【働きかたNext】第10部・世界が問う(03) 日本、脱・横並び就活の芽――キャリア、自ら築く

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「勉強は大変かもしれないが、実践的な力を身に付けたい」――。渋谷教育学園渋谷中学高等学校(東京都渋谷区)高校2年生の山木椋太(17)が目指すのは海外大学だ。同校は、海外大学を希望する生徒へのサポート体制を充実。年に10人程度が海外大学に進む。ハーバード大学等、名門も多い。副校長の高際伊都子(49)は、「日本的な“企業人”を目指すより、勉強やインターンに必死に取り組み、力を付けようとする生徒が多い」と話す。毎年決まった時期に新卒学生を一括採用する日本。一方、欧米では横並びの就活制度は無い。職選びは個人に委ねられ、キャリアは自分の力次第。その分、学生は知識と経験を得ようと必死に学ぶ。就職したら仕事の内容も働き方も会社にお任せ――。そんな日本的な仕組みに、優秀な学生ほどソッポを向く。「日本は最も遅い」。『リクルートワークス研究所』の豊田義博(56)は、大学卒業後の進路を決める時期を調べて驚いた。中学生から大学2年生までに決める人は、アメリカは6割弱でアジア各国も2~6割。日本は16%だった。大半は、就活時期の大学3~4年生に慌てて決める。「日本は職業を見据えて学ぶ人が少ない。海外で懸命に勉強した人に負ける」。経済の不安定さが増し、企業が生涯守ってくれない時代。大事なのは横並びの就活に流されず、歩むキャリアや働き方を見極め自ら掴むことだ。

「アイデアと意欲さえあれば、若い人でも提案が通るんだ」。京都大学3年生の秋、田岡凌(24)は『ネスレ日本』のインターンに参加し、実感を得た。他の企業も受けた上でネスレを選び、内定後も自ら海外でスキルを身に付けた。今は、ロボット『ペッパー』を使った販促プロジェクトの担当者だ。ネスレ日本は2013年卒から一括採用を止め、年3回の通年採用に変えた。大学1年生から参加できる課題解決型のインターンを実施し、合格者だけが採用試験に進む。田岡も新制度で入社した。「受け身でなく、物言う学生が増えた」。採用責任者の金成和喜(60)は手応えを感じている。大学も動く。京都産業大学は『ファーストリテイリング』や『堀場製作所』等と組み、学生を派遣する有給インターン制度を始めた。就業意識を育む講座とセットで単位も与える日本初の試みだ。仕掛け人は、『ベネッセホールディングス』出身である同大経営学部教授の東田晋三(63)。「日本の学生に職業意識を高めてもらいたい」。アメリカで学んだインターンのノウハウを基に、日本流の実践的な職業教育を目指す。『ユニクロ』で働いた田村玖美(21)は、「店舗運営を通じ、経営の視点を学べた」。4月から学生を受け入れる『京都信用金庫』人事部の田中聡(44)は、「会社を知ってもらった上でいい人材を採りたい」と期待する。大学新卒で就職する人は年約40万人。対して、転職者や復職する人は年400万人に上る。転職も当たり前の時代。歩むレールはひとつではない。優秀な人材を求める企業、自らのキャリアを見極める若者。一括採用に捉われず、常日頃から自らの魅力を磨き合う。その緊張感が日本の職場を強くする。 《敬称略》




日本のような横並びの就職活動がないアメリカ。決められたルートは無く、就職は実力次第。その分、将来を見据えて自主的にキャリアを築こうとする人も多い。アメリカの大学で学び、就職を考えた人に、日本の就活や企業文化はどう見えるのか。留学生らに聞いた。

