【働きかたNext】第10部・世界が問う(01) スウェーデンの挑戦――“1日8時間”常識じゃない

20160613 01
“1日8時間”は本当に最適な労働時間なのか。働き方の常識を問い直す取り組みがスウェーデンで広がっている。「じゃ、後は頼むよ」。『トヨタ自動車』系の販売会社『トヨタセンターイエーテボリ』(右写真)で働くマグヌス・ビクストラーム(40)は正午になると、出勤してきた社員と交代した。「午後は運動で汗を流すか」。ここのエンジニアは午前・午後の2交代制。皆、1日6時間だけ働く。8時間勤務の時は大変だった。車の修理で従業員たちは疲れ、納車は最大1ヵ月待ち。顧客の不満も募った。そこで労使で話し合い、営業時間を延ばす一方、1人当たりの労働時間を6時間に減らした。給料は減らさず、人員を2割増やしたのだ。改革の成果は直ぐ出た。「6時間なら集中力が続く」と現場が活気づき、納期は最短で4分の1に短縮。顧客の評判も高まり、人件費が増えても売上高と利益は5割超増えた。「働き方の“カイゼン”の結果だ」。経営者のマルティン・バンク(48)は胸を張る。「トヨタに学べ」――。同国では、一部のベンチャーも6時間勤務を導入。イエーテボリ市も昨年、介護施設に6時間勤務を入れた。同国で広がる6時間勤務には、世界中から視察や問い合わせが相次ぐ。8時間労働が定着したのは20世紀初めだ。大量生産による長時間勤務で健康を損なうと、1919年に『国際労働機関(ILO)』が1日8時間・週48時間を労働基準に定めた。

それから1世紀。「単純作業から付加価値の創造。女性の参加等、働く環境は一変した」(『日本総合研究所』調査部長の山田久)。硬直的な労働時間に縛られず、如何に成果を上げるか。日本でも模索が広がる。段ボールを使った造形加工の『アキ工作社』(大分県国東市)は2013年、週休3日制を導入した。その分、残り4日は1日10時間働く。効率的な働き方を徹底し、「会議が皆で悩む場から結論を出す場に変わった」(森山長英)。総労働時間は2割減り、業績も右肩上がり。メリハリをつけた働き方に賛同者も広がる。『味の素』は来年度に労働時間を20分短くし、7時間15分にする。基本給は据え置き。実質的な賃上げだが、真の狙いは違う。外国人や女性等が活躍できるよう働き方改革を促す為だ。「時間当たり生産性を高めないと世界で勝てない」。社長の西井孝明(56)は話す。長時間労働が蔓延る日本。『リクルートワークス研究所』の石原直子が日本企業約600社を調べると、「長時間労働と業績に何の相関も無かった」。寧ろ、残業職場では士気低下が目立つという。業種や世代により様々、最適の労働時間に正解は無い。ただ、多様な働き手が増える中、働き易さと成果を両立させる解を導かなければ立ちゆかなくなる。世界で真っ先に人口減が進む日本の宿命だ。 《敬称略》




