【働きかたNext】第1部(01) “制約社員”が残業の岩盤崩す――若手も外国人も横一線、慣習脱ぎ捨て一歩前へ

職場に増える女性や外国人・シニア。周囲の風景が様変わりしていませんか。長時間労働や年功を前提にした働き方はもう限界です。慣習にとらわれず、時代にあった働き方を創る。その主役はあなたです。

キリンビールマーケティングで営業を担う西夏子(29)。師走の激務をこなしながら働き方の改善案を練り続けた。「全社で管理職の意識改革を」。2月末に社長に“建白書”を渡すつもりだ。ビール営業で量販店を回り、週に半分は出張する。資料づくりや会議で深夜の退社も。「出産後にこのままだと働けない」。取引先にも育児社員の事情を周知できないか。会社に求められて出す提言だが案は尽きない。日産自動車・KDDIなど異業種7社の“エイジョ=営業女子”29人で半年前から集まり、悩みを擦り合わせた。勤務時間は1日12~13時間がざら。「このままではエイジョは絶滅する」。2004年に7社に入ったエイジョを追跡すると出産後の異動などで10分の1に減っていた。採用や配置・昇進の男女差別を禁じた改正男女雇用機会均等法の施行から16年。企業の最前線でも女性の存在が当たり前になったが、正社員の総労働時間は年2018時間でほとんど変わっていない。彼女たちが出産や育児で退社すると職場は回らない。そんな危機感が会社に染みついた“残業当たり前”の風土を変えつつある。

急成長企業のヤフーも悩む。育児休業取得者と短時間勤務者が10年で28倍の286人に激増した。職場から噴き出す悲鳴に会社は奇策を打った。在宅勤務を認め、社内の会議を1回数千円の“有料制”にしたのだ。料金は役員が出ると2倍、部長なら1.5倍。加えて会議が長くなるほど高くなる。部署ごとに積み上げて社内で公開した。実際に払うわけではないが意識が変わり、1年で会議は2割減った。働き手の中心となる15~64歳は毎年数十万人規模で減り続ける。一方で育児や介護で働く時間が限られる“制約社員”は職場で増える。彼ら、彼女らが部長になり、役員になり、社長になる。それが当たり前の時代が、もうそこまで来ている。




大手タイヤメーカーで生産技術を担当していたベル・スッタケート(27)。タイから留学し、日本大学生産工学部を出て2012年に採用されたが、1月に退職する。外国人の昇進をはばむ“ガラスの天井”を感じたためだ。会社にタイ人は1人だけ。「外国人に日本の仕事は分からないよ」とささやく同僚。外国人社員に会社が求める役割を上司に聞いても、はぐらかされた。「人材の国際化を」という掛け声とは遠い現実が職場にある。上位50社に日本企業はゼロ。国際調査会社ユニバーサムによると、外資系企業への挑戦意欲が高いシンガポールの学生の就職人気ランキングで日本企業は軒並み圏外だ。年齢とともに給料が増える考え方は同国になく、初任給の安さが際立つことが大きな理由だ。

“終身雇用”“年功序列”。経営学者ジェームズ・アベグレンはこれらを戦後日本企業の成長の原動力と称した。いまは弊害のほうが目立つ。改革のカギを握るのは40歳代のミドル世代だ。就職より就社、モーレツ社員。若いころ“24時間戦う”ことを刷り込まれた。上の世代のように年功、終身雇用の恩恵を受けて逃げ切ることもできない。中間管理職として職場を動かす立場になったミドルが変われば、働き方の革新は加速する。管理職の評価を世界で統一し、年功賃金も廃止した日立製作所。若手も外国人もライバルだ。都市開発という国内畑を歩んだ担当部長の榊原雅也(46)は年功廃止に「不安はある」。だが「世界に売れるモデルをつくって成果を出さないと」と腹をくくる。制約社員や外国人が突き崩す日本型雇用という岩盤。長時間労働に替わるモデルのヒントはいち早く人口減に直面した地方にある。『マルセイバターサンド』で知られる六花亭製菓(北海道帯広市)。過労で社員が辞めたのを機に働き方を変えた。ムダを徹底して省き、同僚が休むと全員で補う。一人三役をこなすことも。凝縮型の労働で“有休取得率100%”“残業ゼロ”を続ける。