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「日本の会社に就職すると、行きたいタイミングでは海外に出られない」――。昨年8月、ハーバード大学院に進学した矢野奈々子さん(26)。大学時代、日本の金融機関でインターンも経験したが、「転職が当たり前、実力社会のアメリカで働きたい」とアメリカで就職した。日本の高校を卒業後、奨学金を得てカリフォルニア州の大学に進学した。高校卒業時点で文系・理系の専攻を決め切れず、柔軟に学べるアメリカの大学を選んだ。卒業後はアメリカ国内のコンサルティング会社や非政府組織(NGO)に所属し、アフリカに勤務した。「専門知識を身に付け、途上国で保健の仕事に携わりたい」。ハーバードでは国際公共政策と経営学の2つの大学院に所属し、3年間かけて学ぶ予定だ。新人研修のような制度が無く、即戦力が求められるアメリカ。新卒の学生が応募できるポストでも、“職務経歴1年以上”といった条件があることは珍しくない。社会で通用する経験を積む為、インターンシップやボランティアに参加する学生は多い。日本の大学を卒業後、ニュージャージー州の大学院を修了した十朱胤豪さん(26)。就職イベント『ボストンキャリアフォーラム』でオファーを得て、今年から大手会計事務所で日系企業等の監査を担当する。十朱さんも入学直後から就職を見据え、職務経験を積む為にインターンとして働いた。勤務先はテレビ局やIT(情報技術)系企業の会計部門等。1年以上かけて3社で勤務した。「インターンから本採用に繋がる可能性があったので、そのルートも狙っていた」。職務経歴と同様に重視される学業の平均評定は、4点満点で3.6にまで高めた。日本の大学に通っていた時は「正直言って遊んでいた」と笑う。カナダで働く親戚の話を聞き、「オン・オフがはっきりしている働き方がいい。絶対、アメリカに残りたい」と決めていた。「アメリカでは準備に時間がかかるが、就職時期を自分に合わせられるのがいい」。将来は独立して税務関連の仕事に就くことも考えるという。就職サイト等で情報を収集し、エントリーシートを提出し、面接を受ける――。日本の学生の就職までのルートは、これが定番だ。一方、アメリカでは就職に至るルートも人其々。就活中の学生は社会人とのコネクション作り、“ネットワーキング”に奔走する。

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ニューヨーク近郊の大学に通う日本人女性は、「アメリカの学生は、社会人とのネットワーキングに命をかけている」と話す。社会人と交流するのは企業主催の学生向けパーティーや、ビジネスの現場から講師を招く大学の授業等。知り合った人には後日、履歴書を添削してもらったり、志望企業の社員を紹介してもらったりできるチャンスがある為、多くの学生がネットワーク作りに励む。就職したい人が多く、出身も経歴もバラバラ。人事担当者の目を引く経歴が無い場合、「紹介者がいないと履歴書も真面に読んでもらえない」という。日本企業に5年勤めた後、大学院に留学し、人材・組織開発のコンサルタントを目指す加藤順平さん(29)も、ネットワーキングに力を入れる一人。「折角のチャンス、アメリカで就職したい。勉強7・就活3ぐらいの割合で時間を使っている」。就活の努力をしても、アメリカで働く為には就労ビザが必要だ。インターンシッププログラムを提供する『ステージグローバル』のアンドリース・ボナール最高経営責任者(CEO)は、「海外での就労経験を積む為、“交流訪問者ビザ”でプログラムに参加する人は多い。だが、就職するとなると別のビザが必要で難しい」と話す。多くの留学生も、「ビザの問題が一番大きい」と口を揃えた。入社時期が決まっている日本の就活の仕組みに悩まされる人も少なくない。「数ヵ月間、死に物狂いだった」。『日本オラクル』で昨年春から働く荻野耕太朗さん(24)。カリフォルニア州の大学を卒業し、現地で就職するつもりだったが、家庭の事情で突如、日本に戻ることになった。帰国したのは1月。4月に働き始められる会社を懸命に探した。日本で1月というと、多くの4年生が就活を終えた時期。新卒向けの採用サイトは殆ど閉じられていた。中途向けのサイトに履歴書を載せ、オファーを待った。「日本では(新卒で)就職できる時期が決まっている。その時期に引っかかるのが難しかった」。多くの日本企業の場合、新卒社員が入社するのは4月の1回だけ。新卒以外での採用が少なく、就活に合わせて帰国する人もいる。『パソナ米国』の古代賢司社長は、「海外企業の多くは通年採用で動いている。4月入社に拘ると海外の学生は採り難いし、日本から留学した学生にもプラスにならない」と訴える。一方、荻野さんの場合、日本流の就職に助けられた面もあった。大学では情報工学専攻で、アメリカのベンチャーで働いた時はエンジニアだったが、現在はシステム導入のコンサルタントとして働く。新卒社員と同様に、スキルやマナーの研修を受けられたからだ。「アメリカでは、基礎となる技術が無いと入社すらできない。日本は未経験でも学べる点がいい」と語る。「日本の就職もアメリカの就職もどっちもどっち。いいとこ取りができたらいい」。自分は何を求めるか。学生もよく見極めることが大切だ。 (諸富聡・松本史)

               ◇

少子高齢化が加速する日本。10年後・20年後、どんな働き方に変わっているだろう。今から改革に取り組み、どんな社会を目指していくべきか。経営者・識者・外国人。様々な声に耳を傾け、動き出そう。そう、今からでも遅くはない。

