【2015年の10大問題】(04) 消費税は必要…しかし10%引き上げは延期すべきだ

2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられた影響で、4-6月期の実質GDPは、年率換算でマイナス6.8%と大幅に落ち込みました。増税前の駆け込み需要の反動ともいわれますが、それにしても個人消費がマイナス5%まで落ち込んでしまったのは深刻です。とはいえ、消費がかなり冷え込むことは予想していました。ですから、私たちセブン&アイグループは、売上減を防ぐために、税率引き上げに備えて、積極的に新商品を開発し、発売してきました。その結果、コンビニエンス業界全体で4-6月期の平均売上が前年割れしたのに対して、セブン-イレブンの売上は、前年割れしませんでした。その後も好調は続き、9月には25ヵ月連続前年比増を達成しました。

小売業の動向を見ていて気づくのは、低価格のみによって消費者にアピールしている店は、コンビニに限らず幅広い業態で、消費税率引き上げによって苦戦を強いられていることです。その一方で、私たちをはじめとして、お客様を惹きつける魅力ある高品質の新商品を次々と発売している小売店は、売上を落としていません。セブン-イレブンの新商品には、店頭のセルフ式サーバーでコーヒーを提供する『セブンカフェ』があります。この商品は、本格的なコーヒーを1杯100円(レギュラーサイズ・税込み)で飲めることにお値打ち感があるとお客様に評価され、全国1万7000店のセブン-イレブンで1店舗あたり1日120杯が売れるヒット商品になっています。『金の食パン』も、よく売れています。この商品の価格は1斤6枚入りで256円と一般的な食パンの約2倍ですが、価格に見合ったおいしさを感じていただき、多数のお客様にご購入いただいています。つまり、消費者は“安さ”だけを求めているのではなく、別の価値にも敏感だということです。それは第一に“新しさ”、それに加えて、価格相応あるいはそれ以上の高品質を実感できたという“納得感”や“お値打ち感”です。なかでも“新しさ”は非常に重要です。セブン-イレブンでは、おにぎりなどの定番商品も飽きられないよう常にリニューアルしています。同様の発想で、消費税率引き上げに対応した企業に、衣料品の分野ではユニクロを展開するファーストリテイリング、家具の分野ではニトリがあります。両社とも“安さ”で消費者を惹きつけてきた製造小売業だと思われていますが、それだけではお客様は離れていきます。今回の消費税率引き上げに際しても、値下げではなく、お客様が満足感を得られる新商品を投入することで、売上を伸ばしています。




消費税率引き上げで、ここまで個人消費が落ち込んだ理由を捉えるためにはまず、日本の市場の特質を理解しなければなりません。日本は今、十分に豊かになり、モノは充足しています。モノが不足していた時代、消費者には常に買いたいモノ・欲しいモノがありましたから、小売店は特別な手立てを打たなくても売上を伸ばすことができました。しかし、モノが充足してくると、消費者にとって、今すぐに必要なモノ・欲しいモノは減っていきます。つまり、日本が戦後、豊かになる過程で、その市場は売り手市場から買い手市場へと転換したのです。そのときから小売業は常に“お客様の立場”=“消費者心理”を考えなければならない業種になりました。消費者心理は非常に変化しやすいものです。この心理は様々なことに影響されますが、たとえば、消費は賃金が上がれば増え、増税されれば減ります。しかし、そのような賃金や税負担といった目に見える数字だけでは、消費者心理を予測できなくなってきました。それとともに減税や給付金など政府による景気浮揚策の効果も計算どおりに上がらなくなってきました。むしろ近年では、天候のような一見些細に見える要素が、消費者心理に大きな影響を与えるようになってきました。冷夏だと夏物衣料やエアコンが販売不振に陥り、雨の日は客足が鈍るのは常識ですが、その振れ幅が大きくなっているのです。今でも消費者は財布の中身や口座残高、将来の生活を考えてモノを買っていると思いますが、「今日は雨だから重いモノは運びたくない」「暑くないからエアコンはなくても困らない」というように、そのときの気分が消費行動を大きく左右しているのです。ですから、経済指標だけを見て、消費者の行動を予測してはいけません。消費税率を2015年10月から現在の8%から10%に引き上げるかどうかは、2014年12月に政府が各種の経済指標をみて総合的に判断することになっていますが、消費者心理を深く読まなければ、誤った判断を下す可能性があります。

消費者心理から消費税を考えてみると、どうなるでしょうか。そもそも消費税に対しては、かなり大勢の人が理屈抜きで「嫌だ」と感じています。1989年の消費税導入や1997年の3%から5%の税率引き上げのときよりも、今回の8%への引き上げの方が消費の落ち込みは大きく、回復の兆しがなかなか見えてきません。それは消費税への嫌悪感の現れと見るべきでしょう。誰だって嫌な増税を2度3度と経験したくありません。「5%から8%の引き上げはプラス3%だが、8%から10%はプラス2%だから、前回よりも影響が少ないはずだ」などと数字で割り切って考えてはいけないのです。消費者の立場に立てば、単に嫌なことが再び起こるだけです。ですから、消費の冷え込みを放置したまま、消費税率を8%から10%に引き上げたら、今回以上に消費が落ち込み、景気は相当に厳しい局面を迎えるでしょう。そうなれば、税率引き上げによる税収増という目的を達成することができないばかりか、税収が減り、デフレ脱却も頓挫してしまうかもしれません。もちろん、私は消費税率の引き上げ自体に反対しているわけではありません。財政再建のために、いずれは消費税率を引き上げる必要があることは理解しています。しかし、消費者心理を深く読むならば、2015年10月の税率引き上げは延期すべきです。