効率的な働き方を追求するスウェーデン。1日6時間勤務で生産性は上がるのだろうか? 現地で働く人たちの実態を追った。

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ストックホルム在住のトミー・オッティンゲルさん(39・左写真右)は昨年夏、ITベンチャーの『ブラス』に転職した。2013年の創業以来、20人超の社員全員が1日6時間労働。最初は半信半疑だったが、聞いてみると、実際、勤務は午前9時から午後4時まで。昼休みを除いて6時間だった。業務はウェブ広告へのアクセスや購買行動の分析、新しい広告の戦略立案等、前の会社と同じ。だが、働き方は全く変わった。スウェーデンには“フィーカ”と呼ばれるお茶の時間がある。以前の会社では仕事中、コーヒーと菓子パンを楽しみながら20分ほど同僚とお喋りしていたが、ブラスでは無い。同僚とのコミュニケーションはランチの時間に取り、勤務中は業務に集中するという。インターネットショッピングが盛んになるクリスマス前等、繁忙期には当然ながら残業もある。尤も、3時間残業しても帰宅は午後7時だ。「仕事がある時に残業するのは構わないが、この会社に来て、毎日8時間をベースにする必要があるのか疑問になった」。オッティンゲルさんの家族は、妻と長女(9)・次女(5)の4人。妻はコンサルティング会社のマネジャーとしてフルタイムの8時間勤務で、「夜や休日もメールに追われてストレスに晒されている」。転職してからはそんな妻を支え、子供たちにも余裕を持って接することができるようになったという。最近は、学生時代以来遠ざかっていた美術学校にも通い始めた。勤務時間が減れば収入も減りそうだが、実際には転職前を上回るという。会社の昨年8月期の売上高は1636万クローナ(約2億円)と、2期前の4倍以上。「自分自身、集中力が高まり、以前の会社の時より成果を上げられていると感じている」。スウェーデンでは数年単位の転職が珍しくなく、オファーを受けることもあるが、今のところ移るつもりは無い。最高経営責任者(CEO)のマリア・ブラスさん(38)は、「我々のように、パソコンの前で創造性を発揮するような仕事では、6時間を超える労働時間は却って効率が悪くなる。今がいい状態なんです」と微笑む。

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今度は、南部に位置する第2の都市、イエーテボリを訪ねた。トヨタ車の販売やメンテナンスを行うトヨタセンターイエーテボリでは、技術者たちが午前6時~正午・正午~午後6時の2交代制で働く。午前のチームと午後のチームは1週間毎に入れ替わる。自動車修理やメンテナンスは、集中力を要する重労働だ。6時間労働の導入前は“作業”“小休憩”“作業”“フィーカ”“作業”…と業務時間が頻繁に寸断されていたが、現在の休憩時間は午前と午後に1回ずつだけ。「集中するには6時間が丁度いい」とジェニー・フェネマンさん(27・右写真)。午前か午後の半日を自由に使えるのも魅力だ。「どこへ行っても空いているのがいい」と笑う。通勤時間が短くなるという副次的効果もあった。マグヌス・マッツォンさん(46)は「以前は渋滞で1~2時間かかった通勤が30分で済むようになった」と喜ぶ。市が運営する介護施設で6時間労働の実験を始めたイエーテボリ市のダニエル・ベルンマル副市長(33・下段左写真)は、「技術が進歩して労働が高度化したのに、労働時間はこの何十年も変わらないままだ」と指摘する。職員を増やすのに約800万クローナかかったが、今のところ、入居者の満足度向上や職員の病欠が減る等の効果が見られたという。市の実験は今年末まで。ベルンマル副市長は、「社会全体が考えるきっかけにしたい」と話してくれた。 (木寺もも子)

               ◇

20160613 04
ITの発達で仕事は便利になったのか、大変になったのか。「最近は自宅で仕事をすることも多いわ」。オランダのユトレヒト州で投資誘致を担当するアナ・エルフェリンクさん(40)が話す。同国では、働く時間や場所に捉われないフレックス勤務を推進。勤務時間も自己申告だ。夜に海外とメールすることも多く、「実際には契約時間より長く働くが、子育てには都合が良い」。ITの発達で、業務時間の線引きは曖昧になりつつある。『ギャラップ』の調べでは、アメリカの労働者の36%は業務時間外も仕事のメールを「頻繁に見る」と答えた。約8割が便利だと受け止めているが、弊害もある。「絶え間ない仕事のメールは高いストレス」。イギリスのシンクタンクである『フューチャーワークセンター』は、こんな報告書を発表した。フランスでは2014年、時間外や休日の業務メールや電話は対応の義務が無いことを労使が確認。法制化も検討中だ。介護情報サービスの『エスエムエス』は、午後7時半に社員を強制退社させ、仕事の持ち帰りやメールも禁じている。「所定の時間に顔を合わせて仕事をすることが大事」(人材開発本部の森洋一郎部長・33)。終業後は其々、創造性を磨く時間に使うよう勧めている。機械を仕事の効率化に使い熟す工夫が大切だ。

               ◇

世界に学ぶ点はないか。最終第10部は海外の動きをヒントに、日本の働き方や制度を問い直す。


≡日本経済新聞 2016年3月20日付掲載≡




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テーマ : 働き方
ジャンル : 就職・お仕事

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