【変見自在】 狡い総一朗

あの時の『マルコポーロ』誌の発売日は、阪神淡路大震災と同じ日だった。問題の記事『ガス室はなかった』は、まぁ真面ではなかった。「ガス室に使われた青酸剤に疑問がある」という部分は兎も角、死の収容所は「ユダヤ人をソ連に集団移住させる途中の待機場所だった」と書いている。「ホロコーストは考えられていなかった」と。とは言え、怯えた子供の映像とか、7トンにも及ぶ髪の毛だとか。生き証人の体験談もある。骨1本出てこない南京大虐殺とは、かなり趣が違う。アウシュビッツ送りには、オランダ人もフランス人も協力した。アンネ・フランクも含めて、10万以上が確かに送り出された。それが単に強制移住の準備行為だったら、せこいオランダ人が対独戦時賠償を放棄する筈もない。ユダヤ人淘汰計画は確かにあった。

薄い読後感だったが、これにロサンゼルスの『サイモンウィーゼンタールセンター(SWC)』が秒速で反応した。発売日の翌日、駐米日本大使に「『原爆投下は無かった』というのに等しい暴論」と抗議した。東京のイスラエル大使館からの抗議よりも早かった。ピコ大通りのSWCには何度か行ったことがある。主張は“不寛容”だ。ユダヤ人をステレオタイプ化したデマが、あのホロコーストを生んだ。その手の論調をもう笑って見過ごさないという意味だ。発刊元の『文藝春秋』は「反論の誌面を提供します」と申し出たが、それがロスに届く前に、SWCはもう次の手を打っていた。大使への抗議の翌日付で、『三菱自動車』『マイクロソフト』等の大手スポンサーに同誌への広告を差し止めるよう厳命した。スポンサーは右に倣えし、文藝春秋は同誌の廃刊に追い込まれた。しかし、SWCは手を緩めなかった。同社の幹部をロスに呼びつけ、学習会が開かれた。文藝春秋側から同センターの維持協力費が支払われた。全面降伏だった。他のメディアも震えた。江川紹子が「広告を止めるのは民主主義のルールを踏み越えた」と反論したくらい。他は皆、沈黙した。『サンデープロジェクト』(テレビ朝日系)の田原総一朗は、この一大事に一言も触れなかった。関口宏は触れたけれど、TBSテレビの報道部長は怯えてコメントもしなかった。ホロコーストに疑問符を付けてきた本多勝一は掌を返した。「仰る通りです。文春が悪い」と。SWCは以降、『週刊ポスト』やテレ朝、更に、「バターン死の行進は風邪気味の私でも歩けました」と文藝春秋に書いた笹幸恵のルポにも文句をつけた。その都度、スポンサーの広告差し止めを仄めかせた。




バターン死の行進は、南京大虐殺・マニラ大虐殺と並ぶ“アメリカ製でっち上げシリーズ”の1つだ。ホロコースト問題とは背景も違う。そんな戦時デマまで文句を付けて歴史に定着させようとするSWCの意図がよく判らない。そこまでやられても、日本のメディアはただ沈黙し、テレ朝も『徳間書店』も文春も皆、深々と謝罪した。「私、偏向しています。それが何か?」と言うTBSキャスターの岸井成格。その傲岸に呆れたすぎやまこういちさんら有志が、岸井の番組スポンサーに「それでいいのですか?」と問う運動を起こした。そうしたら、TBSが声明を出した。不見識を詫びるのかと思ったら違った。「スポンサーに圧力とは、表現の自由への重大な挑戦」と、こちらも開き直った。偏り仲間の朝日新聞も社説で、数人の有志の発言を「これは見過ごせない言論の自由への圧力」と大鉈でぶった切っていた。更には、岸井に加えて、田原総一朗やら大谷昭宏やらが「私、怒っています」と揃い踏みまで披露した。こう言っては何だけれど、ここで怒って見せる人たちは、TBSも含めその昔、再三のスポンサー脅しがあった時、綺麗に口を噤んできた御仁ばかりだ。表現の自由を叫ぶのは、相手が弱そうな時に限るのかしらん。


高山正之(たかやま・まさゆき) ジャーナリスト・コラムニスト・元産経新聞記者・元帝京大学教授。1942年、東京都生まれ。東京都立大学法経学部法学科卒業後、産経新聞社に入社。警視庁クラブ・羽田クラブ詰・夕刊フジ記者を経て、産経新聞社会部次長(デスク)。1985~1987年までテヘラン支局長。1992~1996年までロサンゼルス支局長。産経新聞社を定年退職後、2001~2007年3月まで帝京大学教授を務める。『高山正之が米国・支那・韓国・朝日を斬る 日本人をますます元気にする本』(テーミス)・『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』(ワック)等著書多数。


キャプチャ  2016年6月2日号掲載

謝罪の王様 [ 阿部サダヲ ]
価格:4047円(税込、送料無料)




スポンサーサイト

テーマ : 報道・マスコミ
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR