【宮崎哲弥の時々砲弾】 リベラル再装填のために part.11

「左派的な経済政策とはどんなものかというと、不況のときは、ケインズがいったように、国のお金をどんどん出す(財政出動です)。公共事業を行い、雇用を生み出し、一方では社会福祉を充実させる。左派は労働者や貧困層の味方なのだから、最低賃金を上げ、公共住宅を整備し、教育費や医療費や介護費にも補助を出す。当然それは“大きな政府”になるわけです」――斎藤美奈子氏の新著『学校が教えないほんとうの政治の話』(ちくまプリマー新書)に、こう断言されている。斎藤氏と言えば、東京新聞連載の『本音のコラム』を一読すれば瞭然だが、文芸評論という枠を超えたリベラル左派の論客であり、妥協の無い明快な語り口で知られる。これは10代後半向けの新書の一節で、保守とリべラルの相違点を平易に解説した章に含まれている。私は思わず膝を打った。そして嘆息した。「世界的に見れば当たり前過ぎるこの常識が、どうして日本のリベラル陣営では中々通用しないのか」と。

つい先日も、出鱈目な経済評論家のマクロ政策否定論を鵜呑みにした毎日新聞政治部のバカ記者が、民進党に「経済成長を放棄し、消費税増税も視野に入れた財政再建という原点に立戻る」よう指嗾していた(小山由宇『記者の目・2016参院選 民進党の今後-次世代への責任 語れ-』7月28日付朝刊)。この記者は、トマ・ピケティらによって散々立証された「先進成熟経済国においては、ある程度の名目GDP成長率を維持しなければ、雇用はどんどん悪化し、格差は一層拡大し、直接税の税収が減る為に財政は悪化し、社会福祉も行き詰まる」という単純な事実を一向に理解していない。膨大に見える公的債務も、名目成長率が3%程度に達し、安定すれば管理可能となる。これは、悪名高き格付け会社ですら認めるところである。逆に言えば、年率3%の名目経済成長率を実現できなければ、どんなに増税しようとも日本の政府債務の管理は困難なのだ。先の参議院議員選挙で民進党は“分配と成長の両立”を打ち出したが、これ自体は間違っていない。ただ、両立といっても、成長を一歩先行させないと実行は難しい。例えば、最低賃金の引き上げは失業率を十分に改善し、雇用の逼迫を顕在化させた後に実施しなければ上手く機能しない。旧民主党政権のように、高い失業率の下、ミクロ政策だけで分配を推し進めようとしても無理なのだ。風車に息を吹きかけて回してみても、風が起こる訳はない。




然るに、毎日新聞の記者は「民進党の政策目標から“成長”を外し、その代わりに“財政再建”を置け」と唆している。アホか。政治部記者が経済学に疎くて、疑似科学紛いの経済評論や、マーケットエコノミストの“ポジショントーク”に騙されてしまうのは詮なきことかもしれない。だが、苟もジャーナリストは、健全なオピニオンの形成を扶翼する役割を担っている。現に、文芸評論家の斎藤美奈子氏は、トマ・ピケティや松尾匡等、ちゃんとしたリベラル派経済学者による書物を精読した上で、確かな経済政策論を提示している。これに対し、聞き齧り・読み齧りの知識で、岐路に立つ民進党に尚も緊縮や増税を教唆するなど、低レヴェルにも程がある。“次世代への責任”なる消費税増税・歳出抑制を正当化し、財政出動を忌避するレトリックが、これまでどれほど現役世代を苦しめ、若年層の雇用を奪い、未来の可能性を摘み取ってきたか…。「将来世代にツケを回すな」という虚託にまんまと誑かされ、「左派リベラル系の政党も、その応援団である左派の新聞も、左派の市民も、すっかり右派に毒されて、みんな右派もまっさおの緊縮財政論者になってしまった」(斎藤氏、前掲書)。事業仕分けや消費増税に盲進した“黒歴史”と訣別し、リベラルの“原点”に立ち戻ること。これ無くして、民進党に明日は無い。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2016年8月25日号掲載
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