【2015年の10大問題】(10) 人口7000万人が防衛ライン…“里山”と“若者”が日本を救う

日本の人口問題の本質を見誤らせているもの。それはズバリ“少子高齢化”という言葉の一人歩きです。子どもの絶対数が減少する“少子化”と、老人の絶対数が激増する“高齢化”は全く別の事象で対策も別次元です。ところが“少子高齢化”と言葉を一緒くたにしてしまうせいで、「子どもを増やせば高齢化は解決する」といった誤解がはびこってしまう。子どもの数が増えても、老人の数は減りません。いわゆる“高齢化率”は下がるのですが、年金所要額も介護需要も、率ではなく高齢者の数に連動するのです。

総人口を議論するのではなく、“子どもの人口”“生産年齢人口”“老年人口”を分けて考えなければなりません。そして日本では、“子どもの人口”が40年前から、15歳から64歳までの“生産年齢人口”が20年前から減少しています。子どもが減り続けたため15歳を超える人も減り、他方で戦争前後に生れた数の多い世代が65歳を超えていくので、その複合作用で生産年齢人口が減る。人手不足が進みますが、消費や納税や年金払い込みが減る影響の方が深刻です。同じ現象を反対側からみれば、生産年齢人口だった人たちがどんどん老年人口になっているわけです。老年人口は今後30年間で3割増、85歳以上に限ると2.7倍増と予測されています。ただし、人が年をとっていくことに歯止めをかけることは、魔法でもかけない限りできません。焦点は、どうしたら子どもの減少を食い止められるか、どこで下げ止まらせるか、ということになります。




日本の総人口がどこまで減るのかも、今後の子どもの数にかかっています。現在、年間100万人の子どもが生まれています。しかし、国の予測(中位推計)では50年後に年間50万人を切るとされています。年間100万人に平均寿命80歳を掛ければ8000万人。つまり現状の出生数を維持できても総人口1億人は維持できません。私は、今後7000万人が維持できれば大成功だと思っています。年間80万人の出生数で下げ止まったとして、平均寿命が80年。掛け合わせて6400万人+αで7000万人という数字です。これが“防衛ライン”でしょう。生産年齢人口を維持するために「労働移民を受け入れよ」という声があります。しかし、これは現実味のない話です。現在200万人しかいない国内の外国人を一体どれだけ増やせば、数千万人単位で生じる人口減少を補えるというのでしょう。そして、外国人はどこからくるのでしょうか。中国でも昨年から生産年齢人口減少が始まり、人手不足は深刻です。加えて、移民の出生率は移民先の水準と同化する傾向があります。典型がシンガポールで、住民の3割が外国人ですが、出生率は日本より低いのです。アメリカのように民族が分かれて住めば別ですが、それでは社会が分断されてしまいます。

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少子化対策を論じる前に、高齢化について先に論じておきましょう。高齢化問題。ハッキリ言って、いずれは時間が解決します。現在、団塊ジュニア世代が40歳くらいです。この層の年齢が平均寿命を超える50年後には、高齢者の数は急減し、年齢階層ごとの数に大差がなくなります。とはいえ、それまでの間をどうしのぐかは、いまの中年以上にとって、自分自身の課題です。「そんなに長生きしたくない」と仰る方は多いのですが、85歳以上の人は2010年の380万人から、2040年には1040万人と2.7倍に膨らみます。病院のベッド数然り、医療費然り、介護の担い手然り、医療や介護のシステムが限界を超えることは明らかです。ですから、高齢化対策とは“長寿の人にいかに元気で過ごしていただくか”なのです。平均寿命が日本一で1人あたりの老人医療費が日本最低水準の長野県がモデルです。まず、予防医療の推進。食生活や飲酒・喫煙の習慣の改善指導を、当たり前にしなければなりません。しかし、どうしても一定割合の人は体が不自由になり、介護の必要が生まれます。幾ら仲が良くても夫婦のどちらかが残されるので、“孤立死”を防ぐための“終の棲家”の確保も必要です。さらには死を迎える場所の問題。現状のベッド数では、今後の高齢者の多くは病院では死ねません。それぞれ別個の問題ですが、オールインワンで解決する方法は、定期的に往診が来るグループホームを増やすことです。農山村ではお互いの生活状況が見えやすく、高齢者が自宅で人生を全うできるシステムが出来あがっていますが、都市部では住まい方の変革が不可欠です。

ではもう一方の大問題、少子化にどう対処すべきかに話を移しましょう。繰り返しになりますが、少子化とは子どもの絶対数の減少であり、“出生率”の低下はその原因の片方にすぎません。毎年生まれる子どもの数は、“出産適齢期の女性の数(親の数)×出生率”で決まります。そして今の赤ん坊は今の40歳の半分しかいないため、親の数は今後数十年にわたって年々減っていきます。1人の女性が一生に産む子どもの平均数(合計特殊出生率)が上がったとしても、もう1つの変数である“親の数”は減り止まらないのですから、生まれる子供の数はなかなか下げ止まらないのです。そこで対策として考えられるのが、出生率が低い場所から高い場所へ、若年層の移動を促進することです。出生率の高いところとは東京のような都会ではありません。東京都は出生率が1.13と全都道府県で最低です。長時間労働と遠距離通勤が当然でありながら、子育て支援は不足。それで出産で仕事を辞め、専業主婦となる女性が多いのです(20代・30代の女性の就業率は東京都が全国最低)。仕事を辞めると収入が減りますから、家族をもう1人とは考えにくくなり、出生率は自然と低くなります。一方で地方ならば給与水準が低くても生活費も安く、子育て支援も充実している。子どもが2~3人いても共働きで暮らしていける。ですから『日本創成会議』の増田寛也さんたちは若者の地方都市への移住促進を提言しているのです。

