【宮崎哲弥の時々砲弾】 リベラル再装填のために part.7

前回は、昨年度第4四半期の実質GDP(国内総生産)成長率の第1次速報値、及び昨年度の同成長率を踏まえて議論した。今回は名目GDP成長率を見てみよう。名目GDP成長率とは、実質成長率に物価変動率を加えたものを言う。ざっくり言えば、実質値が物量べースの成長率、名目値が金額べースの成長率だ。一般に、名目のほうが私たちの生活実感に近いとされている。昨年度は2.2%だった。決して悪い数字ではない。1996年以来、実に20年ぶりの高い水準だ。例えば、名目成長率目標を3%に設定した旧民主党政権時代の年度毎の“成績”は、2010年が1.4%、2011年がマイナス1.3%、2012年が0%だった。それに対し、アべノミクス時代は2013年が7%、2014年が1.5%、そして2.2%である。民進党は参議院選挙に向けて“アベノミクスの破綻”を喧伝していくつもりらしいが、政権担当時と然して変わらぬマクロ政策の欠落した経済政策を採り続ける限り、自ら掲げた数値目標に全く近付けなかった過去の失政と引き比べられるのがオチだろう。

因みに、実質GDPのほうも、リーマンショック後の極端な昇降が齎した“成長率マジック”の分を補正すれば、アベノミクス時代の圧勝。「アベノミクス時代よりも旧民主党政権下のほうが実質成長率平均は高かった」という民進党お得意の“自賛”は、単なる錯誤なのである。これについては、既に実質GDP実額を示して論証した。民進党への不安は、リベラル経済体制には欠かせぬ筈のマクロ政策を軽視する姿勢を根本的に改めていない点にある。いくら名目成長率3%という適切な目標を掲げても、そこに導く為の手段が欠けていれば空証文に過ぎない。「では、アベノミクスは成功したのか?」と反問されるならば、「所期の目的には未だ達していない」と答える。 第2次安倍普三政権の成長率目標も、旧民主党と同じく名目年率3%だった。先述の通り、昨年の数値は近年では最高だが、到達にはまだまだ遠い。内在的な原因は、何度も述べているように“第2の矢”の不発である。安倍政権は、2014年4月の消費税増税を含めて、財政政策にしくじったのだ。野党は単純に「アベノミクスの失敗だ」と非難するのではなく、“機動的な財政出動”の不履行をこそ突くべきだろう。そして、ワールドスタンダードのリベラル経済政策に準拠して“第3の矢”の、サプライサイドの構造改革の破棄を求める。代わりに、所得や資産への課税強化を含む広範な格差是正措置・再分配策を、リベラル版“第3の矢”として主張するのだ。




政権サイドも“第2の矢”不発という自らの蹉跌に気付き、政策の軸を財政出動へとシフトさせている。『伊勢志摩サミット』で安倍首相が“国際協調による財政出動”の緊要性を訴えた背景には、自国の事情がある。しかしながら、世界経済を概観しても、主要各国が協調して積極財政を敷くことには理がある。ローレンス・サマーズを始め、名立たる経済学者たちがグローバルな“長期停滞”の危険性を指摘しているし、そこから抜け出す為には財政出動が不可欠という点でもほぼ一致している。G7でこれに強く異を唱えたのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とヴォルフガング・ショイブレ財務大臣だ。ドイツの経済政策の“特異性”は、アメリカ、イギリス、フランスの経済学者や経済ジャーナリストから注視されている。悪くすると「ドイツにはマクロ政策というものが存在しない」とか、「ドイツの経済学者とエコノミストは、ケインズを読んだことがないか、ケインズを理解していない人間ばかりだ」等と嘲られる始末だ。どっかの国の野党第一党そっくりだな(笑)。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2016年6月9日号掲載




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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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