【宮崎哲弥の時々砲弾】 その後の仁義なきタックスウォーズ

経済ジャーナリズムや経済評論の世界には、碌な根拠も無いのに罷り通っている“神話”がある。例えば、一昔前ほどではないが、尚も世人の口の端に上ることのある“直間比率の是正”。“直間比率”とは、所得税・法人税・相続税等の直接税と、消費税や付加価値税等の間接税の比率のこと。その“是正”とは、「日本は直接税の割合が大き過ぎるので、もっと間接税を増やしてバランスを取るべし」という“課題”だ。今から見れば、全税目中、消費税の占める割合を上げることを正当化するだけの為に捏造された虚構である。繰り返すまでもなく、所得の再分配・資産格差の是正の為には、直接税の増税と累進性強化が必要不可欠であり、間接税へのシフトは経済的不平等解消の流れに逆行する。格差是正を主要政策に掲げる民進党が、消費税の税率引き上げをきっぱり否定しないのは何故か。どうして所得課税や資産課税の増強をしっかり謳わぬのか。未だに“直間比率の是正”という擬似問題に囚われているとしか思えない。

「消費税の税収は時々の景気変動に左右され難く、安定財源になる」というが、それは裏を返せば、好景気の時期にも税収が増えないという謂に他ならない。消費税・付加価値税は逆進的なので、それに依存する税制を採った国は、好景気で最も潤う富裕層から十分に税金を徴収することができない。そうした事態を緩和する為に軽減税率を導入しても、結局、低所得層だけでなく富裕層・中間層にまで不当な利得を与えてしまう。その分、税収が目減りする…。最近、誰もが軽減税率の欠陥を言い立てるようになったが、私は4年前から、このコラムを中心に各所で指摘している。他方、消費税や付加価値税に依存する税制の下では、不景気でも、たとえデフレに陥っても一定の税収が確保できる為、政府は景気浮揚やデフレ脱却に消極的になる。そればかりか、悪くするとタックスへイブンを放任することにも繋がる。直接税の公正な徴収の困難が前提となってしまうからだ。高税率の付加価値税が標準化したヨーロッパ諸国で、富裕層や多国籍企業によるタックスへイブンを利用した税逃れが横行している現実を見据えよ。EUが長年、スイスやルクセンブルク等による他国の相税収奪を事実上容認してきたのは何故か。間接税に頼る前に、先ず金持ちたちの逋脱の抜け穴を塞ぐべきだったのだ。




今月9日、トマ・ピケティやジェフリー・サックス、アンガス・ディートンを始めとする、世界の格差や貧困の打開に積極的に取り組んでいる経済学者355人が、タックスへイブンの撲滅を求めて公開書簡を発表した。『世界の指導者たちへ』という呼び掛けから始まる書簡の全文が東京新聞(今月11日朝刊)にのみ掲載されたので、一部を引用する。「タックスへイブンの存在は、世界全体の富や福祉の増進に何ら寄与せず、経済的な有益性もない。一部の富裕層や多国籍企業を利するだけで、不平等を拡大させている」「私たち経済学者の間には、個人や法人の所得に対する課税のあり方について、さまざまな見方がある。だが、現実は活動実態がないペーパー会社などが存在して世界経済をゆがめている。脱法行為の隠蔽や、富裕層や多国籍企業が別のルールで行う活動を許すと、経済成長を支える法の秩序も脅かされる恐れがある」「タックスへイブンを根絶するのは容易ではない。既得権益を守ろうとする抵抗勢力もある。だが、(18世紀の古典経済学者の)アダム・スミスは言った。『富を持つ者は収入の割合に応じてでなく、その割合以上に公共に貢献すべきだ』と。タックスへイブンはその言葉とまったく逆で、経済学的な正当性はない」。実に感動的な声明だが、 “経済右翼紙”朝日新聞は公開書簡の発表を単独の記事では報じず、無論、その全文も載せなかった。そして、相変わらず消費増税を強硬に主張している。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2016年5月26日号掲載




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