【震災5年・復興】(06) 復興住宅3万戸、自治体の重荷

20161028 08
「ドアの開き具合が悪い」「電気が点かない」――。岩手県大槌町役場には、“復興住宅”とも呼ばれる災害公営住宅177戸の住民から、毎日のように修繕依頼等の電話がかかる。対応するのは、環境整備課管理班の職員6人。入居者の都合次第では、土日でも修繕に出向く。職員の1人は、「まるで不動産会社のような仕事。依頼に応えるには、今の職員数ではギリギリだ」と話す。被災3県の自治体は、復興住宅計2万9385戸(計画数)という未経験の規模の不動産を抱え込もうとしている。大槌町でも、2018年度までに現在の4倍の729戸を整備予定。建設費用は8分の7が国の補助だが、問題は自治体が負担する維持管理費だ。町の将来推計では、現在、約1万2000人の人口が、2030年には1万人を下回る。今でこそ空き室は殆ど無いが、入居率の低下は避けられず、家賃収入で維持管理費を賄えなくなるのは必至だ。町は来月から入居者募集や修繕業務を外部委託して、職員の負担を減らす。それでも、「維持管理費が膨らんでいく為、将来に亘って赤字は続くだろう」と町幹部は嘆く。岩手県大船渡市では、震災前に比べ、市営住宅が71%も増えた。

既に完成した327戸の復興住宅を含め、1月末現在の市営住宅戸数は785戸。修繕業務等は2014年10月から外部委託しており、それを含め、年間で1億円を超す維持管理費がのしかかる。同市の復興住宅の入居率は84%で、県内平均(86.9%)を下回る。背景には、住民のニーズに合わない復興住宅が少なくないという実情がある。大船渡港近くの『盛中央団地』(44戸)の3階に住む女性(66)は、「重いバッグを持って階段を上がるのは辛い」と零す。1984年築の雇用促進住宅を市が買い取ってリフォームした為、5階建てでもエレベーターは無い。入居率75%は市内最低だ。手狭な仮設住宅を出て2013年3月に入居したこの女性は、「便利な復興住宅に移りたい」と話す。だが、公営住宅法は“住宅に困窮している”人を対象にしており、同市は別の復興住宅への住み替えを認めていない。その為、新築で便利な立地の復興住宅に人気が集中し、他の物件の入居が進まない。“住める”住宅を提供する自治体と、“住みたい”住宅を求める住民の思惑のズレが、復興住宅の不良資産化を進行させている。とはいえ、多くの被災者にとって復興住宅は生活再建の頼みの綱だ。大船渡市内の別の復興住宅に独りで住む村上タツさん(85)は、3階のベランダから、津波に呑まれて無くなった自宅の跡地を眺めて暮らす。震災の前後に病死した夫や長男との思い出が詰まった家だった。「少しでもあの家の近くにいたい。今は部屋が広く、エレベーターもあって便利。残りの人生をここで過ごすのも悪くないと思う」。村上さんは、そう呟いた。




■入居率、目立つバラつき
東日本大震災で自宅を失い、住宅の再建や購入を諦めざるを得なかった被災者の為の災害公営住宅(復興住宅)が、自治体財政に懸念を生じさせている。膨張する“震災不動産”への対応は、被災地にとって極めて重要な課題だ。

被災3県の復興住宅は今年1月末現在、計画戸数の48%に当たる1万4042戸しか完成していない。それでも、復興住宅の入居率は思うように伸びず、自治体側の不安は募る。岩手県山田町では入居率が72%と、県内平均を大きく下回る。要因の1つが、今秋完成する『山田中央団地』(146戸)だ。スーパーや銀行等が近隣に整備される予定で、入居は抽選になると見込まれている。町内の仮設住宅に住む相沢敬子さん(84)も入居を希望。「皆、『中央団地に入りたい』と言っている。車が運転できないし、買い物に便利なところがいい」と話す。復興住宅によって住み易さ等に大きな“格差”がある為、好条件の物件への入居が叶うまで仮設で待機する人も多い。それが復興住宅全体の入居率低迷に繋がっている。入居率改善の為、自宅再建までの間だけ復興住宅に入る“腰掛け入居”を容認する自治体も出てきた。市町村の多くは、復興住宅に入居した人に自宅再建の補助金を支給しないが、岩手県陸前高田市は、復興住宅居住者による再建でも最大100万円を支給。宮城県石巻市等も同様の制度で“腰掛け”を可能にしている。陸前高田市の場合、自宅再建用の高台の整備完了まであと2年以上かかるという事情がある。市被災者支援室は、「長く待たされた上に補助金も出ないとなれば、自宅再建が早かった人と比べて不公平感が生じる」と説明。

昨年、市が復興住宅居住者に意向調査を行ったところ、33.8%が“腰掛け”だった。復興住宅に住み、高台での新築を検討している及川貞雄さん(70)は、「市町村によって対応が違うのは疑問だが、補助金が出るのは有難い」と語る。ただ、「安い家賃で復興住宅に住んでいるのに、別の補助金を出す仕組みは好ましくない」(岩手県大槌町)と考える自治体は多い。ツケが将来に回るという問題もある。岩手県釜石市の担当者は、「腰掛けの人は何れ出て行き、空き室が増える。その維持費は税金、つまり市民の負担になってしまう」と語る。計画戸数を見直す動きもある。宮城県では、南三陸町が当初の1000戸から738戸、七ヶ浜町が302戸から212戸へと計画を下方修正した。それでも、入居率は南三陸が84%、七ヶ浜は83%に留まり、ニーズの変化に計画変更が追いついていないのが現状だ。宮城県は、財政負担を撃念した市町からの要望を受け、来年度から復興住宅に被災者以外の入居を認めることにした。被災者向けに3~6ヵ月程度募集を行い、それでも空き室があった場合にだけ入居を認めるという。宮城県の担当者は「税金で建てているので、空き室があると被災者以外から『もったいない』と思われる」と、“開放”の理由を話す。入居率77%の大崎市や90%の涌谷町は、被災者以外の募集に踏み切る方針だ。こうした“目的外使用”には批判もあり、復興住宅建設のペースが遅い岩手・福島両県は、方針を決めかねている。