6500万人の労働力は2060年に4000万人を割る。多様な人材が集う職場づくりが欠かせない。効率的な働き方を求める人材を生かせば、先進国34ヵ国中22位の日本の労働生産性も高まるはずだ。それには働いた時間で給料をもらう仕組みや長く勤めるほど有利な退職金といった時代遅れの制度の衣替えも要る。戦後70年の今年。一人ひとりが変化を恐れず、職場を見つめ直そう。その先に次のニッポンの働き方が見えてくる。 《敬称略》

               ◇

日本の働き方は今後どうあるべきか。社内で英語を公用語にした楽天の三木谷浩史会長兼社長と、働く女性の声をインターネットで発信するイーウーマンの佐々木かをり社長に聞いた。

■多様な勤務体系、競争力に 楽天会長兼社長・三木谷浩史氏
――年功序列や終身雇用など日本型雇用をどう評価しますか。
「コインの裏表だ。組織が安定したことでチームワークが良くなった。半面、組織内での流動性が低くなり、社内の人材を生かし切れていない。働き方を硬直的にとらえてしまったことが、日本の競争力をそいでいる」

――楽天でも育児など時間に制約のある社員が増えました。
「社員それぞれ事情が違う。カフェテリアのように働き方を選べる仕組みが必要だ。ワークライフバランスという言葉があるが、ワークとライフは切り離せない。生活での気づきが仕事につながることもある。むしろ“ワークサポーツライフ”が重要だと考えている」
「長く働くことに意味はない。3~4時間でも結果が出せるならそれで構わない。重要なのは働く時間ではなく結果。知的労働の分野では、多様な働き方を認めることが重要だ」

――グローバル時代に求められる働き方は。
「世界は変化している。多くの企業は閉ざされた世界ばかりを見ていて、外で何が起きているのか理解していない。変化に対応するには多様な人とコミュニケーションできる能力が必要だ」
「英語を公用語にしたことで外国人社員が増え、新たな視点や技術がもたらされた。日本人社員の視野も広がった。日本企業は内なる国際化を進めないと世界的な成功はないだろう。柔軟な発想の企業が増えれば働き方も多様になる」

■脇道だけの整備、改める時 イーウーマン社長・佐々木かをり氏
――働き方改革の必要性が叫ばれています。
「世界経済フォーラムが2014年まとめた“ジェンダー・ギャップ指数”によると、日本の男女平等の度合いは142ヵ国中104位。世界有数の女性の力を日本は全く生かせていない。同じ価値観の男性を中心にした業界や会社が機能しなくなっていることは明らかだ。働くとは何か、根本的に考えるべきだ」

――どう変えるべきでしょうか。
「これまでは男性による長時間労働という主流の働き方には手をつけずに、その他の部分で制度を充実させてきた。子育てとの両立を選んだ女性が昇進の道から外れるマミートラックが典型だ。でも『脇道』だけの整備をそろそろやめなければいけない」
「介護を抱える社員も増える。男性も女性も、制約のある人もない人も能力を生かせる社会にするには、多様な働き方が同じ土俵で共存する“太い一本道”をつくる必要がある」

――それには何が必要ですか。
「上司の意識改革、これが近道だ。労働時間の長さと生産性は関係ないことを実感し、実践できるか。それから制度。成果に応じて賃金を払う“ホワイトカラー・エグゼンプション”は時間の制約のある社員にとって有益だ。多様化する社会はより厳しい社会。働き手一人ひとりが自分が働くことを通じて貢献できているのかよく考え、最大限の力を発揮することが求められる」

               ◇

日本人の働き方は、その時々の日本経済と社会の実相を投影してきた。

24時間戦えますか――。日本中がバブル景気に踊っていたころ、CMソングからは、“日本株式会社”で働く企業戦士たちの高揚感が伝わってきた。そんな“モーレツ社員”のカルチャーを生んだのは、戦後の高度成長だ。家族主義的な経営が日本の企業社会に深く根を下ろし、終身雇用や年功序列が常識となった。会社と働き手は運命共同体。日本経済の成長エンジンとして動いてきた。ところが、戦後日本の雇用システムは限界に突き当たる。バブル経済の崩壊がきっかけだった。雇用に関するキーワードは“リストラ”や“就職氷河期”“ワーキングプア”に。経済の停滞とともに影を帯びた。今年の日本は岐路にたつ。再成長へと前進していくのか。立ちすくんでしまうのか。針路を決めるのは我々だ。一人ひとりが新しい働き方をつくる年がはじまる。


≡日本経済新聞 2015年1月1日付掲載≡


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