【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(75) 「世界文化遺産の美術館を建てたのはファシスト」って不都合な真実?

上野公園の『国立西洋美術館』を含む、フランスの建築家であるル・コルビュジエが手がけた7ヵ国・17作品が世界文化遺産に登録されることが決まりました。ル・コルビュジエは“住宅は住む為の機械”という思想の下、鉄筋コンクリートを使った建築作品を数多く発表しており、近代建築の礎を築いた20世紀の偉人として、その評価は揺るぎないものになっています。一方、欧米のメディアが注目しているのは、「ル・コルビュジエはファシストだった」という“不都合な真実”。第2次世界大戦中のドイツ占領下のフランスにおいて、ル・コルビュジエは対独融和を推し進めたフィリップ・ペタン元帥率いるヴィシー政権に非常に協力的だったのです。因みにペタン元帥とは、フランス国内ではナチスへの協力者(=フランスから見れば裏切り者)として度々批判される人物です。

抑々、ル・コルビュジエの“美しい世界観”を実現する為には、個人の価値観等というものは邪魔でしかありませんでした。例えば、1925年に彼が提案した都市計画は、パリの歴史的な街並みを悉く破壊し、全く新しいものにするもの。これは実現に至りませんでしたが、彼のビジョンは巨大で独裁的な力を借りることで、初めて成り立つものだったのです。言い換えれば、ル・コルビュジエは自分の“仕事”を遂行する為なら、たとえナチスの側に就くのも厭わなかった。ある専門家によれば、彼は約20年間に亘ってファシズムに漬かり、権力者に住宅建設や都市開発の助言をする等しながら活動していたとのことです。しかし、彼を崇拝する人たちは、そうした報道を「単なるセンセーショナリズムだ」と切り捨てます。昨年、パリのポンピドゥーセンターで開催されたル・コルビュジエの特設展でも、そういった事実には一切触れられていません。恐らく、“信者”たちは「彼の政治的思想や自国に対する裏切り行為が、建築家としての業績に傷を付けてしまうものだ」と思っているのでしょう。




ただ、ここでちょっと立ち止まって考えてみてほしい。偉大なアーティストや表現者、もっと言えば多くの“感性の人”って、元来“そういうもの”なのではないでしょうか? 例えば、オーストリアの指揮者であるカラヤン、ロシアの作曲家であるストラヴィンスキー等、その“類の偉人”がファシストだったという話は決して少なくありません。感性の人は、どこかしら危ういところがある。そして、そういう人が今ある退屈なものではなく、「こうだったら面白いのに」という狂気。非日常を紡ぎ出すことにこそ、人は感動する。その狂気を“常識”というフィルターを通して眺めてみても、あまり意味はありません。問題は、そういう人の信者やキュレーターが、「偉大な芸術家は人間的にも思想的にも素晴らしいものだ」という“錯覚”に囚われていることでしよう。「作品は素晴らしい、でも彼はファシストだ」――このカオスとも言える複雑さを、そのまま受け入れればいいのに。日本にも「ミュージシャンや演劇人は当然、反体制であるべきだ」という感覚の人が少なくないようですが、“感性の人”に何を期待しているんでしょうか?


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)・『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)等に出演中。


キャプチャ  2016年8月29日号掲載

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