【日曜に想う】 トランプ現象、答えのない問い

強い既視感が拭えない。アメリカ大統領選で、共和党の候補になるドナルド・トランプ氏についてのニュースを見聞きする度に、2002年のフランスの光景が甦る。その年の仏大統領選もまた、キワモノ視されていた右翼政党『国民戦線』党首のジャンマリ・ルペン氏が決選投票の候補に躍り出た。左派『社会党』の候補は1回目の投票で敗退。予想外の展開に左派の支持者たちは、決選で已む無く保守派の現職・シラク氏への投票に回った。「鼻を摘んでシラクに1票を」――。そんな呼びかけが広がった。14年後のアメリカでも、トランプ氏の勢いを止められない共和党支持者の間から、「民主党の候補に投票するしかない」という声が出ている。迷走する既成政党を尻目に、急速に支持を伸ばすポピュリストと形容される政党や政治家たち。「当然です。私たちが目指していたことが漸く世界に広がりだした」。当時のフランス大統領選でルペン氏の選挙参謀だったヨーロッパ議会議員のブルーノ・ゴルニッシュ氏(66)は、パリ郊外の自宅でちょっと得意そうだった。「人々はグローバル化で、自分たちのアイデンティティーが脅かされていると感じている」。だから、移民を問題視し、自由貿易を懐疑し、他国文化の侵入を警戒するのだと。

トランプ現象もその表れと見る。「トランプ氏は他国に攻撃的ではない。例えば安全保障では、『他の国の面倒まで見るのはもう沢山だ』と主張しているだけでしょう」。国際社会で覇権を求めず、外より内に目を向けるアメリカなら歓迎する。他国が心配するのは、アメリカが出てくることではなくて、引き揚げることだが、そのほうが、イラク戦争のようなアメリカ主導の災厄に巻き込まれなくなる。各国の独立が尊重されて結構ではないかという訳だ。トランプ氏は“アメリカファースト(アメリカ第一)”を掲げる。自国民の利益を強調する姿勢も、14年前に国民戦線が強調した“フランス人優先”とそっくりだ。「どの国民も民族も違いが無いかのような考えはおかしい。それへの反発が起きている」とゴルニッシュ氏。グローバル化への不安と、その流れに乗って特権階級化しているように見えるエリートたちへの不信。パナマ文書の暴露も、ポピュリスト政党に傾く人たちの背中を更に押したことだろう。「いい問いを立てているが、答えが悪い」。フランス左派の有力政治家であるロラン・ファビウス氏は、嘗て国民戦線をそう評した。経済・テロ・環境・難民…。国境を超える数々の問題を前に、自国の枠に拘り、そこに戻っても対症療法以上の解決策は見つからないだろう。だがゴルニッシュ氏は、「全て同意ではないが、トランプ氏もいい答えを示している」と反論する。「彼が大統領になるのはアメリカにとっていいことだろう」。




毎年恒例の『国民戦線』の集会が1日、パリであった。目下、ルペン氏は娘の現党首と反目し合っており、今年は分裂開催になった。ルーブル美術館傍の広場では、父親のほうが約400人の支持者を前に熱弁を振るっていた。グローバル化等への批判もするけれど、最も聴衆が反応したのは、他国や移民を非難した部分。憎しみの調子を帯びた喚声があがる。トランプ現象と重なる。素より、憎む相手を指し示すことが“いい答え”にはならない。結局、ポピュリスト政党に人々が求めているのは、問題の解決よりも鬱憤晴らしの言説であるように見える。ゴルニッシュ氏は若い頃、京都大学に留学していた。自宅には甲冑に身を固めた自画像も飾っている。14年前も今も、「“極右”と呼ぶのは止めてほしい」と話す。「移民に厳しい、私たちにとって望ましい国籍法を持つ国の1つは日本です。それに政治的な考え方も、自民党とかなり近い」。日本は、移民どころか難民にも冷たい。12年末総選挙での自民党のスローガンも“日本を、取り戻す。”だった。似ているのは米仏だけではない。 (編集委員 大野博人)


≡朝日新聞 2016年5月8日付掲載≡




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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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