【宮崎哲弥の時々砲弾】 リベラル再装填のために part.12

アべノミクスの成功例を見て、「左派はくやしいものだから『そんなはずはない』『すぐに失敗する』『もう失敗してる』と、さんざん批判していますが、世界的に有名な左派の経済学者(クルーグマン、スティグリッツ、ピケティなど)の評価は高かった」(斎藤美奈子『学校が教えないほんとうの政治の話』・ちくまプリマー新書)。リベラルや左翼は、元々自分たちが手にしていた強力な政策手段を、融通無碍な保守に掠め取られたままであることを、正直に認めるべきだ。財政均衡優先主義やサプライサイドの構造改革主義は右翼の経済思想であって、リベラル派の指導理念にはならない。「安倍政権の経済政策には左派的なところがあるといいました。ということは、人々も国のお金を惜しまず使う、弱者にやさしい左派的な政策を、ほんとは求めているんじゃないか」(同書)。そこを全く顧慮しなかったのが旧民主党・現民進党の執行部であり、これこそ彼らの敗退の真因である。イギリスの週刊紙『エコノミスト』は7月30日号において、アべノミクスの中間評価を行っている(『Abenomics:Overhyped, underappreciated』、以下の訳文は『日本ビジネスプレス』のウェブサイト掲出記事による)。

「最初に広げた大風呂敷に比べれば、確かにアベノミクスは失望でしかない。しかし、それ以前に行われていた政策と比べるなら、好意的に耳を傾ける価値はある」。例えば金融政策。反対派は、『日本銀行』が目標としたインフレ率2%を未だ達成できていないことばかり論う。しかし、「反対派は誤解している。ほかの国とは異なり、日本ではコアインフレ率をエネルギー価格込みで算出している。これを除いた“コアコア”の消費者物価指数は、小幅ながら32ヵ月連続で上昇しているのだ」。本来、金融政策の効果は、外在的要因による変動を控除した“コアコア”指数で測られるべきだが、この国では何故か採用されていない。原油価格の下落が見かけ上、物価の足を引っ張っているが、これは取りも直さず、原油安や円高のコストプルで“悪いインフレ”が抑制されているということなので、その限りにおいて、寧ろ日本経済には好条件だ。十分ではないものの、“良いインフレ”は2年半以上も続いているのだ。かかる物価状況の下で、実質賃金は5ヵ月連続でプラスを維持している。この6月は前年同月比1.8%増で、5年9ヵ月ぶりの上昇幅だった。




雇用も増えている。特に、若年層の改善が著しい。市場アナリストの久我尚子氏によると、「15~24歳では正規雇用者の比率が1.6ポイント増と、非正規の0.8ポイント増の倍も増え」、「新卒の内定率も上がり、特に女性が高くなっている」という。他方、「厳しい状態のままなのは、35~44歳の子育て真っ盛りの“就職水河期世代”」で、正規雇用が殆ど増えていない(『2016参院選/アべノミクス考 実感はどこに』朝日新聞6月22日付朝刊)。これこそ、まさに長期に亘ったデフレ不況の爪痕だ。彼らは、20年近くも続いた不作為の罪の犠牲者なのだ。「次世代にツケを回さぬ為に、大衆増税・緊縮を断行せよ」等とほざいている御用学者・茶坊主エコノミスト、幇間ジャーナリストどもは、“今ここにある不況”によって潰される未来に思いを致すがいい。これからのリベラルがなすべきは、先ずアベノミクスを適正に評価し、受け継ぎ、発展させるべき政策や欠けている政策、そして蹉跌を“仕分け”ることだ。最大の失策は、2014年4月の消費税増税だった。先のエコノミスト誌の記事は、斯く指摘している。「アべノミクスは、緊縮財政が(特に、それがすべての消費者への課税という形を取るときには)どれほど自滅的な政策になり得るかを実証して見せただけではない。日本の置かれた条件下では、持続的な財政拡張が可能であることをも示している」と。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2016年9月1日号掲載




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