税率引き上げを成功させるにはまず、政治家はなぜ消費税率引き上げが必要なのかを国民に丁寧に説明し、それとともに政府は、消費者心理にプラスの影響を与えるような政策を積極的に打ち出していくべきです。たとえば、真っ先に年金や医療保険・介護保険などの社会保障制度の問題に取り組むべきではないでしょうか。先送りしてきた、それらの問題を解決すれば、将来の生活についての国民の不安を払拭し、安心感を与えることができます。そうすれば、消費者心理は大いに改善し、消費は増えていくはずです。アベノミクスの軌道修正も必要です。これまでのアベノミクスを見ていると、製造業の輸出競争力強化を重視し、かつてのような輝かしい“ものづくり大国日本”を取り戻そうとしているように感じます。しかし、すでに製造業の多くが生産拠点を海外に移転していることからもわかるように、日本経済の構造は大きく変化しています。いくら円安が進行しても、輸出先に生産拠点がある商品が多いので、以前のように円安メリットを享受できなくなっています。そればかりか、円安はむしろ輸入物価の上昇による物価高を呼び、家計に重くのしかかります。個人消費はGDPの6割を占めています。個人消費の回復・増加なくしては、デフレ脱却はできないはずです。輸出競争力も大切ですが、個人消費を伸ばす政策も打つべきでしょう。今、政府に求められているのは、日本経済の実態を細かく把握した上で、消費税率引き上げに向けた最善のシナリオを書き直すことです。

ここまで消費税率引き上げの延期を提言してきましたが、いずれ10%時代に入っていくでしょう。そのとき、企業は、消費の落ち込みにどのように対応していくべきでしょうか。小売業に関していえば、やはり“消費者の立場”に立って、消費者のニーズを敏感に察知し、それに対応していくしかないと思います。わずか50年ほどの間に社会は大きな変貌を遂げました。先ほども述べたように、小売業は売り手市場から買い手市場へと転換していきましたが、その間、小売業の業態は、百貨店・スーパー・コンビニと多様化しました。その都度、「これからはスーパーの時代だ」「これからはコンビニの時代だ」といわれましたが、現状を見ればわかるようにそれぞれの業態は共存しています。売上を伸ばせるか否かは、業態ではなく、それぞれのお店がどれだけお客様の変化に対応しているかにかかっています。

変わっていないように見えるかもしれませんが、コンビニの業態も常に変わっています。今から約40年前、セブン-イレブンが国内で営業をはじめた当時のことです。私はフランチャイズ加盟の勧誘のために町の酒屋さんをまわりながら、「酒店は個人宅に配達しているから大変でしょう。それに比べてコンビニエンスストアは、お酒だけでなく、食料品や雑貨などいろいろな商品が揃っていますから、顧客が自発的に買い物に来てくれます」とコンビニのメリットを説明していました。しかし、今や時代は一変し、セブン-イレブンは電話で注文を受けた商品や、お食事お届けサービス『セブンミール』の商品を、電気自動車『コムス』で消費者宅に無料配送するようになりました。高齢化社会を迎えて、外出をするのが大変なお年寄りが増え、「お店に行かないでモノを買いたい」というニーズが高まってきたからです。また、一昔前は飲食業や小売業を中心にセルフサービスのお店が好評を博しました。セルフサービスにすることで、コストを削減して、低価格を実現し、それによって消費者を惹きつけていたのです。しかし、今は消費者のニーズが変わり、価格が多少高くても、質のいい行き届いたサービスが求められるようになりました。そのように消費者が求めるものは、常に目まぐるしく変わっています。

現在のようなモノが充足している状況は今後も続くでしょう。そうであるとするならば、これからのビジネスの要諦は、消費者のニーズに応える新商品を提供すること――これに尽きます。これだけ豊かな社会になっても、お客様は常に新しいモノを求め、すでにあるモノやサービスのどこかに不満を持っているものです。それを懸命に探し、それに応えていくしかありません。それができれば、難しい局面を打開する道筋が見えてくるはずです。私たちも常にそれを実行していきます。


鈴木敏文(すずき・としふみ) セブン&アイホールディングス代表取締役会長兼CEO。1932年生まれ。1963年、ヨーカ堂(現イトーヨーカ堂)入社。1971年、同取締役。1973年、ヨークセブン(現セブン-イレブンジャパン)の専務に就任し、コンビニエンスストア事業の創業を指揮する。2005年より現職。『売る力』(文春新書)など著書多数。


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