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■「自力で自宅」、苦渋の断念
被災自治体が膨大な数の復興住宅を抱えざるを得ないのは、津波の被災者が自力で自宅を再建するのは難しい実情があるからだ。津波被害を受けて災害危険区域に指定された土地は、居住が制限され、防災集団移転促進事業の一環で市町村が買い取って、費用は国が全額負担する。買い取り額は、自治体が不動産鑑定士に鑑定を依頼し、その土地の将来の利用法も考慮して算定するが、多くの場合、被災者が実際に購入した金額には及ばない。岩手県釜石市の漁師・大向惣三さん(75)は、海沿いの自宅が津波で全壊した。土地は防潮堤の建設用地になったが、抵当権が付いており、買い取り額を巡って市と債権者の交渉が纏まらない為、売却できていない。その為、自宅再建を諦め、妻の睦子さん(75)と市内の復興住宅に移った。「長年、ワカメ漁をやっていて、内陸に移住したら仕事が無くなるかもしれない。復興住宅しか選択肢が無かった」と話す。自力再建の難しさを示す数字がある。居住する住宅が全壊する等した世帯には被災者生活再建支援金が支給されるが、対象世帯の内、住宅の建設や購入で受けられる加算金を申請したのは、岩手県が30%、宮城県は22%、福島県は31%に留まっている。

■公営住宅、進む集約と解体
日本が“人口減社会”に入った中で、被災地以外の自治体は寧ろ、公営住宅等の公共施設を減らす方向を目指しつつある。その代表格が、2011年度から公共施設を削減する取り組みを始めた神奈川県秦野市だ。施設の維持管理費は、2050年までに346億円に上ると試算されていたが、「人口が減る」と予測し、施設の廃止・統合・民間への売却等を進める方針を打ち出した。既に児童館等5ヵ所を廃止・民営化し、2050年度までに公共施設の床面積を約3割減らして、維持管理費を87億円に圧縮する。それとは別に、市営住宅も古い戸建てから集合住宅への住み替えを促し、集約と解体を進めている。市の担当者は、「住民サービスの低下を抑えながら、計画的に削減に取り組まなければならない」と話す。同市には年70~80件の視察や講演依頼があり、愛知県西尾市や香川県三豊市等、同様の取り組みを行う自治体も増加。総務省は2014年、各自治体に公共施設の維持管理策等の将来計画を策定するよう求め、昨年10月時点で113自治体が策定済みだという。日本大学の中川雅之教授(財政学)は、「被災自治体が復興交付金を梃子に不動産を増やすのは、時代に逆行している。復興住宅を集約化等で削減する方法を、今のうちから検討すべきだ」と指摘している。

■奥尻島90戸の教訓
1993年の北海道南西沖地震の津波で、死亡・行方不明が198人に上った北海道の奥尻島でも、高台の数ヵ所に道営等90戸の復興住宅が整備された。町は当時、住民を何度も戸別訪問。集落が小さい為、意向確認はし易く、当初の入居率はほぼ100%だった。ただ、腰掛け入居も受け入れた為、自宅を再建した住民は転出していった。高齢者の死亡も加わって、現在の入居率は63%に低下し、今後は一部の解体を進めるという。担当職員だった竹田彰さん(62)は、「復興住宅は、その時々のニーズに応える必要があり、計画を立てるのが難しい」とし、「将来の有効活用を視野に入れて整備することが重要だ」と話している。

■“住み易さ”重視を  立命館大学・塩﨑賢明教授
復興住宅の適正戸数は、災害の性質や地域の特性に応じて考える必要がある。東北地方は持ち家が多い上、津波や原発事故で元の土地への再建が難しくなった為、復興住宅のニーズは高いと言える。他方で復興住宅は、抑々、ある程度の空き室が出るのは避けられない。仮に当初の入居率が100%だとしても、死亡や退去でどの程度空きが出るかや、新たな入居希望があるかを予測するのは困難だからだ。高台等での自宅再建への支援を強化すれば、復興住宅の数を相当減らすことはできただろうが、現実的には難しく、意向確認を地道にやるしかなかった。多くの被災自治体は、空き室が増えた場合には用途を変更してデイサービスの拠点に利用する等、対策を考えているだろう。ただ、それも住民のニーズに合致するかどうかはわからず、実現性は不透明だ。各自治体は、国からの“復興加速化”のプレッシャーがある中で、復興住宅整備を急ぎ過ぎている面がある。スピードを競うのではなく、本当に住み易い住宅や住環境を作り出すことに今からでも力を注げば、少しでも空き室を減らすことに繋がるだろう。


≡読売新聞 2016年3月6日付掲載≡



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テーマ : 東日本大震災
ジャンル : 政治・経済

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