歳から投票できる韓国は61.5%だった。日本は調査対象の7ヵ国中6位で、選挙権年齢の引き下げが遅かった影響とも言える。「若者の投票行動に大きな影響を与えるのはインターネットだろう」との指摘がある。“尾木ママ”の愛称で知られる法政大学の尾木直樹教授は、「インターネット上で若者の感性とぴったり合う政党や候補者が出てきたら、一気に大きな動きに繋がるかもしれない」と語る。選挙権年齢の引き下げは、憲法改正の手続きを定めた国民投票法が18歳以上に投票権を与えたことから、昨年6月の公職選挙法改正で実現が決まった。それから1年余りの今夏。18・19歳は手探りの中で、1票を行使する場面を迎えようとしている。




選挙権年齢を現行の“20歳以上”から“18歳以上”へ引き下げる改正公職選挙法が、6月19日に施行される。男女普通選挙が実現した1945年の見直し以来、約70年ぶりの選挙権拡大となる。今夏の参院選から適用される見通しで、18・19歳の約240万人が新たな有権者に加わる。今回の見直しの特徴や諸外国との比較等を解説する。 (政治部/寺口亮一・松下宗之・太田晶久)

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①Q.国政選挙の初投票は?  A.夏の参院選が有力
改正公選法は、施行後初の国政選挙から“18歳選挙権”を適用すると定めており、夏の参院選からの適用が有力だ。ただ、参院選が6月23日公示・7月10日投開票ならば、公示後に告示される福岡県うきは市長選(6月26日告示・7月3日投開票)や滋賀県日野町長選(6月28日告示・7月3日投開票)等のほうが、18歳の投票は早く実現する。参院選が7月10日投開票なら、1998年7月11日までに生まれた人が投票権を得る。18歳は大半が高校生だが、誕生日の違いで、同級生でも選挙権がある生徒と無い生徒が混在する。選挙権拡大に伴い、春の進学や就職で引っ越しすることが多い若者の事情に配慮する制度見直しも行われた。現住所に3ヵ月以上住んでいないと投票できなかったが、引っ越し前の自治体で3ヵ月以上の居住歴があれば、旧住所で投票できるようになる。参院選では、3月下旬以降に転居し、投票できない18・19歳が約7万人と推計されていた。18・19歳の選挙運動も解禁される。友人らへの候補者支援の呼びかけや電話による投票依頼の他、選挙運動の様子をインターネットの動画サイトに投稿することもできる。更に、『ツイッター』や『LINE』等のソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を利用した選挙運動も可能だ。一方で、禁止事項も多い。例えば、電子メールを使った選挙運動は政党や候補者に限られ、政党等から届いた選挙運動のメールの転送は禁止されている。選挙運動を目的としたウェブサイトは、開設者のメールアドレス等の表示が義務だ。18・19歳の未成年でも、買収等連座制の適用となるような悪質な選挙違反に関われば、家庭裁判所が原則として検察官送致(逆送)するので、成人並みの厳しい処罰を受ける。文部科学省は昨年10月、校外での高校生の政治活動を原則として解禁する通知を出した。校内では、放課後や休日でも施設管理や他の生徒の学習に支障が生じないよう、“制限・禁止”とした。

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②Q.制度の歴史は?  A.70年ぶりに拡大
長い選挙の歴史の中で、選挙権が拡大されるのは今回で5回目となる。明治憲法発布翌年に行われた1890年(明治23年)の第1回衆院選は、15円以上の直接国税を納めている25歳以上の男子だけが投票できる制限選挙だった。総務省によると、当時の有権者は約45万人で、全人口の僅か1.1%だった。その後、選挙権拡大を求める声が高まり、先ずは納税要件の緩和が行われた。1900年(明治33年)には、納税要件が直接国税10円以上に緩和された。1919年(大正8年)には同3円以上となり、有権者は307万人に増加した。第1次世界大戦後、“大正デモクラシー”の盛り上がりを背景に、身分や納税額に縛られない“普通選挙”を求める運動が広がった。1925年(大正14年)には納税要件が撤廃されて、25歳以上の男子に選挙権が認められた。1928年(昭和3年)の衆院選の有権者数は約1240万人で、全人口の20%に拡大した。一方、女性参政権を求める声は明治初期からあったが実現せず、平塚らいてうや市川房枝による運動も中々実を結ばなかった。転機は、第2次世界大戦の敗戦だ。『連合国軍総司令部(GHQ)』は1945年(昭和20年)、女性に選拳権を与えることによる女性解放を日本政府に命じ、選挙法(当時)が改正された。女性にも選挙権が認められた他、選挙権年齢も25歳から20歳に引き下げられた。漸く、男女平等の“普通選挙”が実現した。1946年の衆院選の有権者は、全人口の48.7%に当たる3688万人。39人の女性が当選した。