■“頑張る”より結果で語れ  『サントリーホールディングス』社長・新浪剛史氏
これからの日本人の働き方は、ただ「頑張ろう」だけではダメだ。企業としては生産性を上げていかねばならない。私は敢えて、社員に「頑張るな」と言っている。朝早くから「只管に頑張りぬく」という発想は古い。働いた時間と関係なく結果を出すことが大事だ。これからの日本は、“ミッションコンプリート型”の働き方が重要になる。労働力人口が減るなら、女性や外国人にも活躍してもらわなければならない。当社は1月末の全社会議で“健康経営”の実現を掲げ、副社長を責任者に据えた。“働き方革新”を本格的に進める宣言だ。社員の年間平均労働時間を今の約2000時間から1800時間に減らすのが目標で、先ずは1900時間を目指す。しっかり休み、残る時間できっちり結果を出す。発想を変えねば実現できない。働き方革新をどう進めるか。全社会議では実際に、開発部門から提案があった。人工知能(AI)と情報端末を駆使して、店舗毎の在庫管理や取引先への営業支援を行い、営業担当者の働き方を大幅に効率化する試みだ。どう変えてもいい。改革も先ずは“やってみなはれ”の精神だ。長年続いた働き方を変えるのは難しい。どうしても慣性の法則が働く。一気に進めると、必ず揺り戻しが来るものだ。働き方革新は着実に進めることが大事。そして何より、トップが覚悟して言い続けなければならない。グローバルな視点も大事だ。買収した『ビーム』と融合を進めているが、ウイスキーの造り方や品質についての考え方が違った。全く違う因子をぶつけることが大事。互いに大いに刺激を受けている。彼らは其々の仕事の使命も明確で、達成に向けて邁進する。チームワークは勿論大事だが、日本ももっと1人ひとりのミッションを明確にする必要がある。ビームは女性幹部も多い。サントリーも2025年には、管理職の2割以上を女性にしたい。安倍晋三政権は同一労働同一賃金の実現を掲げる。非正規社員と正社員で明確に同じ仕事なら同じ賃金にすべきだが、経験や責任等でも異なる。正社員の仕事内容が明確に決まっていない問題もある。大事なのは、非正規を中心に全体の賃金を引き上げていくこと。正社員も一定の年数が過ぎたら能力に応じて仕事を決め、その対価を払うようにすべきだろう。同じスキルの人に同じ賃金を払うようになれば、人材流動化も進む。労働市場ができてくれば、社員はスキルや知見を磨く。企業も優秀な人材を繋ぎ留める為、魅力的な仕事や職場を提供するように必死になる筈だ。パートで働きたい人は沢山いる。社会保険料の負担が増す為、年収130万円を超えないように働く“130万円の壁”等、制度上の課題は未だある。制度を変えたり、働く女性への支援を行い、働く意欲を引き出す仕組みに見直していく必要がある。

■女性活用の矛盾なくせ  『ポピンズ』CEO・中村紀子氏
日本の専業主婦には、働く上で2つの壁がある。年収103万円以下なら税金が軽くなる配偶者控除と、同130万円以下なら社会保険料の負担が免除される措置だ。専業主婦700万人のうち、壁の為に働くことを抑えるパート等は3分の1いる。厳しいかもしれないが、壁を見直し、税金の払い手に代わるべきだ。社会保障制度が揺らぐ中で、次の世代に頼ってはいけない。政府は女性を労働市場に呼び込もうとしているが、政策は矛盾している。待機児童が相当いるのに、保育の担い手は有資格者の保育士に限ってきた。当社は新しい保育所を開く為に、経理やシステムの担当者に資格を取ってもらった。4月に一部緩和されるが、更に子育て経験者らが活躍できる仕組みが必要だ。今こそ政府の出番だ。子育て世代が1時間以上かけて通勤し、ヘトヘトになって帰宅する。子育てし易いよう、政府が都心の空き家を借りて安く提供してはどうか。外国人による家事手伝いの規制緩和も、特区の神奈川県と大阪府に限られる。自治体やサービスの範囲を広げるべきだ。働き方の多様性も重要。講師として女子大生にも話しているが、女性こそ起業家になるべきだ。事業の種を生活の中から探すのが上手だし、子育て中でも時間管理し易い。女性は夫の転勤や出産等、男性よりライフイベントが多い。当社には3度辞めて復帰した役員もいる。企業は、女性1人ひとりの事情に応じたきめ細かな対応が求められる。