しかし、移住先は地方“都市”であるべきなのでしょうか。多くの地方都市の出生率は東京より少しはマシな程度で、本当に出生率が高い場所は農山村であり、離島なのです。子育てを重視する若い夫婦が、今静かに流れ込んでいるのも、地方都市ではなく、そのもっと奥の“田舎”です。この流れを強めることが、本当の意味で日本の再生につながります。高度成長期に急減した日本の野生トキの一群が、無農薬の田んぼを求めて中国の雲南省に飛来し、そこで増えたという説があります。その子孫をもらい受けた佐渡では、減農薬・減肥料の田んぼを増やし、トキの住む環境を再生させました。今、野生と飼育下合わせて354羽。急にトキの生命力や子育て意欲が戻ったわけではない。環境がカギだったのです。私は講演活動で全国各地の市町村を回り歩いていますが、震災以降、田舎に移住して農業をしている若者たちが増えています。生きにくい東京を脱し、安心して家庭生活を営める環境を求めた彼らに、私はトキと同じものを感じています。

大人2人に子ども1人しか生まれない東京に若者が集中するシステムを作った結果、日本の人口はこれから急減を免れません。そろそろ考え直す時期です。実は先進国で、都会に人口が集中し続けているのは日本と韓国の2つしかないと言われています。フランスもドイツもイギリスも、都市から田舎へと人が流れ出している。アメリカは建国当初から都市には人口が集中していません。ドイツの場合、ベルリンは名古屋より少し小さいくらいの都市圏で、フランクフルトやミュンヘンになれば、広島都市圏程度の大きさです。しかもその周囲の農村に人が散らばっている。しかし経済は停滞などしていません。国の借金はどんどん減っているし、1人当たりGDPは日本よりずっと高い。農村もそれぞれ自立しているのです。ドイツの農村の多くは観光地でもなければ、目立った工場もない。ですが陽熱や風力、家畜の糞尿から出るバイオガスを活用してエネルギーを自給し、余った電力を売っています。建物の断熱改修や集落給湯システムの整備を進め、エネルギー自給率が100%を超えている村、さらには800%という村まであるほどです。ロシア産のガスへの依存を減らしつつ、原発ゼロも目指しています。東京はどうでしょうか。上水道の多くを群馬県の利根川上流に依存し、食料自給率は1%、エネルギーなど全然自給のしようがありません。しかも大型地震のリスクが高いうえに人口の過密は解消されないまま。若者の就ける仕事の多くは長時間ないし低賃金で、労力に見合ったものが得られません。私には2人の息子がいますが、人間が企業に“消費”されている東京のような場所では、できれば人生を送ってほしくないと思っています。

いま、人口が転入超過になっている過疎地が着実に増えてきています。NHK広島取材班との共著『里山資本主義』でも紹介した島根県の邑南町も2013年、転入超過になりました。山奥の棚田がある集落で、30代の男女が増えています。棚田米の直販に成功した農事組合法人に雇用されるなどして、都会から若い夫婦が移住しているのです。日本の田舎には使い方次第で現代人の生活を支えることもできる資源が、豊富に残されています。たとえば耕作放棄地であり、空き家であり、燃料にできる雑木です。完全な自給自足は困難ですし目指す必要もありませんが、何か小商いやアルバイトをして最低限の現金収入を得ながら、都会の半分以下の生活費で楽して暮らすことはできる。都会でフリーターをしているくらいなら、家賃の安い田舎でバイト生活をする方がマシです。「地方が消滅する」と煽る向きがありますが、先入観に縛られて「子どもの生まれにくい都会こそ消滅の危機にある」という現実を直視できていないのではないでしょうか。これから高齢者が急増するのも都会です。田舎ではなく都会こそが日本の金食い虫になっていくのです。むしろ田舎へ移住する若者を増やすことで少子化が改善され、農業従事者が増えて食料自給率が上がり、自然エネルギー自給率も上げることができます。日本に本当の意味での国際競争力がつくことにもなる。絵空事ではありません。都会人の気付いていないところで、確実に地殻変動が始まっています。この希望ある動きを支援するところから、日本再生は始まるのではないでしょうか。 =おわり


藻谷浩介(もたに・こうすけ) 株式会社日本総合研究所調査部主席研究員。1964年生まれ。東京大学法学部卒。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)・米国コロンビア大学ビジネススクール留学等を経て現職。地域振興についての研究調査・講演を全国各地で行う。著書に『デフレの正体 経済は“人口の波”で動く』『里山資本主義 日本の経済は“安心の原理”で動く』(ともに角川oneテーマ21)など。


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