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③Q.何故、年齢引き下げ?  A.国民投票法の整備がきっかけ
選挙権年齢が18歳へと引き下げられたきっかけは、安倍首相が自指す憲法改正に関する手続きを定めた国民投票法だった。安倍内閣の下、2014年6月に成立した改正国民投票法は、国民投票の年齢を“18歳以上”とした。同法は付帯決議で、2年以内に選挙権年齢も引き下げるよう求めた。これを受け、自民・公明・民主等与野党7党は2014年11月、選挙権年齢を“18歳以上”へと引き下げる公職選挙法改正案を提出。直後の衆議院解散で廃案となったが、再度国会に提出され、昨年6月に成立した。だが、選挙権年齢は下がっても、民法が規定する“成人”の年齢は20歳のままで、“大人の定義”を巡る議論は今後も続きそうだ。少子高齢化も、選挙権年齢の引き下げを後押しした。有権者に占める高齢者の割合が一層高くなる反面、国の借金や社会保障制度等、今の若い世代が将来的に影響を受ける課題の重みが増した。この為、「若い世代の声をもっと国政に反映させるベきだ」との声が強まった。政治は、投票率の高い高齢者らに目を配りがちだ。日本では諸外国に比べ、子育て支援等若い世代向けの予算より、介護・医療・年金等高齢者に充てる予算が手厚い。若者の声が政策に反映されるかどうかは、その投票率が重要な要素になりそうだ。

④Q.対象人数は?  A.240万人、有権者の2%
新たに選挙権を得る18・19歳の総数は、推計で約240万人とされている。内訳は、18歳が約119万6000人、19歳が約119万1000人。2010年の前回国勢調査の時点で12・13歳の男女の人数から、6年後に当たる今年に18・19歳になる人数を割り出したものだ。昨年9月時点の全国の20歳以上の有権者は約1億410万人で、単純計算すれば18・19歳の有権者は全体の約2%になる。ただ、今夏の参院選で18歳の誕生日を迎えているのは半分程度と見られ、実際に投票できるのは240万人よりも少なくなる。

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⑤Q.海外では?  A.9割が“18歳以上”
海外の大半の国では、18歳になれば投票ができるようになる。国立国会図書館が2015年12月、世界199の国や地域を調べたところ、日本の衆議院に該当する下院の選挙権年齢が判明した189ヵ国・地域の9割近い167ヵ国・地域(日本含む)で“18歳以上”に認めていることがわかった。先進7ヵ国(G7)では、日本以外は全て、既に18歳以上だった。『経済協力開発機構(OECD)』に加盟する34ヵ国に対象を広げても、日本以外で18歳の投票を認めていなかったのは、2005年に20歳から19歳へと改正した韓国だけだ。欧米では主に1970年代、選挙権年齢が18歳以上へと見直された。だが、「有権者全体の投票率を押し上げるほどには、若者は選挙に参加しない」という専門家の分析もある。18歳から更に引き下げた国もある。アルゼンチン、キューバ、オーストリア等6ヵ国が16歳以上、インドネシア等3ヵ国が17歳以上に其々選挙権を認めている。イギリス北部のスコットランドは昨年6月、地方選に限って16歳以上とすることを決めた。今年5月から実施される。ユニークな例もある。インドネシアや中米のドミニカ共和国では、結婚すればその年齢に拘らず選挙権が与えられる。オーストラリアは18歳以上に選挙権を認めているが、投票は義務とされており、正当な理由が無く、選挙で投票しなかった場合は、20オーストラリアドル(1700円程度)の反則金が科される。


≡読売新聞 2016年4月28日付掲載≡




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テーマ : 選挙
ジャンル : 政治・経済

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