■“楽しんで働ける”企業を  『LIXILグループ』次期社長・瀬戸欣哉氏
多くの会社を立ち上げてきたが、経営で大切なのは「従業員が楽しく働き、誇りを持てる会社にする」ことだ。“楽しく働く”とは、毎日パーティーをしたり楽をしたりすることではない。昨日と同じことをやるだけなら楽だが、それでは成長はない。困難なことに挑み、厳しさを通じて達成する。その楽しさを知ってもらうことが重要だ。創業した『MonotaRO』では、サイトに全社員の仕事を書いてもらった。自分の仕事を全員に公開することで、誇りを持つと同時に、目標達成へ自覚を促す狙いもあった。失敗を恐れずに挑戦する風土を築くのは、経営者の役目だ。経営者は社員の失敗を叱らず、失敗から学ぶことを投資として認める必要がある。失敗を叱り、成功だけ評価すると、従業員は萎縮し、失敗を隠すようになる。目標が達成できなければ、上司は何故上手くいかないのか共に考え、失敗経験を共有することだ。大事なのは、現場との距離感だ。MonotaROの社長時代、年2回・500人の社員全員と面談した。1月に社長に就いたLIXILでも、先ず100日で600人の社員と話をしようとしている。現場の声を把握するだけではない。会社がどこに向かうのか、どんな役割を期待しているか伝える為だ。会話を通じて社員の視点を引き上げ、自分の仕事にどんな意味があるか理解してもらうことが大切だ。経営と現場が一体となって、働き甲斐のある会社を作り上げねばならない。

■40歳で“その道のプロ”に  昭和女子大学特命教授・八代尚宏氏
日本の新卒採用は、会社優位の契約だ。大半は職務に関する規定も契約書も無い。40年雇用を守り、賃金を払う代わりに、社員にどんな仕事でもやってもらう。それが今の姿だ。日本の大企業は、若手に多くの部署を経験させる。会社を知る為というが、必要なのは特定の部門のプロだ。もっと専門家の育成を強化すべきだ。ただ、職務内容が明確な欧米のように、就職する時に職種を決めるのは難しい面もある。若いうちはスキルが乏しく、ミスマッチで若年失業率が高まりかねないからだ。理想なのは、若いうちは色々な部署を経験させ、40歳頃までに専門を決めて処遇する道だ。管理職もなりたい人が立候補する形がいい。抑々、高度成長期のように大卒全員が課長や部長になれる訳ではない。管理職の仕事は決断をし、部下を評価・指導することだ。その為には部下の仕事を理解し、部門全体に目配りしなければならない。欧米では部下は残業せず、上司が遅くまで働く。日本は逆だ。部下が大量の仕事を押し付けられ、残業させられる。上司が残っても帰り辛くなる。上司の姿勢が変わらなければ、長時間労働は減っていかない。同一労働同一賃金が言われているが、非正規社員の間では既に同一労働同一賃金だ。一方、正社員は職務内容の定めの無い年功序列型の賃金体系を引きずっている。若し同じ労働に対して同じ待遇にするなら、正社員を非正規社員に近付ける必要がある。

               ◇

“大学新卒”の概念が崩れ始めた。大卒後、数年程度の社会人経験を持つ“第2新卒”採用に動く企業が増加。30歳まで経歴不問の会社も出始めた。「新卒応募と遜色が無く、優秀で個性を持つ人が多い」。家電量販チェーンの『ノジマ』で採用を担当する総務グループの田中義幸グループ長は話す。3年前に第2新卒の採用を始め、昨年度は31人が入社。今年度は100人規模の採用を計画する。『三井住友銀行』も今春、第2新卒者の採用を始める。海外事業やITとの融合等、業務範囲が広がる中、採用ルートを広げ、優秀な人材を確保する狙いだ。「応募資格は30歳未満ということだけ」。『ライフネット生命保険』は、学歴や社会人経験の有無を問わず、30歳未満なら誰でも応募できるコースを用意。難易度の高い課題を課し、意欲がある優秀な人を集めている。石井寧さん(32)はフランスの大学院に留学し、化学を研究した。博士課程の進学も検討したが、「大勢いる研究所より、日本のベンチャーのほうが様々な体験ができる」と27歳で入社した。「安全工学の考えを保険事務に応用できた」と微笑む。就職情報の『ディスコ』によると、既卒者の応募を新卒同様に受け付ける企業は、昨年度で66%に増えた。全体の1割強が内定も出している。新卒に捉われず、意欲ある若い人材を幅広く採用する動きが強まりそうだ。


≡日本経済新聞 2016年3月22日付掲載≡




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