【中外時評】 夕張破綻10年の現実――地域再生へ自治権の回復を

北海道夕張市の財政破綻が表面化してから、来月で10年になる。赤字は着実に減っているが、行政サービスの低下もあって市の人口減は止まらず、夕張は窮地に陥っている。このままでは、財政は再建しても地域は立ち直らない。夕張市の鹿の谷山手町の丘の上に佇む緑ケ丘保育園。室内にも外の遊具の周りにも最早、園児の姿は無い。自然環境を生かした“里山保育”が特徴だったが、今年3月に閉園した。市の破綻をきっかけに運営費の補助が無くなった上、園児も年々減少している為だ。市が、この10年間に取り組んだリストラは凄まじい。東京23区よりも広いのに、11校あった小中学校を其々1校に減らす等、公共施設や観光施設の大幅な廃止を断行。市長の給与は70%減、職員も15%減(当初は30%減)と人件費にも切り込んだ。市民税や固定資産税は増税され、下水道料金も上がる等、市民の負担も一気に増えた。

市が国の管理下に置かれる財政再建団体(現在の財政再生団体)になったのは2007年3月。炭鉱の閉山に加えて、観光開発等で巨額の赤字を抱え込んだ為だ。当時で350億円に上った累積赤字を特例債を発行して取り敢えず埋め、その借金を2026年度まで返済し続ける計画である。「財政再建だけでなく、地域の再生も可能な新しい段階に移行できるようにしてほしい」。3月上旬、夕張市の鈴木直道市長は菅義偉官房長官と総務省の高市早苗大臣に会い、現行計画の抜本的な見直しを要請した。東京都の職員として夕張に派遣され、その後、30歳の若さで鈴木氏が市長に就いたのは2011年。以降、苦しい市政運営を強いられてきた。夕張の再生策について検討した市の有識者委員会は3月、今後について「誇りの回復・自治の回復・希望の回復を目指すこと」と提言した。これまでに95億円の赤字を解消する等、財政再建は進んでいるものの、地域の疲弊が更に加速している為だ。破綻時に1万3000人だった人口は現在、9000人程度と3割減った。嘗て260人いた市職員も約100人まで減り、厳しい労働環境に今も中途退職が止まらない。北海道等他の自治体の派遣職員の協力で、何とか凌いでいるのが実態だ。




市民が自主的に施設管理を担う等、地域を支えようという動きはある。しかし、再建をなし遂げるのはまだまだ先。「市民生活に必要なことを積み上げ、それを実現できる制度に変えてほしい」と鈴木市長は訴える。この10年間に、自治体の財政状況は大きく改善した。総務省は夕張の教訓を基に、自治体の財政を4つの指標で判断する地方財政健全化法を制定し、2008年度決算から適用。同年度には破綻の懸念がある自治体が21市町村あったが、2014年度にはゼロになった。景気回復による税収増に加えて、「第2の夕張にはなるな」と各市町村が歳出削減に取り組んだ為だ。唯一、取り残されているのが夕張だ。安倍政権は今、地方創生を掲げているが、周回遅れで出発点にもしっかりと立てない。最大の問題は自治権の制約だろう。夕張は予算編成は勿論、それを変更する際にも毎回、総務大臣の同意を得る為の協議が義務付けられている。国の制度改革に伴う計画変更でも同じだ。国との協議は既に30回を超す。市が予算を節約しても、それで浮いたお金を自由に使うことすら許されない。夕張を応援しようと集まった『ふるさと納税』の使い道にも国が口を挟む。現行制度は罰則的な色彩が強過ぎる。

人口減少に歯止めをかける為には、子育て環境の改善が要る。市内に民間の賃貸住宅が不足していることも課題だ。旧産炭地という特長を生かしたエネルギー対策等、今後の産業振興に繋がる政策も必要だろう。夕張の前にも財政再建団体に指定された自治体はあったが、再建期間は精々10年程度だった。20年に及ぶ夕張はあまりに長い。着実に赤字を減らしている夕張市は、財政再建の優等生である。財政状況の改善に併せて国の関与を減らし、市民の声を予算編成に反映し易くすべきだ。残る債務を棒引きすることは難しいかもしれないが、今やマイナス金利の時代だ。赤字を穴埋めする為に発行した地方債の借り換えを認めて、負担を軽減するのも一案だろう。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」――。先進国で最悪の財政状況にある日本にとって、夕張の現状は他人事ではない。 (論説委員 谷隆徳)


≡日本経済新聞 2016年5月8日付掲載≡




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テーマ : 地方自治
ジャンル : 政治・経済

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