【私のルールブック】(56) 人に何かを伝えるには想いだけでなく工夫が必要

私は基本、メディアに露出する側の立場だが、30代から映画監督だったり舞台演出だったり、裏方にも就かせて頂いている。使われる側から使う側へ。“使う側”と言うと聞こえはいいが、気分よく役者さんに、スタッフさんたちに仕事をして頂く作業は容易ではない。若い頃は、自分の想いを押し通すことしか考えていなかった。「俺はこうして撮りたいんだ。何でわかってくれないんだ!」と…。いやいやいや、「何でわかってくれないんだ」じゃないんですよ。理解して頂く努力を怠っては、相手さんだって理解のしようがないんだから。そんな当たり前のことに気付くのに、どれだけ失敗を重ねただろうか…。

17歳の頃、『魔の刻』(東映)という映画に出演させて頂いた。母子相姦を題材にした、当時としてはかなりショッキングな内容であった。主演は岩下志麻さんで、私はその息子役。母子相姦の相手である。そして、監督は高倉健さんの作品を数多く手掛けた降旗康男さん、カメラマンは“名手”木村大作さんである。どこを見渡しても超一流揃い。そんな中に、生意気盛りの私が放り込まれた格好だ。先ず、私の鼻っ柱をへし折ったのは大作さんだった。兎に角、声がデカいんですよ。で、ず~っと怒鳴っている。撮影部の長ですから、助手たちに指示を出すのは当たり前なんですが、照明部にも録音部にも、美術にまで口を出す。勿論、役者にも…。こんなことがありました。私が魚の臓物が溜まったゴミ箱を被るシーンでのこと。小道具さんたちはバケツにコーラを入れ、パンを千切って臓物風にデコレーション。すると、それを見た大作さんが「こんなんじゃ、客にバレんに決まってんだろ。弁当の残り持って来い!」と怒鳴ります。で、昼のロケ弁の食い滓を次々に放り込む。私はボ~ッとその光景を見ながら、「クランクアップしたら、先ずこのオヤジを殺してやろう」と心に誓いました。こんなこともありました。私と志麻さんの2ショットカットを撮る際、カメラは100mほど遠く離れた場所から狙っていました。当然、私はルーズなサイズと思い、ちょっと気を抜いていたんです。すると大作さんが、「忍! てめぇこの野郎! バストショット撮ってんだよ。気ぃ抜いてんじゃねぇぞ、この野郎!」と…。




コレに関しては完全に私の落ち度なんですが、兎に角怒鳴る。というか、大作さんが監督のような現場だったんです。降旗監督といえば、たま~に近寄って来て、「ここはこうしようか」と耳元でボソッと…。正直、私は降旗監督に苛立ってました。「もっとしっかりしてくれよ」と、「どっちが監督なんだよ」と…。でもね、無事にクランクアップし、完成品を試写で観させて頂いて、ド肝を抜かれたんです。だって、そこには降旗監督の世界が詰まっていたから…。現場では、たま~にボソッと話すおじさんにしか映らなかった。けど、そこに行き着くまでにスタッフの方々に伝える作業を済ませておけば、現場は大作さんが仕切っていたほうが緊張感も生まれるし、回りもいい。真意を確かめた訳ではありませんが、私はそう感じました。そして、伝え方にも色々あるんだと、気持ちよく動いて頂くには、想いだけではダメなんだと…。わかっているんです。わかっちゃいるけど、難しいのよね~。


坂上忍(さかがみ・しのぶ) 俳優・タレント。1967年、東京都生まれ。テレビ出演多数。子役養成に舞台の脚本・演出等、多方面で活躍中。


キャプチャ  2016年6月23日号掲載

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