【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(79) 風邪薬がシャブに! “殺人奨励”でもアジアの薬物汚染は止まらない

麻薬撲滅を掲げるフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が、“超法規的殺人”を奨励し、国際社会に衝撃が走っています。「半年以内に密売組織を撲滅する」という公約の下、就任から2ヵ月余りの間に、警官や“自警団”等による麻薬密売人や中毒者の殺害件数は約2000件にも上ったとのこと。当然、国連や欧米諸国からは非難の声が上がっていますが、国内での高い支持率を背景に、ドゥテルテは強気の姿勢を崩しません。ただ、はっきり言ってしまえば、残念ながら、この手法でフィリピンの麻薬を撲滅することは“不可能”です。スラム街に根を張る売人やジャンキーを何千人殺したところで、精々“今までよりやや地下に潜る”程度の効果しかないでしょう。麻薬流通の末端ではなく、“製造工程”に目を向ければ、それは火を見るより明らかです。

フィリピンには近年、メキシコ最大の麻薬密売組織『シナロアカルテル』が拠点を構えています。彼らはチャイナマフィアと結託し、盤石の“SHABUビジネス”を展開。覚醒剤の原材料となるプソイドエフェドリンをチャイナマフィアが中国から調達し、シナロアカルテルは最終加工と流通を請け負う。このビジネスモデルに手をつけない限り、いくら末端を叩いても撲滅など夢のまた夢です。また、仮にチャイナルートを断ったとしても、代わりに山のような“インド原産シャブ”がやって来ます。最近、インドの製薬工場で作られたプソイドエフェドリンを含む風邪薬が、国境を越えて大量に隣国のミャンマーの辺境地域へと運ばれています。インドの製薬業界は目覚ましい急成長を遂げていますが、規制も警察もザルに等しく、風邪薬が流通の過程で闇市場へ大量流出。それが国外で覚醒剤へと“再処理”されている訳です。インドとミャンマーの国境地帯では、米袋等に大量の薬物が詰められ、車やバス、或いは水牛に乗せて運ばれているそうで、この流通にはマフィアばかりでなく、普通のミャンマー国民らも加担しています。僅か数十円というインド産の風邪薬1錠から、“ヤーバー”と呼ばれる錠剤型の覚醒剤が1錠できると言われており、経済発展の恩恵など遠く及ばない貧しい地域の人々が、こんなおいしいビジネスを手放す筈がないのです。




ドゥテルテ大統領も、まさが本当に「半年で麻薬を撲滅できる」等と思っている筈がありません。ただ、彼は典型的なポピュリストで、振り上げた拳を下ろす訳にはいかない。今後も人気取りの為に、“超法規的殺人”を奨励し続けるでしょう。今は未だ大統領就任直後の“ハネムーン期”で、多くの貧しく苦しいフィリピン国民は彼に喝采を送っています。これを欧米がいくら「人権無視だ」と批判したところで、ドゥテルテは「今まで俺たちを見捨ててきた癖に、今更綺麗事を言うな」と、より強硬になるばかりでしょう。「フィリピン国民よ、今こそ立ち上がれ!」という訳です。そんな不毛な政治ゲームが行われている間にも、“SHABU”はフィリピンを蝕んでいきます。ドゥテルテのやり方を批判する側にも、特効薬のような代案はありません。この戦いに終わりは無いのです。


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)・『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)等に出演中。


キャプチャ  2016年10月3日号掲載

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