【中外時評】 タックスヘイブンの迷宮――『パナマ文書』で対策進むか

『パナマ文書』が国際的な税逃れ対策を迫っている。闇に包まれていたタックスヘイブン(租税回避地)の実態の一部が明らかになり、政治指導者等への批判も強まっている。各国の連携による対策が急がれるが、どこまで協調できるかは不透明だ。『国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)』が公表した文書には、パナマの法律事務所が過去40年に亘って設立したペーパー会社約21万社の役員・株主等に関する膨大な情報が記載されている。文書には、中国・ロシア・イギリス等の指導者の親族・関係者の名前も挙がっていた。不透明な投資に批判が強まり、アイスランドの首相やスペインの閣僚が相次いで辞任。文書を基に、スイスの検察当局が不正資金の捜査に乗り出す等、各国が対策に動いている。タックスヘイブンは、法人税や所得税がゼロか極めて低い国や地域だ。簡単に会社を作ることができ、匿名が固く守られる等の特徴がある。会社の設立自体は違法ではない。経済のグローバル化が進み、企業がペーパー会社を作り、国境を越えて税負担の軽減を図るのも一般的になっている。だが、匿名性を悪用して、過度の税逃れや脱税の隠れ蓑に使う場合もある。違法でなくても、富裕層や政治指導者の節税には“不公平”との批判が常にある。税逃れが横行すると、国に入る筈の税収が減ってしまう。そのツケは結局、行政サービスの低下等の形で、一般国民に回ってくるからだ。

税逃れだけではない。租税回避地は秘密の壁で守られた迷宮のようで、金融取引の実態が見え難い。課税当局も資金の流れの全容を掴むのは難しいのが実情で、麻薬密売等の犯罪資金を綺麗に見せかけるマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ組織の資金移動の温床にもなっている。巨額の投機マネーの活動の舞台にも使われる等、金融システムのリスクを見え難くしているとの指摘もある。各国の課税当局や国際機関も手を拱いていた訳ではない。1990年代から、世界的な批判の高まりを背景に、主要先進国を中心に不正の取り締まりに向けた情報交換の仕組み等が少しずつ整いつつある。




だが、実効ある取り締まりや実態解明で、各国が連携するのは容易ではない。状況は複雑だ。米英等の先進国は対策に前向きな姿勢を見せる一方で、租税回避地を国益・権益を守る手段として活用している。この為、先進国の権益を損なうような対策は、中々合意が得られないと言われる。先進国の国益を守る為に活動している情報機関の影が見え隠れする。実際、パナマ文書には『アメリカ中央情報局(CIA)』の関係者が顧客として浮上。ICIJと文書を分析した『南ドイツ新聞』は、1980年代の『イラン・コントラ事件』に関与した人物が秘密工作資金を動かす為に、会社を設立していた可能性を示唆したが、実態の解明には時間がかかりそうだ。文書が明らかにした会社設立先で最も多いイギリス領(約11万社)の場合も、メスを入れるのは簡単ではない。ロンドンの金融街であるシティーは、イギリス経済の生命線だ。世界の金融センターの地位を保つのに、租税回避地から流入する資金の取引等が大きく寄与していると見られている。その権益が制限されれば、国の盛衰をも左右しかねず、強い抵抗が予想される。

旧大蔵省主税局や旧金融監督庁等でタックスヘイブン対策に携わった故・志賀櫻氏は国際会議で、イギリスの財務省が露骨に回避地を擁護する場面に何度も遭遇した。理屈が通らないと批判しても、強硬に反論してきた。著書『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』(岩波新書)で、「あまりに強引な態度は国益がかかっているからだろう」と分析している。パナマ文書で高まった国際的な世論は、イギリスにも方向転換を迫っている。租税回避地の利用に関与したと認めたキャメロン首相への風当たりは強い。どこまで本気で取り組むかは疑問だが、国際会議等で税逃れ対策に積極的な姿勢も見せ始めている。これまでも、回避地の顧客リスト等が暴露される度に対策を求める声が高まったが、尻すぼみに終わってきた。過去最大規模と言われるパナマ文書の公開は、世界の指導者たちを動かせるのか。どこまで本腰を入れて取り組むか、注視していきたい。今月26日からの『主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)』でも、是非具体的で、効果のある対策を纏めてほしい。 (論説委員 玉利伸吾)


≡日本経済新聞 2016年5月22日付掲載≡

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テーマ : 税金
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