【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(82) “幽霊の正体見たり枯れ尾花”…まるでボブ・サップのようにヒラリーに打たれたトランプ

「底の浅いポピュリストと、進歩的なプロ政治家の力量差が出た」――。先月末に行われたアメリカ大統領選の第1回テレビ討論会。ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンの直接対決を見ての第一印象です。予測不能で荒っぽいストリートファイターのようなトランプは、確かに共和党内の候補者選びの段階では強かった。ライバルたちを狼狽えさせ、それまで大統領選に興味を持てなかった層を取り込み、ここまで勝ち抜いてきたのですから。しかし、この日のトランプは実に脆かった。ヒラリーはディベートの随所に罠を仕込んでトランプを慌てさせ、時には素に戻ってキレさせた。トランプは得意の放言スタイルが通用せず、“stump speech(判で押したようにいつも同じ話)”を繰り返すだけ。嘗て“野獣”と呼ばれたアメフト出身のボブ・サップが、総合格闘技でプロの格闘家にあしらわれ、ローキックに顔を歪めていた姿を思い出しました。

ヒラリーがトランプを批判する為に使った言葉で特に印象的だったのが、“cavaller”と“dismissive”です。“cavaller”は“根拠の無い楽観”、“dismissive”は“気に食わない意見は全て聞く価値無しと切り捨てる”というようなニュアンスですが、トランプは外交、特に中東問題に関し、“cavaller”で“dismissive”な姿勢が顕著であることを指摘したのです。このように、トランプが真面で具体的なディベートをできない理由は、単に彼が政治の素人だからというだけではありません。トランプの主な支持層は、現状に不満があり、何かに怒っている白人です。共通点はそれしかない。このコラムで何度も触れてきたクリスチャンライト・強烈な陰謀論者・Alt-rightといった其々の“小さな塊”は、一枚岩には程遠く、その熱い思いをてんでバラバラの方向に向けているのです。そんな人たちを繋ぎ止める為に、トランプは凄く大雑把で、具体性に欠け、野卑なことを言い続けるしかない。具体的に「あの問題はこうする」と言った瞬間、誰かが彼を見限ってしまうからです。それを見透かしたヒラリーは、トランプにこう言いました。「貴方はspecific(個別具体的)じゃない。何もconcrete solution(現実的な解決策)を提示しない」。




“幽霊の 正体見たり 枯れ尾花”。彼のあやふやなディベートは、“勢いだけで長くは続かない”というポピュリズムの本質を体現したものだったという訳です。そして、老獪なヒラリーは、プロの格闘家のローキックのように、その一番痛いところをきっちり突いたのです。今回の大統領選は、“HOPEとNOPE(NOの口語体)の戦い”とも評されています。多少の問題はあるにしても、多様な社会という希望を語るヒラリー。一方のトランプは、現実を受け入れずに「あの頃のアメリカに戻りたい」というノスタルジーに縋る人々に対し、次から次へと“矛盾だらけの娯楽”を提供し続けるしかない。勿論、政治とは本質的に矛盾を包摂するものですが、勝つ為にはその矛盾を選挙が終わるまで隠し通す必要があります。トランプにその力があるかどうか、今回の討論会が如実に示していたような気がします。


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)・『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)等に出演中。


キャプチャ  2016年10月24日号掲載



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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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